第一稿
愛知県に住む俺ことサイレンスさんは昼は学生、夜は仲間とドンチャン騒ぎと言う名のバイトに精を出す素敵な少年である。
素敵な少年という部分以外はすべて本当である。
何がどう素敵じゃないのかと聞かれれば性格面に問題があると答えるのだがE-Goの性格なんざ、みんなどっかしらクズでゲスだ。
何せ超常能力と同時にエゴを拡張されたのだから、性格面に何かしらの悪影響を及ぼすのは当然なわけで。
その結果が以前話した世界中で起きるE-Goが引き起こした騒乱の数々だ。
二十一世紀も間もなく四半世紀を迎えるというのに時は未だに世紀末。
ヒャッハーしたりされたり、殺したり殺されたりで世の中しっちゃかめっちゃかである。
そして現在時刻は夜十時。子供は帰って寝る時間だが、ここからは大人とE-Goの時間だ。
無軌道系E-Goであるサイレンスさんは今日も愉快な仲間と共にファミレスである。
「というわけで、今日はシロカミからお仕事が入ってるので皆さん頑張ってくださいね。それじゃあちょっと早いですが出発しましょうか」
……というわけで、今から俺達も出撃です。いや一寸待て。
俺のチョコバナナブラウニーパフェまだ来てねぇんだけど。
「俺の『カナダ産メイプルシロップたっぷりのパンケーキ』もまだ来てねぇぞー」
「あ!お姉さんお姉さん、もうひとつデザート追加ー!若鶏の竜田揚げ丼大盛りで!」
「それデザートじゃねえよ。主食だよ。ガッツリメインディッシュだよ」
全く……みんな俺を見習って静かにするべきだぜ。他のお客さんに迷惑だろうが。
「サイレンスは喋れないだけでしょう?それとスマートブックを早くテーブルから下ろしなさい。こいつらまた頼みやがったのでスペースが足りません」
へいへい。
渋々とスマートブックをテーブルから膝上に移動させ、パチパチとキーボードを叩く。
この敬語の似合う眼鏡少女の名前は鳴海ユイ。
俺達『ルーニーズルーム』の“リーダー”だ。
メンバーは彼女と俺を含め六人。ちなみに俺は“首領”で、他のメンバーはそれぞれ“隊長”、“司令官”、“ギルドマスター”、“征夷大将軍”である。
これだけ船頭が居れば富士山にも登れる、というのが我々の持論だ。
うむ、馬鹿の論理だな!
そもそもルーニーとは有名なサッカー選手ではなく、TRPGでネタに全力投球するキャラクタータイプの事だ。
ネタに魂を燃やすような人間性の持ち主がエゴを拡張された結果、この街では面倒くさいトラブルマッチポンプ集団として有名になってしまった。
後悔はしてないけどね!あ、すいませんパフェこっちでーす。
御馳走様でした。俺を殺すに刃物はいらぬ、甘味を二日も断てばいい、ってね。
さて、他の連中がまだメシに夢中なのでこの新世紀末ニッポンの状況について覚書がてら書いていこう。
現在の日本におけるE-Goの比率は十数パーセントほど。しかし治安の良さに定評のある日本では大きな暴動などは起こっていない。
ただ、それぞれに一定の規模の徒党を組み何かしらの行動をしているのが大半だ。
一例を挙げれば、E-Goの能力を使って多種多様なボラティア活動を行う北海道の『ノーザンヒーローズ』。
逆に完全なカラーギャングと化して西日本全域に勢力圏を持つ神戸の犯罪組織、『煉獄同盟』。
そしてE-Goの力でE-Goの犯罪を取り締まる東京発の自警団部隊『秩序の剣』などなど。
尤も、全国的に有名なのはこれらを含めて十にも満たない。
我ら『ルーニーズルーム』のような木端集団が全体の九割を占めている。
そして今夜もその木端集団同士の諍いが起こり吸収合併を繰り広げていると言う訳だ。
恐ろしく規模の大きな国獲りシミュレーションとでも言うべきだろうか。
戦ったり、手を取り合ったり、場合によっては殺したり、逆に命を救ったりして。
これから訪れる未来を大きく変えるであろうE-Goがこの国でどういうスタンスを取るのかが、この国獲り合戦で決まるのかもしれない。
ただ、俺達ルーニーズルーム……面倒なのでLRと略す。
LRがこの国獲り合戦を制する事は絶対にないと断言できる。
理由は単純で、俺を含めた六人に一切その気が無いからだ。
基本馬鹿しか居ないのだからE-Goの未来だとか、国の行く末なんか考えたら頭から火を噴いて終了だ。
じゃあ俺たちは何をやってるかと言えば他の組織からの依頼を受けて動くなんでも屋。
そして今回の依頼はと言うと。
「みんな満腹ですか?それじゃあ、改めて今回の依頼について改めて説明します。依頼主はいつもの『シロカミ放送局』です。さっきも言いましたが」
「シロカミ、また無茶ぶりしてくるんだろうな……ああやだやだ……」
話し始めたユイに対していきなり愚痴っぽい事を言い出すのは“隊長”こと牛田レオ。牛なのか獅子なのかどっちやねん、とよく言われる人だ。
レオがこんなに憂鬱そうな声を出す理由は依頼主がシロカミ放送局だからだ。
この街では中規模の中立組織シロカミ放送局は、その名の通りE-Goの能力をフル活用して様々な番組をインターネット上で放送している。
抗争の生中継から、大規模組織のメンバーへのインタビュー。変わった所だとE-Goの頑強さを盾にしたた体張り過ぎ系バラエティ番組だったり。
「細かい事はいいから面白い物を撮りたい」が彼らの掲げる運営方針だ。
この方針が我らLRと相性がいいので彼らの撮影の手伝いをする事が多い。
結果、最も運動能力の高いレオの負担が大きくなるのだ。カメラマン役が多いし。
俺?俺はアレだよ、スマートブック持ってるし編集の手伝いだよ。後方支援万歳だね。
「無茶振りって程じゃないですよ。『ナイトメアドッグ』と『ブラッドモンキー』の最終決戦が“また”あるから生中継の手伝いを、との事です」
「……あいつら何度目の最終決戦だよ……」
「三か月ぶり七回目よ。あの子らも懲りないわよねぇ、本当に」
ユイの説明を聞いて呆れた表情でコーヒーを啜る少年は“司令官”こと一宮シュラク。最初に聞いた時は浮世絵画家っぽい名前だと思った。
彼こそLRの誇る最後の良心である。つまりユイとレオでも最後の良心足り得ない部分があるという事の証左でもあったりする。
そして苦笑いを浮かべるお姉さんっぽい仕草のホスト風青年が最年長にして“ギルドマスター”こと津島マキト。
苗字の最後と「名前の最初を取ってママ」なんて言われているが、リアルにオカマバーのチーママの座を二十一歳の若さで務めている。
そしてこの人、男女問わずモテるんだから凄い。顔も性格も百点満点で男心も女心も理解出来ることから『チートママ、略してチーママ』なんじゃないかと。
なお、“征夷大将軍”は竜田揚げ丼に夢中な摂津カナエ。あ、一応女の子です。肉と米に魂を囚われた大飯喰らいですが。
今回は抗争の生中継だが殺伐とした、危険度の高い中継にはならなさそうなので内心ほっとする。
何せ、『ナイトメアドッグ』『ブラッドモンキー』は両チームとも所謂非行少年系グループなのだが、規模はどちらも小規模だ。
オマケにママも言ってた通り最終決戦と称した抗争を六回繰り返しているが死者ゼロ名、怪我人数名というやたら被害の小さな抗争ばかりだ。
言ってみれば世界的に有名なネズミとネコのアニメ同様「仲良くケンカしな」状態なのだ。
チーム名通りの犬猿の仲にも関わらず、こんな調子なのは全国的にも珍しいらしくコアなE-Goファンからは隔月イベント扱いされている。
《ソレジャソロソロ行キマスカ》
スマートブック上で機械音声ソフト「ロボボイス君四号機」を起動し、全員にそう促すとダラダラと立ち上がるLRの皆さん。
「あ、待って!まだ食べ終わってない!」
「カナはいつまで食べてるんですか。あと竜田揚げ丼なのに米だけ完食してるってどういう事ですか」
「好きな物は最後まで残す派なの!」
「あら、私もよ」
「俺は先に喰っちゃう派だな」
「私もですね」
《俺モダナ》
「……飯はバランス良く喰えよ、お前ら……」
バランス派がシュラクしかいないあたり実にLRっぽくていいなぁなんて思ったのでした。
規模は極小でも尖り具合なら全国トップ、それが俺達ルーニーズルームだ。
あ、支払いはママがしてくれました。流石社会人だ、財布の厚さがケタ違いだぜ!
第一話完成と同時に投稿したので、続きは少し先になりそうです。
気長にお付き合い頂けますと幸いです。
※誤字脱字修正漏れなどを修正しました(3/31)