おやすみブルース
地上ではフクロウが鳴いている時刻。
月明かりなど届かないこけにも夜が来た。
ぐーすかぴー。
寝息である。
「…………」いくつもの視線の先、
すやすやすー。
パンは寝ていた。
「おい、起こしてやれ」
「起きなさい」
「ふぁっ」軽く揺すると起きた。
神獣少年の口からは白い糸。どこからか出した黄色のハンカチでそれをぬぐうパン。
他一同、何事もなかったかのように仕事を再開しだす。書類をめくったり、隣と話をしてみたり。
「あの」
そう装う大人達に、パンは呼びかけた。
「最近眠れなくて、夜」
神獣は昼起きて夜眠るのである。彼らの基本的な性質だ。
「俺は、ここ数百年、朝寝てるぞ」
「吸血鬼だからでしょ」
吸血鬼はもとは、朝三時から正午あたりまで寝ていたのだが、サタンに「もう少し昼間に活動してくれるとありがたい」と言われ、生活リズムをずらしたのである。
「なんか、変な夢見て、ゾッとして、どうも心地が悪いんだ」
「夢?」他一同、装いをやめる。
「薄寒い夜、石の階段をずーっと上がっていくんだ。すると先に、金髪の女の子がいるんだ」
「まさか、顔がないのか!?」
「女の子が、変なんだ。様子がおかしくって、髪振り乱している。殺気というか、怨念というか、そういうものが伝わってきて、ふりむくと……」
「顔がないんだな!! うおっ!?」
デューラーは叫んだ。なんと首がない。
「首、じゃなかった、顔はちゃんとあるんだ。でも、その表情がおそろしくって、目の裏に焼き付いて、もう大変なんだ……」
溜め息。子どもといえど、ウン百歳である。
「その女の子は、
『あのヤロー、ブッ殺すぅ! バラバラの! 血ィドロドロにィ! 臓は千切って肉はもいで、血管で縄跳びしてやる! 待ってろよ!』と、一息で叫んでる……
ボロボロの人気に蹴りを入れて、絶叫しているんだ……」
「うわあ…………」
「エグいな……」
「そうでしょ、本当、困ってるんだよ」
さらに困ることになったパン。
とりあえず今、空気が薄い。暑苦しい。と、っと疲れが押し寄せる。
「なんで?」
「みんな、パンをゆっくりさせたいのよ」
「今、夜の十時半なんだけど」
「俺の活動時間の範囲内だ、大丈夫!」
「僕がダメなんだよっ」
少年のベッドルームに成人すし詰め。押し入られて、むしろ目が冴えてくる。
なぜ、仕事先の人々がプライベートルームにいるのか。
「せめておっさん、羽しまってよ。抜けたやつが散らばって汚いよ」
「大丈夫よ、ダークシルフをダースで呼んだから」
「むしろダメだって!」
宥めるように言うラーラに反論する。
ダークシルフはうるさい。ふつうの聖霊シルフは心優しい穏やかな性格なのだが、ダークがつくと、ぺちゃくちゃ悪口ばかり言う、イヤァな女を指すのだ。
いいとこ育ちの少年には耐えられないだろう。
「まあ、兎に角、眠れるようにしてやろーぜ」
羽で床を汚してもお構いなしな施良布であった。
「わたくしが絵本を読みますからね。はやく布団に入りなさい」
ラーラは絵本を三冊出した。
「柿太郎とすなはま太郎とかめ太郎を読んであげる」
「太郎ばっかりやだよっ!」
「そうしてかめ太郎はカイコの遺伝について調べて成功しました。ちゃんちゃん」
「教科書読んでるみたいだった」
「まあ、面白くなかったの? サタンさまは三冊とも好きだったのに」
「みんなだって寝てるもん」
「まったく、ダメ男の集会所ね…」
「もういやだよ! 知らないよこいつら! …………」
ごろんと体を傾けて横になるパン。
…………。
…………。
寝息が聞こえる。
「疲れていたのね」
ラーラは部屋をそのままに、帰って行った。
〇次回予告〇
でんでんでんでんちゃっちゃらちゃー。
ヤツが近くにいるんだ、何があってもおかさくはない!
こないで! はなれて! 結局何がしたいの?
母と一つに? いいえ、星と、です。
北に疑う一行あれば、遠距離で話して否定する。
南にリユニオンを知らない主人公あれば、ていねいに「ジェノバはリユニオンするものだ」と教えてあげる。
東に夢見る義士あれば、行って夢をもぎ取ってみる。
西に半ば命を捨てる剣士あれば、行って倒して我が物に……はしない。
次回りんご黙示録
死は夢の終わり…絶望か!?
全裸で君臨できるのがM川氏クオリティー!