異世界にこそ厚生労働省が必要!異世界労働事件簿!2
人気が出たので第二弾です。
前回、自分の有用性を国王や宰相に認めさせたシオンは新たに『厚生労働省』という部署を立ち上げた。
そして、前回の案件から2ヶ月ほど経ったある日、シオンの秘書としてホワイト・セイント子爵令嬢が働いていた。
「シオン様、今日の要件なんですが、この後メアリー・アフェア侯爵夫人が来訪されます」
アフェア夫人・・・あ、確か───
「ホワイトさんと1つ違いの方でしたね」
「はい。学園でも少し有名な方でしたから覚えています」
「ふむ?ならメアリー夫人が来たときは下がっていて。顔見知りだと相談しづらいこともあるでしょうから」
「確かに。かしこまりました」
「それと、あなたの知るメアリー夫人の情報を教えてちょうだい」
それからしばらくして、時間通りにメアリー夫人が到着した。
「お初にお目に掛かります。メアリー・アフェアでございます」
「ご丁寧にありがとう。シオン・ノーマルです。ここには私達しかいないのだから、気を楽にして下さい」
「ありがとうございます」
メイドに『特別なお茶』の用意をさせて下がらせた。
「それで、ご用件というのは?」
「それが、少し言い辛い事なのですが、私は結婚してもうすぐ一年になります。夫とは良い関係を築けていると思っていたのですが、最近、夫の様子がおかしくて」
「ふむ?詳しく教えて下さい」
メアリー夫人がいうには、最近になって急に帰りが遅くなった事。知り合いから夫が知らない女性と親しげに話していたことなど挙げた。
「それだけでは判断が付きませんね。他に気づいたことはありませんか?」
「そうですね・・・そういえば、もうすぐ結婚1年を記念してパーティーが開かれるのですが、今までは自宅のお茶会や催しものは女主人の私が采配していたいのに、今回は夫が全てを仕切ると言って関わらせてはくれないのです」
なるほど。
「少し考えをまとめます。お茶が冷める前にお飲み下さい」
メアリー夫人は少しホッとしてようやくお茶に手をつけた。
その様子を見て、シオンは思った。
『くだらない』と。
少しして考えるポーズを止めたシオンは思ったことを言った。
「だいたいわかりました」
「本当ですか!」
メアリー夫人は前のめりになって言い返した。
「ええ、ただ一つだけ教えて下さい。『どうしてここにきた』のですか?」
「それは、ホワイト夫人の話をお茶会で聞いたものですから」
シオンは深くため息を吐いた。
「今回は助力しますが、勘違いしないでください。ここは不当に扱われいる女性を助けたり、困窮している貧困者を助ける場所です。浮気調査の探偵事務所ではありません。周りのお友達にもしっかりとお伝えください」
「は、はい。かしこましました」
シオンの有無を言わせぬ迫力に、逆らってはダメだと本能が理解したメアリー夫人は頭を下げた。
「取り合えず一週間ほどお時間をください。こちらで調べます。早ければもう少し早くご報告できるでしょう」
「本当ですか!ありがとうございます」
メアリー夫人が帰った後、ホワイトさんが尋ねた。
「まさかシオン様の組織がそんな風に思われていたなんて驚きです」
「あれはものは試しでってところでしょうね。しっかり釘を刺して置いたし、次から興味本位でくる者は減るでしょう」
「それでどうなさるのですか?」
「もう答えは出ているわ。後は裏付けを取るだけよ」
!?
「もうメアリー夫人の相談を解決されたんですか!?」
えっ、話を聞いただけですよね?
「アフェア侯爵の事は知っているのよ。誠実でお人好し。側近や執事がしっかりしているから騙される事はないけど、善人よ。そんな彼が浮気なんてありえない」
「では女性と一緒にいたという話は・・?」
「仕事上の取引相手か、結婚の一周年記念のプレゼント選びでしょうね。仕事中は側近が側にいるのに、女性と2人っきりになれる訳がないのよ。どうせ下品なお茶会の『お友達』に言われたのでしょう」
ホワイトは驚いた顔でシオンを見た。
「では今度の屋敷で行われるパーティーに関わらせなかったのは・・・」
「多分、サプライズか何か考えているのでしょう。まったく人騒がせな夫婦だわ」
シオンは口元を緩めながら言った。
「では全てはメアリー夫人の勘違いという事だったのですね。よかった」
ホワイトは安心した顔をしたがシオンはならなかった。
「問題はその後でしょうけどね」
「後ですか?」
「メアリー夫人はおそらく妊娠しているわ。まだ目立ってはないけれど」
!?
「なぜ妊娠していると?」
「メイドに出させた紅茶、少し変わっていてレモンを入れるの。メアリー夫人は淑女教育を受けているのに、そのレモンの果樹を直接口に入れたのよ。紅茶に入れずにね。妊婦の典型的な行動よね。それに妊娠すると色々と心配事があるように情緒不安定になるでしょう?メアリー夫人にはその全てが当てはまるから」
「シオン様、凄いです!」
「後はその裏を取るだけよ。そう、その裏をね・・・」
シオンの不適な顔に首を傾げる。
「何か含みのあるいいかですね?」
「ふふっ、あなたの情報を信じるなら、面白いことが起きるわよ」
メアリーは在学中、かなり遊んでいたことで有名だった。
結婚して派手な遊びは控えるようになったのか?と、思うがそうではない。
表向きは隠しているが、仮面舞踏会など、顔を隠して遊んでいる情報は掴んでいる。
アフェア侯爵との年齢差は5歳。学生時代は交わっていないし、メアリー夫人も、猫を被ってうまく隠したのだろう。そして妊娠したのも事実だが、『父親まで同じ』とは限らない。
もしかしたら、自分の夜遊びを旦那さんが調べているのではと不安になったのかもしれないわね。
生まれた子供の髪の色が夫婦と同じ金色ならわからないだろうが、別の色だったら・・・
まぁ、自業自得よね。裏付け調査は部下にやらせて終わりよ。
バンッ!
『厚生労働省、対象外案件』
そう書かれたハンコを押して資料をファイルに閉じるのだった。
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またとある日──
「シオン様、今日はとある商会の会長さんからの相談です」
「ようやく会社絡みの依頼がきたわね」
「内容は、社員の誰かが横領しているようだが、特定まで出来ていないので相談に乗って欲しいそうです」
来たわね!
こういう依頼を待っていたのよ!
シオンはやりがえのある仕事がきたと内心で喜んだ。
いえ、喜んではダメね。
しっかりと犯人を見つけないと!
これを期に社会福祉にも力を入れたいわね。
こうして依頼人がやってきた。
「初めまして、シルク・マリン商会のオーシャンと申します」
「こちらこそ、シオン・ノーマルです。ではさっそくお伺いしましょう」
シルク・マリンは大手の輸入品を扱う商会だ。
船で海向こうの国から商品を運んでくる。
我が国ではほとんど栽培されていない『絹』も運んで来てくれる。
会長さんは60歳を過ぎたくらいの年齢で、ガタイの良い身体付きで、元軍人と言ってもわからないほどの筋肉もある。若い頃から船乗りとして肉体労働してきたようで、今でも現役らしい。
「それで内偵を進めていたが、最終的に犯人が見つからないと言うことでしたね?」
「はい、一度の売上の差額はそれほど大きくないのじゃが、立て続けに差異が出てくると無視できない大きさになりましてな」
ふむふむ。
「それで怪しい人物くらいは特定したんでしょ?」
「流石ですな。実は───」
大きな取り引きの時に、金額が合わなくなる事から、次期会頭候補の2人が怪しいと言う事になった。
「ワシが居なくなっても商会を任せる事のできる者として育てているのじゃが、ワシがいない時に大きな契約を任せているのじゃが、この2人が携わった契約の時に売上金がズレるのじゃ」
「単純なミスではないと?」
「一度くらいなら確認不足だと叱りつけるが、こうも連続で合わないと流石にのぅ~」
なるほど。
「話を聞くに、横領の手口もわかっていないようね?だから犯人を特定できないのね?」
「恥ずかしい話、そのとおりじゃ」
シオンは2人の情報を聞いた。
1人目は、『スキャム』
見た目や言動は少しチャラい感じのする男子だが、仕事は真面目で、特に自分の仕事道具は常に持ち歩き、何処でもすぐに商談に入れるように心がけている人物。話術も上手く周囲の信頼もあるとの事。
2人目は、『シンセリティ』
誠実さを売りに、どんな商談でもお互いに納得するまで話し合う性格の女性。やり手のキャリアウーマンっぽい知的な感じの人物。決して自分だけ儲け過ぎない様に相手にも利益付与を模索し、次回の契約に繋げる考えのため、リピート契約率が高い。
「こんな感じの2人ですかな」
ほうほう?
「聞いた話だとスキャムさんの方が怪しい感じがするけど、スキャムさんの仲間が勝手にやったと言う事はないの?」
「本人ではなく、部下が行っている可能性じゃな。しかし意外にもスキャムは商談には慎重での。商品の大きさを測る自分専用の『ものさし』や、金貨の枚数も相手に数えさせて『測り分銅』に載せて測るのを徹底させておる。普通なら間違える訳がないのじゃよ。よって部下が勝手に金貨を着服するといったことは不可能なのじゃ。無論、金貨をしまう金庫の鍵は2人しか渡しておらんしの」
なるほど。相手に数えさせれば後からイチャモンも付けられないって訳ね。
「逆にシンセリティは商談に時間をかけ過ぎることが多くてな。俊敏さに欠ける。商品が腐らない物ならいいが、果物など時間経過でダメになる物の商談は苦手としている。しかし取引した商品は自分で2回再確認する性格だ。故に商品の数を間違える事はない」
話をまとめるのに時間が掛かるタイプね。
片方は取引の金貨を相手に数えさせて売上金を間違えない。
もう片方は取引した商品を2度数えて商品の数を間違えない。
(ただ自分で確認するので数の変更など自由に出来てしまう)
ふむ?
一つ可能性があるけれど・・・
あ、こう言うのはどうかな?
「犯人が特定出来ないのなら罠に嵌めましょうか」
「ほぅ?それはどういう?」
「内偵を勧めている事はおそらくその2人も気づいているでしょう。なので商品の取引をした時の『受領印』に細工をするのです」
商会の受領印は金細工で出来ており、簡単に細工は出来ないようになっている。
悪用を防ぐためである。
シオンはオーシャン会長に策を授けた。
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そして1ヶ月後──
「あら?オーシャン会長、お久しぶりですね」
「シオン姫殿下、その節はお世話になりました」
オーシャン会長は晴々とした顔でやってきた。
「ご機嫌ですね。どうやら横領の犯人がわかったのですか?」
「はい、全てはシオン姫殿下のおかげです。ありがとうございました」
深く頭を下げた。
「それで事の顛末を教えてもらえますか?」
「はい、結論から言うと犯人はスキャムでした。アイツは『測り分銅』の重さを変えていて10キロの重さを11キロにしてその差額を懐に入れて、自分の支持者に次期会頭に自分を推すよう金銭を渡していたそうだ。
自分ときのみだと疑われてしまうので、受領書をライバルであるシンセリティの物と交換していたらしい。
輸入品は量が多い。一キロのズレでも何トンもあれば金額は大きくなる。
そしてどうしてそれがわかったかと言うと、前回、会長さんの頼んで新しい受領印を2つ作ってもらったのだ。
ぱっと見はわからないが、文字が最初と最後、ハネてあるかないかの細工をして。
ハネてある文字の受領印がスキャム、ハネてないのがシンセリティのほうだ。
無論、その事実を知っているのは会長さんだけ。
そしてこの1ヶ月調べたところ、シンセリティの受領書にスキャムの受領印が押してある受領書が混じっていたことで発覚したと言うわけである。
会長さんはスキャムを見捨てず、一から下っ端から鍛え直すと息巻いていた。
どうやら自分の息子のように思っていたようだ。スキャムもその想いが重荷となって、実力ではなく不正でライバルを蹴落とそうとしたみたい。
まぁ、会長さんが良いならこれ以上は私から言うことはないでしょう。
シンセリティさんの方も、部下が信用できないなら、自分で数えるのではなく、2人の部下にそれぞれ数えさせれば自分の時間が作れると提案してみた。シンセリティさんにも問題があり、自分でした方が早いからと何でも自分でしてしまう、それでは下が育たない。会長に注意してもらいシンセリティさんも商売ではなく、部下や仲間の付き合い方を勉強し直している。
こうしてシルク・マリン商会の横領事件は、内々に処理され円満解決となった。
それでも我が厚生労働省の提案と助言を受けて解決したと宣伝してくれたので、今後似たような案件の依頼が増えるのはもう少し後になってからである。
厚生労働省・異世界労働事件簿!2
【解決!】
シオンは、バンッとハンコを押して終了ファイルに閉じたのだった。




