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第11話 白い気配と音の途切れ

白い光がゆれる。

俺の足元には、黒い音住たちが遠巻きに揺れていた。

どれも音がなく、ただ“存在の影”みたいに震えている。


その中心に――白い輪郭があった。


ゆっくり、ゆっくりと、

まるで世界の“静寂”から滲み出してくるように、それは形を取った。


父さんだ。


いや、“かつて父さんだった気配”と言ったほうが正しいのかもしれない。

姿は揺らぎ、線のように細く、白い光の中に溶けかけていた。


俺が一歩近づくと、周りの黒い音住がすっと後ろに引く。


――拒まれてるわけじゃない。

白に道を譲っているようにも見えた。


「……来たんだな、【俺の名前】。」


白い輪郭から声が流れた。

でもそれは音じゃなかった。

頭の奥に直接“意味”だけが落ちてくるような、不思議な感覚。


「父さん……なのか?」


「そう呼ばれていた……そんな気がする。

 覚えているものは、もう多くないけれどな。」


光が微かに揺れるたび、父の面影がちらついた。


「父さん……どうしてこんな……」


問いかけた瞬間、白い気配が苦しげに震えた。


「【俺の名前】。

 時間が……“音の途切れ”に近づいている。」


“終わり”じゃなく、“途切れ”。

その言い方に妙な重さがあった。


「途切れ……?」


「この静寂に飲まれる前に……

 お前は、選ばなければならない。」


「選ぶって……なにを?」


少しの間、白い光は答えずに揺れた。

その沈黙は優しいけれど、どこか切迫している。


「お前自身の“音”だ。」


「俺の……音?」


「守るのか――手放すのか。

 どちらを選ぶかで、お前の行く先は大きく変わる。」


“音を手放す”。

その言葉が胸の奥にひっかかった。


「父さん……お前も、その“音”を手放したのか?」


白い影はゆっくり首を横に振った。


「違う。

 俺は……手放したのではなく、

 “途切れるのを止められなかった”。」


その瞬間、周囲の黒い音住たちがざわりと震えた。

音は無いのに、まるで風が吹いたみたいだった。


「父さん……」


言いかけた時、白い光がふっと近づいてきた。


「【俺の名前】……

 怖いだろう。

 でも進め。

 お前には“まだ聞こえる音”がある。」


そう言うと、白い気配はゆっくり俺の手を押すように――

奥の暗がりへと続く細い道を示した。


「……向こうに、答えがある。」


白い光が遠のき始める。


「父さん、待って! まだ言いたいことが──」


その時、白い光の端が“ぷつっ”と切れたように震えた。


「……すまない。

 ここで話せる時間は……もうすぐ“遮断”される。」


白い気配が消えかけながら、最後の言葉を落とした。


「選べ、【俺の名前】。

 自分の“音”を――守るのか、手放すのか。」


次の瞬間、光は完全に途切れた。


残されたのは黒い音住たちの揺れと、

あの、吸い込まれるような静寂だけだった。


俺は息をのみ、示された奥へと足を踏み出した。


──父の声が、そこで完全に消えた。




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