献身の誓い
場所を移し、カズマは宿屋の食堂でリリィから詳しい話を聞いていた。
温かいスープを前に、彼女は少しずつ落ち着きを取り戻し、ぽつりぽつりと自分のことを語り始めた。
「は、はい…。あ、ありがとうございます…!」
彼女の名前はリリィ。治癒師として日銭を稼ぎ、自分が育った孤児院の子供たちのために働いている。
しかし最近は上手くいかず、今日の治療費もあのチンピラたちに踏み倒されそうになっていたのだという。
「もっと腕のいい治癒師になれれば、もっとたくさんの人を助けられて、孤児院も楽になるのに…。私には才能がなくて…」
俯く彼女の言葉に、カズマは胸が締め付けられるような思いがした。
「本当は…世界一の治癒師になるのが夢、なんです。でも、才能のない私には、叶えられない夢ですけど…」
彼女は自嘲するように笑った。だがその瞳の奥には、諦めきれない強い光が宿っていた。
力がないから夢を諦める。その悔しさ、その絶望を彼は知っていた。前世の自分がそうだったからだ。
カズマは何も言わず、テーブルに置いてあったただの石ころを拾い上げる。
そして頭の中で錬金術の知識を『完全学習』した。
物質の構造を理解し、魔力で再構成する。彼の無限の魔力があれば理論上はどんな物質でも作り出せる。
手のひらに魔力を集中させる。
石ころが内側から発光するように淡い光を放ち始めた。リリィが息を呑むのが分かった。
光が収まった時カズマの手のひらにあったのはただの石ころではなかった。
夜空の最も美しい部分を切り取って固めたかのような一点の曇りもない見事なサファイア。
「これを売れば、孤児院の運営も少しは楽になるはずだ」
カズマがそれを差し出すとリリィは震える手で受け取った。
「こ、これは…!? まさか、錬金術…!?」
リリィは目をこれ以上ないほど丸くして手のひらの宝石とカズマの顔を交互に見ている。
やがてその大きな瞳から堰を切ったようにぽろぽろと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ありがとうございます…! これで、これでみんなが…!」
リリィは宝石を胸に抱きしめ、何度も頭を下げた。
カズマは彼女の夢を応援したいと心の底から思った。
このチート能力は自分のためだけじゃない。誰かの夢を叶えるためにこそ使うべきなんじゃないか。
「リリィ」
カズマは真剣な眼差しで彼女を見つめた。
「君の夢、俺が手伝う。世界一の治癒師になりたいんだろ?」
「え…?」
「俺と一緒に来い。俺の知るすべてを教えてやる。君なら、きっと最高の治癒師になれる」
カズマの言葉に、リリィはハッとして顔を上げた。
その申し出は、彼女にとって何よりも魅力的だった。
この人となら、本当に夢が叶うかもしれない。
だが、彼女の足は孤児院という場所に繋がれている。
「でも、私には孤児院が…子供たちが…」
俯くリリィに、カズマは優しく微笑んだ。
「大丈夫だ。それも何とかする」
翌日。カズマはリリィを連れて孤児院を訪れた。
老朽化した建物と、石ころだらけの痩せた畑を一目見て、カズマは頭の中で必要な知識を思い浮かべた。
――ピロン。
【スキル『建築術 Lv.MAX』を習得しました】
【スキル『土壌改良 Lv.MAX』を習得しました】
【スキル『畜産 Lv.MAX』を習得しました】
彼は習得したばかりのスキルを惜しみなく使い、建物を瞬く間に修復し、畑を豊かな土壌へと変えた。さらに、わずかな手入れで育ち栄養価も高い芋や野菜の種を植える。
昨日渡したサファイアを元手に、毎日新鮮な卵を産む鶏を十数羽購入し、習得したばかりの知識で最適な飼育方法を伝授した。
子供たちの歓声と、院長先生の感謝の涙に包まれながら、リリィは自分の心が軽くなっていくのを感じていた。
カズマの方を振り返る彼女の瞳は、感謝と感動で潤んでいた。
そんな彼女に、カズマは優しく語りかける。
「リリィ。君はもう、自分の夢を諦める必要はないんだ」
その言葉が、リリィの心に最後の光を灯した。
彼女はカズマの前に立つと、改めて深々と頭を下げた。
今度のそれは、感謝だけではない。揺るぎない決意の表明だった。
「カズマさん。私の夢のために…どうか、一緒に旅をさせてください!」
その瞳にはもう迷いはなかった。
カズマは頷き、彼女の手を取った。
「もちろんだ。その夢、一緒に叶えよう」




