理想郷の創造
夜が明けた。
アヴァロンの地に新しい朝が来た。
昨夜までの戦いが嘘のように、空はどこまでも青く澄み渡っている。
領主の館の前には、解放の喜びに沸く民衆が広場を埋め尽くしていた。
その顔には、これまでの圧政から解放された安堵と、未来への微かな希望が入り混じっている。
その中心で、イリスは民衆を代表するように、俺の前に深く膝をついた。
「カズマ様。貴方様こそ、このアヴァロンを導く新たな光です。どうか、私たちの新しい領主になってはいただけないでしょうか」
その言葉に、民衆も「そうだ!」「英雄様が領主に!」と地鳴りのような声で叫び、俺に懇願する。
「もう飢えたくねえんだ!」
「子供たちがモンスターに怯えずに眠れる夜を!」
人々の切実な声が、波のように俺に押し寄せる。
俺の目標は、あくまで安住の地でのスローライフ。領主なんて面倒事はごめんだった。
前世で社畜として働き詰めだった俺は、責任ある立場から逃れ、自由気ままに生きたいと願っていたはずだ。
だが、俺の隣に立つ仲間たちの顔を見る。
その考えは揺らぎ始めていた。
リリィもセレスもティナもルーナもアヴァロンを何とかしたいと考えているようだ。
そしてイリスは祈るような瞳で俺を見つめている。
俺一人の安楽なスローライフではなく、このかけがえのない仲間たちが、それぞれの夢を追いかけ、輝ける場所。それこそが、俺が本当に築きたかった世界なのだ。
「……分かった。引き受けよう」
俺の決断に、割れんばかりの歓声が上がった。
こうして、俺はアヴァロンの新たな領主となった。
まず俺は、領主の館の書斎を司令室に変えた。
「ルーナ、この領地にある専門書を集めてくれ。都市計画、治水工学、農学、法律、経済学…ジャンルは問わない!」
「待ってました!」とばかりに、ルーナは目を輝かせて書庫から山のように書物を運び込んできた。
俺はその書物の山を次々と『完全学習』していく。
俺の脳内に、人類の叡智が凄まじい速度でインストールされていった。
翌日、俺は民衆の前で最初の演説を行った。
「難しい話はしない。約束することは三つだ。第一に、誰も飢えさせない。第二に、誰もが安心して眠れる夜を取り戻す。第三に、この街を豊かで活気のある場所にする!」
そして、俺は言葉だけでなく行動でも示した。
俺は生命力を吸われて枯れ果てた畑の真ん中に立った。
そして、大地に手を触れ、『土壌改良』と『地脈活性化』のスキルを発動させる。
黒く乾いていた土が、みるみるうちに豊かな黒土へと変わっていく。
「おお…!」「土が…生き返っていく…!」
民衆は、目の前で起こる奇跡に言葉を失った。
さらに俺は、崩れかけた家屋の前に立つ。
『建築術』の知識を元に、修復作業の陣頭指揮を執った。
最初は遠巻きに見ていた民衆も、一人、また一人と、自発的に作業に加わり始めた。
それは、民衆が英雄をただ眺めるのではなく、新しいリーダーへの信頼へと変わった瞬間だった。
国創りは、仲間もそれぞれ協力してくれた。
「診療所を開きます! 誰もが治療を受けられるようにするんです!」
リリィは目を輝かせ、領主の館の一角に診療所を開設した。受診する市民が日々絶えない。
彼女の慈愛に満ちた活動は、民の身体だけでなく、荒んだ心をも癒す大きな支えとなっていった。
「警備隊を設立する。規律を私が一から鍛え直す。このアヴァロンを、二度と脅威に晒させはしない」
セレスは新設された警備隊の隊長兼指南役として練兵場に立っていた。彼女の剣技と規律で警備隊の練度はメキメキと高まる。
彼女が鍛え上げた警備隊によって、領地周辺のモンスターは一掃され、アヴァロンに安全がもたらされた。
「まずは市場の復活だな! この街にモノを呼び込むぜ!」
ティナは持ち前の行動力と意外な商才を発揮し、商業ギルドのトップに収まっていた。
彼女は自ら市場に立ち、威勢のいい声で客を呼び込み、寂れた広場に活気を取り戻す。
珍しい特産品がアヴァロンに流れ込み、経済は驚異的な速度で活性化していった。
「古代の技術を応用すればもっと豊かになるわ。私の知的好奇心は尽きないわね」
ルーナは技術顧問として、領主の館に併設した研究所に引きこもっていた。
魔力を動力源とする上下水道。夜道を煌々と照らす魔導灯。農作業の効率を引き上げる自動耕作ゴーレム。
彼女の発明は人々の生活を根底から変え、アヴァロンの発展を飛躍的に加速させた。
そしてイリスは、元王女としての知識と人脈を活かし、内政と外交のすべてにおいて俺を補佐してくれた。
俺が打ち出す政策を、現実的な制度としてまとめ上げ、民衆に浸透させていく。
また、近隣領主からの干渉や、王都からの使者に対しては、彼女が表に立ち、対応してくれた。
彼女の存在がなければ、俺の改革がこれほどスムーズに進むことはなかっただろう。
それぞれの夢を追いかける仲間たちの姿は輝いていた。
数ヶ月後。
アヴァロンは、かつての絶望的な辺境の領地から、大陸中の誰もが羨む豊かで平和な理想郷へと生まれ変わりつつあった。
街には活気が戻り、市場は人でにぎわう。
畑には作物が実り、子供たちの笑い声が聞こえてくる。
人々の顔には、希望に満ちた笑顔が溢れていた。
俺は、領主の執務室の窓からその光景を眺めながら、満足感を覚えていた。
「最高の仲間たちと、最高の場所。……悪くないな」
俺が求めていた安住の地は、ここにあった。
あとは、この幸せな日常を、彼女たちと共に謳歌するだけだ。




