遺跡探索とチート能力
翌日。
一行はルーナの案内で、大図書館の地下にある厳重に封鎖された区画へと足を踏み入れていた。
その最奥に、遺跡への入り口はあった。
「昨夜はちょうど満月だったから、扉は開いているはずよ」
ルーナが言う通り、古代文字が刻まれた巨大な石の扉は、わずかに開いている。
「ふん、運が良かっただけだ。本来なら、月の周期を計算し、厳密な儀式を経て開くべきものだ」
同行してきたヴィクトルが、不機嫌そうに呟く。
一行が内部に入ると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
通路は驚くほど広く、天井も高い。壁や床は継ぎ目のない滑らかな素材でできており、時折、壁に埋め込まれた水晶が淡い光を放っている。
「すごい…! まるで、一つの街みたいですね…!」
リリィが感嘆の声を上げる。
「気を抜くな。ここから先は、魔術トラップの巣窟だ」
セレスが剣の柄に手をかけ、警戒を強める。
しばらく進むと、一行は最初の関門に突き当たった。
広大なホール。その床一面に、複雑な幾何学模様が刻まれている。
「これは『調和の天秤』。床のタイルを踏む順番を間違えれば、即死級の雷撃が降り注ぐわ。正しいルートは、壁に刻まれたあの詩文に隠されているはず…」
ルーナが壁の古代文字を指差す。
「よし、私が解読しよう。最低でも三時間はかかるだろうが、それが最も安全で確実な方法だ」
ヴィクトルが自信満々に言うと、解析用の魔道具を取り出した。正攻法で、一歩ずつ謎を解き明かす。それが彼のやり方だった。
「三時間か…。日が暮れちゃうな」
カズマは呑気な声で言うと、ホール全体を一望した。
床のタイル、壁の模様、天井の構造。
この空間を構成する全ての情報が、彼の脳に流れ込んでくる。
――ピロン。
【スキル『古代遺跡構造解析 Lv.MAX』を習得しました】
「なあんだ。そういうことか」
カズマは一人で納得すると、スタスタとタイル張りの床を歩き始めた。
「なっ…!? カズマ、何を!?」
「馬鹿! 死にたいのか!」
ルーナとヴィクトルが同時に叫ぶ。
だが、カズマは全く意に介さず、まるで散歩でもするかのように、ひょいひょいと特定のタイルだけを踏んで進んでいく。
雷撃が落ちる気配は全くない。
彼はあっという間にホールの向こう岸にたどり着くと、振り返って手を振った。
「みんなー、俺が踏んだ場所と同じところを通ってくれば大丈夫だぞー」
「……うそ」
ルーナは呆然と呟いた。
「ありえない…。なぜ、彼に正解のルートが…? まるで、設計図でも見ているかのようだ…」
「ま、まぐれだ! たまたま運が良かったに過ぎん!」
ヴィクトルは顔を真っ赤にして叫ぶが、その声は震えていた。
一行はカズマが示したルートを通り、最初のトラップを難なく突破した。
その後も、カズマの快進撃は続いた。
壁から無数の毒矢が飛び出す通路では、壁の構造を一瞥しただけで安全地帯を完璧に見抜き、
幻影で迷わせる広間では、幻影を生み出す魔術装置の場所を一瞬で特定して破壊する。
ヴィクトルは、正攻法でトラップを解析しようとするたびに、その数秒後にはカズマが力技とも言える『答え』を叩き出す光景を、何度も見せつけられた。
彼のプライドは、ズタズタに引き裂かれていく。
「もうやめろ…! それは邪道だ! 遺跡への冒涜だ!」
ついにヴィクトルが悲鳴のような声を上げた。
「我々魔術師は、先人の遺した叡智に敬意を払い、一つ一つ論理的に解き明かしていくべきなんだ! 君のやっていることは、ただの破壊行為に等しい!」
「そうか? でも、こっちの方が早いだろ?」
カズマは悪びれもせずに答える。
その言葉に、ヴィクトルはついに膝から崩れ落ちた。
自分の信じてきた正義も、積み上げてきた努力も、この男の前では何の意味もなさない。
「ふふ…あははは! 最高よ、カズマ!」
対照的に、ルーナは興奮を隠しきれない様子でカズマに駆け寄った。
「常識、理論、敬意…そんなもの、世界の真理の前では何の価値もないわ! あなたのそのやり方、最高に効率的で、最高にクレバーよ!」
彼女の瞳は、研究者としての純粋な好奇心と、カズマという存在への強い興味で、熱っぽく潤んでいた。
「カズマ、すげえな! さすが私たちのリーダーだ!」
「カズマさんのやることは、いつも私たちの想像を超えてきますね」
ティナとリリィも、誇らしげにカズマを見つめる。
セレスは何も言わなかったが、その横顔には「またこいつは…」という呆れと、どこか納得したような笑みが浮かんでいた。
こうして、本来なら数ヶ月、いや数年かかるはずの遺跡探索は、カズマという規格外の存在によって、わずか数時間でその最深部へと近づいていく。
その先に待ち受けるものが、この世界の根幹を揺るがすほどの「真理」であることを、まだ誰も知らなかった。




