学園都市ライブラリア
模擬戦闘でパーティとしての結束を確固たるものにした一行は、順調に旅を続けていた。
街道は綺麗に舗装され、治安も良い。時折すれ違うのは、高価そうなローブをまとった学者や、真新しい制服に身を包んだ学生たち。
目的の街が近いことを、その光景が物語っていた。
やがて、地平線の先に巨大な白い城壁が見えてきた。
ゼノンのような武骨さも、ミコトのような異国情緒もない。
ただひたすらに白く、洗練され、知的な印象を与えるその街こそ、世界中の知識が集まる学園都市「ライブラリア」だった。
「わあ…! 今までの街と、全然雰囲気が違いますね…!」
リリィが感嘆の声を上げる。
城門をくぐると、その印象はさらに強まった。
街はまるで巨大な大学のキャンパスのようだ。
ゴミ一つ落ちていない清潔な石畳の道。整然と立ち並ぶ白亜の建物。
行き交う人々は皆、落ち着いた様子で書物を片手に議論を交わしたり、黙々と勉学に励んだりしている。
これまでの街で感じた、剥き出しの欲望や生命力といったものとは無縁の、静かで知的な空気が街全体を支配していた。
「へえ、すげえな! なんか頭が良くなった気がするぜ!」
ティナがキョロキョロと辺りを見回しながら言う。
「静かで良い街だ。だが、少し落ち着かなすぎるな」
セレスは、戦士としての本能からか、あまりに平和な空気に逆に警戒しているようだった。
カズマは、この街に来た目的を改めて仲間たちに告げた。
「俺のこの『完全学習』って能力…どこから来たのか、何なのか、知りたくてな。もしかしたら、古代の遺跡に何か手がかりがあるかもしれないと思ったんだ」
神から与えられた力。その根源を知ることは、この世界に来てからずっとカズマが抱いていた疑問だった。
「それなら、あそこに行くのが一番ですね!」
リリィが指差した先には、街の中心にひときわ高くそびえ立つ、巨大な塔があった。
塔というよりは、もはやそれ自体が一つの城だ。
世界中のあらゆる書物が収蔵されていると言われる、ライブラリアのシンボル「大図書館」。
一行は大図書館へと足を踏み入れた。
内部は、外から見た以上に広大だった。
吹き抜けの天井は空高く、壁一面が床から天井まで本棚で埋め尽くされている。その光景は、まさに圧巻の一言。
革とインクの匂いが混じり合った独特の香りが、カズマの知的好奇心をくすぐった。
「古代遺跡に関する資料は…あっちの区画かな」
カズマが案内板を頼りに歩き出した、その時。
ふと、視線を感じた。
振り返ると、少し離れた書架の陰から、一人の女性がこちらをじっと見つめていた。
陽の光を編み込んだような美しい金髪。森の湖のように深く澄んだ翠の瞳。そして、彼女が人間ではないことを示す、長く尖った耳。
エルフだ。
歳はカズマたちとそう変わらないように見えるが、その身にまとう雰囲気は、何十年も研究に没頭してきた老碩学のようでもあった。
女性はカズマたちの視線に気づくと、悪びれもせずにこちらへ歩み寄ってきた。
「あなた…すごいわね」
彼女はリリィやセレス、ティナには目もくれず、カズマの瞳を真っ直ぐに見つめて言った。
その声は、まるで鈴を転がすように美しかった。
「何がかな?」
「その身に宿す魔力量よ。まるで、歩く魔力炉心ね。ありえない。観測不能。私の知識では、到底説明がつかないわ」
彼女は興奮を隠せない様子で、早口にまくし立てる。
その瞳は、カズマという未知の研究対象を前にした、純粋な探求者の輝きに満ちていた。
「私の名前はルーナ。この街の学園で、古代魔術について教えているわ」
彼女はそう自己紹介すると、カズマの周りをぐるぐると回り、まるで珍しい標本でも観察するかのように彼を隅々まで見つめた。
「あなた、一体何者なの? その魔力、生まれつき? それとも何か古代の遺物でも取り込んだの? ねぇ、少しでいいから調べさせてくれないかしら?」
セレスとティナが、そのあまりに無遠慮な態度に眉をひそめる。
だが、カズマは怒るどころか、面白そうに笑っていた。
「俺はカズマ。ちょうど、古代遺跡について調べたいと思ってたところなんだ。君なら、何か知ってるんじゃないか?」
カズマの言葉に、ルーナの翠の瞳が、さらに強く輝いた。
「古代遺跡…ですって? 奇遇ね。私も、調査が行き詰まっている遺跡があって困っていたところなのよ」
彼女はニヤリと、悪戯っぽく笑った。
「いいわ、取引しましょう。あなたが私の研究に協力してくれるなら、私の知る遺跡の情報、全て提供してあげる」
最強の頭脳を持つ、エルフの天才魔導研究者、ルーナ。
彼女との出会いが、カズマ自身の力の謎と、この世界の真理に繋がる壮大な冒険の扉を開く、運命の鍵となることを、この時の彼はまだ知らなかった。




