四人の絆と模擬戦闘
ミコトの街を出発して数日。
一行は東の学園都市「ライブラリア」を目指して、緑豊かな街道を進んでいた。
「なあカズマ! 次の街にはもっと強い奴がいるのか!?」
パーティのムードメーカーとなったティナが、尻尾を揺らしながらカズマに尋ねる。
「さあな。でも、世界中の知識が集まる場所らしいから、面白い出会いはあるかもな」
カズマ、リリィ、セレス、そしてティナ。
4人になったパーティは賑やかになったが、カズマは一つの課題を感じていた。
それは、戦闘における連携力の不足だ。
特に、前衛を務めるセレスとティナの戦闘スタイルは、水と油ほども違っていた。
「よし、少し訓練をしよう」
街道から外れた開けた平原で、カズマは足を止めた。
「セレスとティナ、二人で組んで俺に攻撃を仕掛けてみてくれ」
「承知した」
「おう、任せとけ!」
セレスとティナは、カズマを敵に見立てて同時に斬りかかった。
だが、その連携はお世辞にも良いとは言えなかった。
セレスが理論に基づいた最短距離の剣筋でカズマを攻め立てれば、ティナが予測不能な軌道でそのラインに割り込んでくる。
ティナが獣のような瞬発力で懐に飛び込もうとすれば、セレスの剣がそれを妨害してしまう。
「おい、邪魔だ! もっと大きく動けよ!」
「貴様こそ、動きが野性的すぎて読めん! 少しは型というものを学んだらどうだ!」
二人はすぐに口論を始めてしまった。
「まあまあ、二人とも…」
リリィがオロオロと仲裁に入るが、効果はない。
「はい、そこまで」
カズマが静かに言うと、二人はハッとして口をつぐんだ。
「セレスの剣は、洗練されていて無駄がない。だが、それ故に動きが読まれやすいという弱点がある」
「ティナの動きは、予測不能で爆発力がある。だが、大振りで隙も大きい」
カズマは二人の戦いを『完全学習』し、それぞれの長所と短所を的確に分析していた。
「二人が別々に戦っても、個々の力以上のものは出せない。だが、組み合わせれば話は別だ」
カズマは二人に向き直る。
「セレス。君はティナの『盾』となり、敵の攻撃を捌き、確実に隙を作れ。ティナの動きを予測するな。彼女が動くための『空間』を作ることだけを考えろ」
「ティナ。君はセレスの『矛』となれ。セレスが作った一瞬の隙を見逃さず、君の最大の攻撃力で叩き込め。セレスを信じて、思い切り暴れろ」
二人はカズマの言葉に、目から鱗が落ちるような衝撃を受けていた。
自分の弱点を補うのではなく、互いの長所を掛け合わせる。それは、二人には全くなかった発想だった。
「…わかった。やってみよう」
「へっ、面白そうじゃねえか!」
二人の顔には、先ほどまでの険悪な雰囲気はなく、新たな挑戦への期待が浮かんでいた。
訓練が再開される。
今度は、見違えるようだった。
セレスが敵の攻撃を華麗に受け流し、体勢を崩す。そのコンマ数秒の隙を、ティナの鋭い蹴りが的確に捉える。
ティナが敵の注意を引きつけて大きく動き、その死角からセレスの剣が閃く。
「リリィ、二人を援護!」
「はい! スピードブースト! ヘヴィインパクト!」
リリィの補助魔法が、セレスの速度とティナの一撃の重さをさらに増幅させる。
「よし、仕上げだ」
カズマはニヤリと笑うと、地面に手をつけた。
『完全学習』した土魔法で、複数のゴーレムを練り上げていく。
「模擬戦闘だ。あのゴーレム部隊を、4人で殲滅しろ!」
ゴゴゴゴ…と地響きを立てて、10体のゴーレムが動き出す。
その動きは、ただの土人形ではない。カズマがこれまでに戦った敵の動きをプログラムした、高度な自律思考を持つ戦闘機械だ。
「うおおお、面白え!」
ティナが真っ先に駆け出す。
「待て、ティナ! 突出するな!」
セレスが慌てて後を追う。
最初は、ゴーレムの数の暴力に押され、苦戦を強いられた。
だが、カズマの的確な指揮が戦場に響く。
「セレス、ティナ、左右に展開して挟み込め!」
「リリィ、中央のゴーレムの動きを鈍らせろ! スロウ!」
「セレス、3時の方向のゴーレムの体勢を崩せ! ティナ、それに合わせろ!」
カズマの指示に従い、4人は一つの生き物のように連動していく。
セレスが作り出した隙を、ティナが打ち砕く。
リリィの補助魔法が、二人の力を極限まで引き出す。
そして、カズマが全体の戦況をコントロールし、敵の陣形を切り崩していく。
最後の一体が、ティナの渾身の蹴りとセレスの剣によって同時に砕け散った。
静寂が戻った平原で、4人は肩で息をしながらも、満足げな表情で互いの顔を見合わせた。
「へへ…やるじゃねえか、セレス!」
ティナがニカッと笑い、拳を突き出す。
「…そっちもな」
セレスは少し照れくさそうに、しかし力強くその拳に自分の拳を合わせた。
リリィも嬉しそうに二人に駆け寄る。
献身の治癒師、リリィ。
孤高の剣士、セレス。
野性の格闘家、ティナ。
そして、全てを束ねる最強の指揮官、カズマ。
ここに、それぞれの役割を持った「最強のパーティ」の原型が、確かな形となって誕生した。
彼らの旅は、まだ始まったばかりだ。




