罠と救出
カズマの言葉に力強く頷いたティナだったが、その夜、彼女は一人で宿屋を抜け出した。
カズマたちが眠っている間に、一人で決着をつけようとしたのだ。
仲間をこれ以上、自分の因縁に巻き込みたくない。その一心での単独行動だった。
だが、彼女の行動はカズマに完全に見抜かれていた。
「…行ったか」
ティナの気配が遠ざかるのを確認し、カズマはベッドから起き上がった。
「セレス、リリィ、起きろ。ティナが一人で行った。助けに行くぞ」
「あの馬鹿猫…!」
セレスは悪態をつきながらも、素早く剣を手に取る。
「ティナ…! ご無事でいてください…!」
リリィも祈るように杖を握りしめる。
カズマは昼間のうちに、黒蛇商会の幹部たちの動きからアジトの場所を特定していた。
街の港地区にある、寂れた巨大倉庫。そこが奴らの根城だ。
「ティナの気持ちもわかるが、無茶がすぎる。これは俺たちの戦いだ」
三人は夜の闇に紛れ、港地区へと急いだ。
その頃、ティナは黒蛇商会のアジトに潜入し、一人で戦っていた。
怒りを力に変えた彼女の格闘術は凄まじく、次々と用心棒たちを薙ぎ倒していく。
だが、多勢に無勢。次第に体力を消耗し、動きが鈍っていく。
「ハハハ! 威勢がいいのもそこまでだ、小娘!」
幹部のマルコムが、ティナの前に姿を現した。
彼の合図で、残っていた用心棒たちが一斉にティナに襲いかかる。
さらに、マルコムは卑劣にも、ティナの足元に麻痺効果のある毒煙玉を投げつけた。
「くっ…!」
毒煙を吸い込み、ティナの動きが完全に止まる。
「赤猫団の生き残りだと? 忌々しい害虫め。ここで仲間たちの元へ送ってやる!」
マルコムが勝ち誇ったように笑い、用心棒たちがティナに止めを刺そうと迫る。
絶体絶命。ティナが死を覚悟した、その瞬間。
倉庫の天井が、轟音と共に吹き飛んだ。
「――そこまでだ」
月明かりを背に、カズマ、セレス、リリィの三人が舞い降りる。
「カズマさん…! みんな…!」
ティナの目に、驚きと安堵の涙が浮かんだ。
「馬鹿者。一人で突っ走るなと言っただろう」
セレスが言いながらも、ティナの前に立ち、剣を構える。
「リリィ、解毒を!」「はい!――レジストポイズン!」
リリィの魔法がティナを包み、体の痺れが消えていく。
「さて、ここからは第二ラウンドだ」
カズマはマルコムを睨みつけた。
「な、何者だ貴様ら!」
マルコムが狼狽する。
「ティナの仲間だ。――全員、叩き潰す!」
カズマの号令と共に、4人の連携が炸裂した。
「セレス、右翼を崩せ! ティナ、左だ!」
「承知!」
「おうさ!」
セレスの洗練された剣技と、ティナの野性的な格闘術が、二つの竜巻のように用心棒の群れに突っ込む。
「リリィ、二人を援護! 速度強化と防御強化を!」
「はい! スピードブースト! プロテクションウォール!」
リリィの補助魔法が二人を強化し、敵の攻撃を防ぐ光の壁を作り出す。
カズマは戦場全体を見渡し、的確な指示を飛ばしながら、敵の陣形の穴を突いていく。
彼の動きは予測不能。ある時は剣士のように鋭く、ある時は格闘家のようにしなやかに、またある時は魔術師のように魔法を操る。
用心棒たちは、なすすべもなく次々と倒れていった。
セレスとティナの連携は完璧だった。互いの死角を補い合い、敵を追い詰めていく。
一人では届かなかった敵に、二人なら届く。その事実が、彼女たちをさらに強くした。
「ば、馬鹿な…! こいつら、何なんだ…!」
マルコムは恐怖に顔を引きつらせ、一人逃げ出そうとする。
「逃がすかよ!」
カズマは一瞬でマルコムの背後に回り込み、その首根っこを掴み上げた。
「お前たちが、人間と獣人の対立を煽っていた証拠は、全てこの帳簿の中だな?」
カズマはマルコムの懐から一冊の帳簿を抜き取り、中身を一瞥して『完全学習』する。
そこには、商会の全ての悪事が詳細に記されていた。
「ひ、ひぃぃ! 助けてくれ!」
カズマは命乞いをするマルコムを気絶させると、ティナの方を向いた。
「ティナ、終わったぞ」
ティナは、仲間たちと共に掴んだ勝利に、ただ呆然と立ち尽くしていた。
そして、カズマの顔を見ると、満面の笑みで、力強く頷いた。




