チーム結成
商業都市ゼノンでの騒動から数日後。
カズマ、リリィ、そして新たに仲間となったセレスの三人は、西の交易都市「ミコト」を目指して街道を歩いていた。
パーティに加わったものの、セレスの態度はまだどこか硬い。
カズマと楽しそうに話すリリィを、少し離れた場所から黙って見つめている。
彼女にとって、カズマは絶対的な強さを持つ師であり、目標だ。だが、治癒師であるリリィのことは、まだ完全には仲間として認めきれていないようだった。
「さて、少し訓練でもしようか」
街道から外れた開けた草原で、カズマは足を止めた。
「俺たちはパーティになったんだ。個々の力が強くても、連携できなきゃ意味がない」
カズマはセレスとリリィに向き直る。
「セレスは前衛、リリィは後衛。まずは、セレスが敵の攻撃を引きつけている間に、リリィが補助魔法をかける練習だ」
セレスは少し訝しげな顔をした。
(補助魔法…? 気休め程度にしかならないものを…)
彼女の家系は、個の剣技を極めることを至上としてきた。誰かの補助を受けて戦うなど、考えたこともなかった。
「リリィ、セレスに身体能力強化の魔法をかけてみてくれ」
「は、はい!」
リリィが杖を構え、呪文を唱える。
「聖なる光よ、その者に力を与えたまえ!――フィジカルブースト!」
淡い光がセレスの体を包み込んだ。
「…特に何も感じないが」
セレスが不審そうに言う。
「試しに剣を振ってみてくれ。全力で」
セレスは言われるがままに剣を抜き、空に向かって振るった。
次の瞬間、彼女は自身の腕から放たれた剣閃に目を見開いた。
「なっ…!?」
剣が空気を切り裂く速度が、普段のそれとは比べ物にならない。
まるで自分の体ではないかのように、軽く、速く、そして力強く動く。
「これが…補助魔法…」
「リリィの魔力は純粋で質が高い。だから、彼女のかける補助魔法は、並の治癒師の数倍の効果があるんだ」
セレスは驚愕の表情でリリィを見た。
リリィは少し照れくさそうに微笑んでいる。
セレスは初めて、リリィの力の重要性を認識した。
訓練は続いた。
カズマは土でゴーレムを作り出し、仮想の敵として二人を戦わせる。
セレスがゴーレムの攻撃を捌き、リリィが絶妙なタイミングで補助魔法や回復魔法をかける。
カズマの的確な指示のもと、二人の連携は驚くべき速さで洗練されていった。
訓練を始めて三日目の昼下がり。
森を抜けようとしたその時、上空から鋭い鳴き声と共に巨大な影が舞い降りてきた。
「グルアァァァッ!」
鷲の上半身とライオンの下半身を持つ魔物、グリフォンだ。
その鋭い爪と嘴は、鋼鉄さえも容易く引き裂くという。Cランク冒険者でもパーティで挑んでようやく互角に戦える強敵。
「くっ…!」
セレスが緊張に身を固くし、剣の柄に手をかける。
だが、カズマは冷静だった。
「ちょうどいい。訓練の成果を試す時だ。セレス、リリィ、教えた通りにやって!」
「はい!」
「…承知した!」
セレスが前に出て、グリフォンの注意を引きつける。
「フィジカルブースト!」「プロテクション!」
リリィの補助魔法が矢継ぎ早にセレスにかけられ、彼女の戦闘能力を極限まで引き上げる。
グリフォンが鋭い爪で襲いかかる。
以前のセレスなら、受け流すのが精一杯だったであろう一撃。
だが、補助魔法で強化された彼女は、その攻撃を正面から弾き返した。
「すごい…! 体が、軽い…!」
セレスは驚きながらも、的確にグリフォンの攻撃を捌き、反撃の機会を窺う。
「リリィ、次はセレスの剣に風の魔法を!」
「はい!――ウインドエンチャント!」
リリィが呪文を唱えると、セレスの剣が淡い緑色の光を纏った。
剣の振りが格段に速くなる。
「今だ、セレス! 狙うは翼の付け根!」
カズマの指示が飛ぶ。
セレスは地を蹴り、グリフォンの懐に飛び込んだ。
風を纏った剣が、閃光のように走り、グリフォンの翼の付け根を正確に切り裂く。
「ギャアアアッ!」
悲鳴を上げて体勢を崩すグリフォン。
その隙を逃さず、セレスは渾身の力を込めて、心臓めがけて剣を突き立てた。
巨体が地響きを立てて倒れる。
静寂が戻った草原で、三人は互いの顔を見合わせた。
「やった…! 私たちで、倒した…!」
リリィが歓声を上げる。
セレスは、まだ興奮が冷めやらない様子で、自分の剣を見つめていた。
そして、リリィの方を向き、少し照れくさそうに、しかしはっきりと告げた。
「…助かった、リリィ。その補助がなければ、勝てなかっただろう」
「そ、そんな…! 私の方こそ、セレスが戦ってくれたおかげだよ!」
素直に感謝を述べるセレスと、嬉しそうに微笑むリリィ。
その様子を見て、カズマは満足げに頷いた。
「最高のチームの誕生だな」
カズマの言葉に、二人は顔を見合わせ、誇らしげに笑った。
こうして、三人の間には、パーティとしての最初の、そして確かな絆が結ばれたのだった。




