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「異世界に転生した俺、『完全学習』で最速無双してたら、いつの間にか最強のパーティができあがっていました。」  作者: 悠々


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未知なる剣技

ゼノンから南へ馬を飛ばし、一時間ほど。

鬱蒼とした森を抜けた先に、その廃砦はあった。

かつては国境を守るための堅牢な砦だったのだろう。だが今は見る影もなく崩れ落ち、不気味な静寂に包まれている。

蔦の絡まる城壁。風雨に晒され黒ずんだ石材。

ここがゴブリンどもの巣窟になっているのだ。


カズマはまるでピクニックにでも来たかのように、鼻歌交じりで廃砦へと近づいていく。

「リリィ、ここで見ていて」

カズマは砦の入り口から少し離れた、見晴らしの良い岩陰にリリィを導くと、序章で作った携帯用の結界魔道具をいくつか取り出した。

地面に設置すると、魔道具が淡い光を放ち、リリィの周りに半径数メートルの半透明なドーム状の結界が展開される。

「これがあれば、どんな攻撃も通さない。安心して見ていられるだろ?」

「はい…! カズマさん、お気をつけて…!」

リリィが頷くのを確認し、カズマは一人、廃砦へと向かった。

その一部始終を、さらに後方から追ってきたセレスは息を殺して見ていた。


(なんだ、あの魔道具は…? あれほどの強力な結界を、いとも容易く…? あの男、本物の化け物か、それとも…)


セレスの胸中は苛立ちと理解不能な感情で渦巻いていた。

ギルドでのあの落ち着き払った態度。そして、根拠の分からない自信。

常識的に考えれば、ただの命知らずの馬鹿だ。

だが、彼女の剣士としての勘が、わずかな違和感を訴えかけていた。

あの男の瞳の奥に宿る、底知れない光。それは決して虚勢だけでは説明がつかない。


(どちらにせよ、ここで終わりだ。ゴブリンロードの恐ろしさを知らずに死ぬがいい。その無様な最期を、この目に焼き付けてくれる)


カズマは崩れた城壁の隙間から、躊躇なく砦の内部へと足を踏み入れた。

セレスもまた、結界で待つリリィに気づかれないよう、距離を取りながら音もなくその後に続く。


砦の内部は、カビと獣の臭いが混じった淀んだ空気が漂っていた。

あちこちに骨が散らばり、ゴブリンたちの縄張りであることを示している。


その時、物陰から十数体のゴブリンが奇声を上げながら姿を現した。

錆びた剣や棍棒を手に、涎を垂らしながらカズマを取り囲む。


(終わったな)


セレスは冷ややかに呟いた。

いくら腕が立とうと、この数と奇襲に対応できるはずがない。

ましてや相手はEランクの新人。絶望に顔を歪ませ、無様に喰われるのが関の山だ。


だが、セレスの予測は、次の瞬間、信じがたい形で裏切られた。


カズマは、驚きも焦りも見せず、ただ静かにそこに立っていた。

そして、襲いかかってくるゴブリンの群れの中を、まるで散歩でもするように歩き始めたのだ。


彼は剣を抜かない。

ただ、すれ違い様にゴブリンの首筋に手刀を打ち込み、顎を蹴り上げ、関節を外す。

その動きには一切の無駄がなく、まるで精密機械のように正確だった。

ゴブリンたちは、何が起こったのかも理解できないまま、悲鳴を上げる間もなく次々と崩れ落ちていく。


「な……」


セレスは言葉を失った。

あれは、戦闘ではない。ただの「作業」だ。

彼女がこれまで積み上げてきた剣技の常識では、到底理解できない光景だった。


あっという間にゴブリンの群れを無力化したカズマは、まるで何もなかったかのように、砦の奥へと進んでいく。

セレスは呆然と立ち尽くした後、ハッと我に返り、再び彼の後を追った。


砦の中心部、かつて中庭だったであろう広場に出た。

その中央に、一体の巨大なゴブリンが鎮座していた。


通常のゴブリンの倍はあろうかという巨体。

筋骨隆々の肉体は歴戦の傷跡で覆われ、知性の光を宿した狡猾な目がカズマを睨みつけている。

その手には、人間の騎士から奪ったであろう、血に濡れた巨大な両手剣が握られていた。


ゴブリンロード。

複数のCランクパーティを退けた、この砦の主だ。


「GUOOOOOOOOH!」


ゴブリンロードが咆哮を上げると、周囲の建物からさらに数十体のゴブリンたちが現れ、カズマを取り囲んだ。

絶望的な戦力差。

だが、カズマの表情は変わらない。


「ようやくお出ましか」


彼は初めて腰の剣に手をかけた。

それは、アークスの街で買った、変哲もない鉄の剣だ。


ゴブリンロードが両手剣を振りかぶり、凄まじい速度でカズマに斬りかかった。

風を切り裂く、重く鋭い一撃。

セレスですら、まともに受ければ体勢を崩されるであろう一撃だ。


カズマは、その一撃を、まるで予測していたかのように最小限の動きでひらりとかわした。


(見えている…? あの大振りの剣筋を、初見で見切っているというのか!?)


セレスの驚愕をよそに、ゴブリンロードは立て続けに猛攻を仕掛ける。

横薙ぎ、突き、斬り上げ。

その剣技は、ただの魔物の力任せな攻撃ではなかった。

熟練の傭兵が使うような、洗練された技術。


カズマはその全てを、まるで手本を見るかのように受け流し、回避し続ける。

彼の目は、ゴブリンロードの剣の軌道、重心の移動、筋肉の収縮、その全てを捉えていた。


――ピロン。

【スキル『両手剣術 Lv.5』を習得しました】


カズマの口元に、笑みが浮かんだ。


次の瞬間、カズマは回避一辺倒だった動きから、一転して攻勢に出た。

ゴブリンロードが放った横薙ぎを潜り抜け、懐に飛び込む。

そして、繰り出した剣技は――今しがたゴブリンロードが使っていた剣技そのものだった。


「なっ…!?」


今度はセレスが驚愕の声を上げた。

寸分違わぬ剣筋。同じタイミング、同じ角度。

まるで鏡写しのように、カズマはゴブリンロードの剣技を完全に再現してみせたのだ。


ゴブリンロードも、自分の剣技を模倣されたことに驚き、動きが止まる。

その一瞬の隙を、カズマは見逃さなかった。


「お返しだ」


カズマの剣が閃く。

それは、先ほど学習したゴブリンロードの剣技を、さらに洗練させ、昇華させた一撃だった。

より速く、より鋭く、より効率的に。

力の流れを最適化し、無駄を極限まで削ぎ落とした、セレスが今まで見たこともない次元の剣技。


ゴブリンロードの巨体が、まるで木の葉のように宙を舞った。

その胴体には、一筋の赤い線が走っている。


ゴブリンロードは、自分が斬られたことさえ理解できないまま、絶命して地面に崩れ落ちた。


主を失ったゴブリンたちは、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

静寂が戻った広場で、カズマは剣についた血を軽く振り払い、鞘に収めた。


「……あり、えない…」


物陰からその全てを見ていたセレスは、震える声で呟いた。

彼女の剣士としてのプライドが、音を立てて崩れていく。

自分が生涯をかけて追い求めてきた剣の道。その遥か先、想像すら及ばない高みに、あの男は立っている。


セレスはふらふらと広場に歩み出た。


「貴様の剣は…一体、何なのだ…?」


カズマは振り返り、セレスを見ると、悪びれもせずに笑った。

「やあ。やっぱり来てたんだな」

カズマは少し驚いたように、しかしどこか納得したように言った。

「君が心配するほどの相手じゃなかっただろ?」


その飄々とした態度に、セレスはもはや怒りさえ湧いてこなかった。

ただ、圧倒的な存在を前にした、純粋な驚きと、そして――その力の正体を知りたいという、どうしようもないほどの興味があった。


「教えろ…」

セレスは、無意識のうちに口を開いていた。

「今の剣技を…私に教えてくれ…!」


彼女は、その場で静かに膝をついた。

銀の鎧が、カタンと虚しい音を立てる。

ゼノン最強と謳われた孤高の女剣士が、Eランクの冒険者に頭を下げた。

その瞳は、もはや侮蔑ではなく、ただ純粋な探求心に満ちていた。

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