【end】 魔術が輝く未来へと
ーーーあれから十二年。
私たちは学園を卒業し、それぞれの道へと歩んでいっていた。
私は学園を卒業したのち、教職員を育成する学校へと進学し魔術師の教師となった。働いているのは卒業した学園である。
教職員を育成する学校は二年間学ぶと卒業できるので、本来なら二十歳で教師になれるはずだたのだが、シルディアルが爵位を譲り受けたのと私がその一年後妊娠したため二十歳で教師になることは叶わなかった。
シルディアルはというと卒業後、親の爵位を譲り受けレピス公爵となった。
まだシルディアルの父親は五十代と若いので、もう引退?と思ったがシルディアルの父親曰く「妻や、孫たちとゆっくり過ごしたい!」だそうだ。
ま、そりゃ孫も生まれたから、ゆっくり過ごしたい気持ちは分からなくもないけど‥。
(…)
なんかそう思ったらと子供たちに会いたくなってきちゃった…。
子供は私が二十二と二十四の時に産んだ。
二十二の時が男の子。二十四の時は双子の女の子だった。
名前は順にレディル・シーア・シルレア。どれも私とシルディアルの名前を組み合わせたものだ。
(もう少し意味のある名前の方がいいんじゃない?ってシルに言ったのに、気づいたらこの名前で決定してたんだよね。不思議‥)
レディルはどっちかと言うとシル似だ。いやシルの父親の方が似ているのかな?瞳が緑色で、髪色は銀色がくすんだような色をしている。
今はもう六歳。レディルはシルに似て魔力量が多いようで、毎日外で走り回りながら魔術で遊んでいる。あの活発さは誰に似たんだか‥。
シーアは多分私似。綺麗金髪で瞳は明るい灰色だ。今は四歳。魔力量は普通‥シーアはあまり魔術に興味がなく本を抱えていることが多い。
読んでいるわけではなさそうだが抱えて運ぶのがいいらしい。
そんなんだから物静かな子なのかなと思っていたのだが。つい先日、庭で少し離れている位置にいたシーアに「こっちに来て」と言われたので近づけば、落とし穴に落とされた。
私は一瞬理解できずに上を見上げれば、お腹を抱えて笑っているシーアいた。
そう悪戯されたのだ。
まだ四歳の幼子に‥。将来が恐ろしいなと少し思った出来事だった。
シルレアはシーアと顔立ちは似ていない。一卵性ではなかったのでシル似だ。金髪で暗い、シルのような瞳。
魔力量は私とシルの間くらい。魔術を使うことは好きで、よく攻撃魔術を使っているのを目撃する。
この前なんか、樹齢千年を超える大きな木を魔術で切り倒したので驚いた。
いやぁ将来は凄い魔術師になりそうだ。シルレアはいたずらっ子ではないのでその点は少し安心なのである。
ーーっと子供たちのことを少し話過ぎてしまった。えっと他の人はと言うと‥。
セルフィア公爵令嬢はまさかの外交官になった。
本当なら卒業後どこかへ嫁ぐことが決まっていたらしいが、父親に猛反発したのち外交官になったそう。
結婚はしてなく、この前会ったとき「私の旦那は仕事です」と言っていたので結婚願望はこの先もなさそうだ。
ルリアンはというと最近花を育て始めたらしく、たまに私に花をくれる。好きなものを知らなかった彼女はとことん色々なことにチャレンジするらしい。
結婚願望はあるそうだが、なかなかいい人に出会えないと言っていた。
でもブラン(セルフィア公爵令嬢の名前)曰く気になる人はいるそうとのこと。
いざというときには全力で応援しようと誓った。
師匠‥カルヴァス先生は相変わらずかな?
今も学園の教師をしている。
他の職に移るのかと思ったが性に合っているらしい。
‥だが私は知っている。師匠があの学園から離れないのは研究室に押し込んだ魔道具たちを移動させるのが面倒だと思っているということを‥。
「…ゲフンゲフン」
いや‥うん。別に人それぞれだよね、理由なんてさ。‥はい。
えーと。後は従者組だよね。
…簡素に言うとミルは結婚をした。
相手はまさかのロルフの兄である。私も驚いた。
私が二十歳の時に結婚した。八年たった今でもお熱い。二年前に養子を迎えて仲良く暮らしているようだ。
ロルフは卒業後、シルディアルの補佐として働いていた。
学園ではたまにしか会わなかったが、結婚してからというもの毎日顔を会わせている。
私が子供を産んでからというもの、ロルフはよく子供たちと遊んでいる。シルレアには特に懐かれていて、よくシルが羨まし気な目でロルフを見ていることが多い。
ーーまぁこんなところである。
みんなそれぞれの光をつかみ取り今を歩んでいる。
前ほど会うことはなくなってしまったけれど、前よりも心が繋がっているような気がするのだ。
みんなは今日も幸せだろうか。元気だろうか。そんなことを思いながら私は日々を過ごす。
それに空の下私たちは生きている。死なない限り‥私たちは何度だって会えるのだ。
話もできる。遊べる。一緒に学べる。何でもできる。
ただ後悔しないようには生きていきたい。
後悔しないように生きて、そして死ぬ間際「素敵な人生だった」って思いたいんだ。
窓の外を見ながらそう思っていると、数学の先生に声をかけられた。
「あ!いたいたレピス先生!そろそろ授業が始まりますよ!」
「え!?もうそんな時間ですか‥教えてくださりありがとうございます!」
時計を見れば九時三十八分。授業が始まる二分前だった。
私は慌てて、教科書を手に取り教室へと向かう。
今日は初回の授業。遅れたら生徒達に申し訳ない。
(まぁ師匠は遅刻してたけど)
ま、人は人だ。師匠のことを例に出していたら私がクズ教師になってしまう。
せめて良い教師ではなくとも普通の教師ではいたいものだ。
(‥あ。ここだ)
私は視線を少し上げ、札を見る。
前と変わらない教室。
私はゆっくりと息をすいノブに手を置いた。
そして回す。
「…あ!先生だ!」
「本当だ!先生遅いよ!」
子供たちが次々にそう言った。
思っていたよりも平和そうで内心ほっとした。
これなら授業も順調そうに進められそうである。
私は教壇に教科書を置き、前を向く。過去には最高二十五人程しか生徒がいなかった教室に、今は七十人近い生徒達が座っていた。
(…これが私の待ち望んでいた光景‥)
魔術はまだ選択科目の中の一つでしかない。だがいつか、魔術という科目を必修科目にしたいと考えている。
みんなが魔術という存在を学ぶ。そういう社会にしていきたいんだ。
「‥これから魔術の授業を担当させていただく、フローレ・レピスです。よろしくお願いします」
わたしはそう言って頭を下げる。
目の前の生徒たちは、私を興味津々で見ている。だが魔術に興味がありそうかと問うとこの生徒たちはどうなのだろうか。
「皆さんは、魔術に興味はありますか?」
私は興味本位でそう問う。
だが生徒たちは‥
「ない!私お裁縫の方が好きだわ!」
「俺も!剣技の方が好き」
そう生徒達は声を上げて言う。
(…あれ。やっぱりそういうものなの??)
だが私はそんなことでしょげたりしない。
「そう‥」
(でもこれを見て、そう言えるかな)
私はニヤリと笑い呪文を唱える。私が魔術の中で一番好きで一番綺麗だと思う魔術を‥。
「水の精霊よ 心に溢れる 雨を今ここに!」
私は水を作り、そこから華や鹿、リス、兎など様々な植物や動物を出現させる。
生徒たちは目を輝かせながらそんな動物たちを見ている。
ーー昔とは違う。
みんなが魔術を見て笑ったり喜んだりしてくれる、そんな優しい世界。
「‥どう?魔術って素敵でしょ?」
私はそう言って生徒達に微笑みかける。
私が少し笑うと、頭に着けていたマーガレットの花飾りと耳元のアメジストのイヤリングが揺れた。
太陽に照らされながらキラキラと輝いていたのだ。
~end~
フローレ死亡後の後世で、フローレは魔術の在り方を変えた人物として教科書に載るようになっていた。
フローレの望む未来へとなったのだった。




