【9】 永遠に君と
「…んんっ・・」
目を開けようとしたが眩しさのあまり、また目を閉じる。
だがずっと寝ているわけにはいかないため手で目を押さえながら、起き上がる。
すると横から声がした。
「フローレ!?大丈夫か?」
シルディアルだ。その隣には無表情のセルフィア公爵令嬢がいた。怖い。怒っているのだろうか。
(‥いや、眉が少しだけ下がっているから心配しているのか‥?)
あまりにも無表情すぎてよく分からない。
(ーーっていうかそれよりもルリアンはどうなったの!?)
ルリアンの心の中で一緒に呪文を唱えたところまでは覚えている。呪文に間違いはなかったし、しっかりと結界を張ることもできたと思うのだが‥。
私はすぐ隣に眠るルリアンを見る。
苦しんでいる様子はなく穏やかに眠っているように見える。
だがこのまま起きなければ‥。いや最悪の事態を今考えるのはやめよう。
私は首を横に振りルリアンを見る。
(お願い‥目を覚ましてルリアン)
「‥‥」
「あ」
少しだけだが、今ルリアンの眉が動いた気がする。
シルディアルと令嬢もそれに気づいたのか、先程よりもルリアンに顔を近づけていた。
「ルリアン‥ルリアン」
そう令嬢は声をかけ続けていた。
私もシルディアルもその様子をじっと見守る。
(お願い。目を開けて!‥ルリアン!)
そう願った次の瞬間。ルリアンの眼が少し開かれた。
まだぼんやりとしていて、誰が誰だか分かってはいなさそうだったが、目を開けた。
「‥!ルリアン!」
令嬢は嬉しそうに笑った。
今までの無表情が嘘のようである。
「・・れ、れいじょー?」
「ルリアン!ルリアン!大丈夫!?痛いところない?」
「ちょ、ちょ・・」
令嬢はルリアンを抱きしめ、涙を流していた。そんな令嬢の様子にルリアンは困惑しつつ、そっと抱き返した。
頬も少しだけ赤い。
恥ずかしがっているのだろうか。
「・・あのさ。心配かけてごめんね・・」
「別に・・こちらこそ勝手な真似をしてしまって。悪かったわ」
そう令嬢は言う。
後悔しているわけではなさそうだが、少し思うところはあったらしい。
「いいよ。・・前の私より、なんだか今の私の方が気分がいいし。それに心が軽くなった気がするんだ」
ルリアンは自身の胸に手を当てた。
今まで背負ってきたものが無くなったわけではないが、整理がついたのかもしれない。
今回私はルリアンの心の中へと潜ったが、ルリアンの心が読めるようになったわけではないので真実はわからない。
でも、心の底から笑うルリアンを見れるのなら、もう大丈夫だろう。
私はそう思った。
そんな二人をシルディアルと一緒に眺めていたら、二人は突然私とシルディアルの方を向いてきた。
(な、なんだ…??突然)
シルディアルも驚いているようで、困惑の表情を浮かべている。
私にも分からないので、じっとルリアンたちを見れば、もじもじした後ルリアンが話し始めた。
「‥フローレ嬢。ルリアンを救ってくれて‥本当にありがとう。ありがとう…。そして申し訳ありませんでした」
「私も。…前世を含め迷惑をかけてごめんなさい。謝って済むことじゃないって分かってる。だけど謝らないのも違う気がして…」
「…令嬢…ルリアン‥」
私は二人を見て呟く。
確かにルリアンに関してみれば、前世直接で何しろ私は殺されたのだ。
それは殺人行為であり、研究室の人のことも考えれば即刻死刑でもおかしくない。
ーーでもそれは‥それはルリアンの魔力の元となった人達の想いが原因だったりもする。別にルリアンがすべて悪いわけではない。
それに私はルリアンの心の中でも言ったが、別にルリアンのことを恨んでいるわけではない。
私はルリアンと…。
「‥許すよ。だから‥ちゃんとお友達になって?私とシルディアルの」
「え!?俺もかよ」
(あんたもよ)
と心の中で言っておく。
「え…そんなんでいいの‥?」
「私たち捕まるようなことをしたのに‥」
「うん。あ、でもちゃんと心を込めてだよ?‥ゴホン。では。お供達になってくれますか?」
私はそう言ってルリアンと令嬢に手を伸ばす。
シルディアルもそっぽを向いてだが、手をさし伸ばしている。
そんな私たちを見てルリアンと令嬢は、瞬きをして後不器用に笑ってこう言った。
「喜んで」
と。
* * * *
ーーその後。
魔術師に対する罰則は消え、前と同じ状態へと戻った。
あ。前と同じ状態ではないかも。前よりも少しだけ魔術に優しい世界になったのだ。
あと処刑された人はいなかったらしい。
セルフィア公爵令嬢が裏で手を回しカモフラージュしていたそう。
なので、師匠も無事だしピンピンしていた。
私達が脱走した際は、魔術を使って全牢屋の鍵を開けたため、師匠の安否確認をしなかったのだ。
ひと段落した後、師匠の生きている姿を見た時は嬉しさのあまりタックルしてしまった。
シルディアルが「今度は牢獄じゃなくて、病院送りだな」と笑っていたが、きっと師匠の腰なら大丈夫だろう。
だって何十回と私のタックルを受けているのだ。
もう耐性がついていたっておかしくない!うん、
ーーま、そんな冗談はさておき。
そんな慌ただしかった日から十日ほど経ったある日。私とシルディアルは学園の屋上へと来ていた。
* * * *
冷たい風が吹く。
かれこれ屋上に来てから五分が経過していた。
屋上には私とシルディアルしかいないのだが、両者何も話さない。
シルディアルがずっと何かを話そうとしてやめる。という行為を繰り返しているのだ。
最初のうちはシルディアルが話し出すのを待っていようと思ったが、さすがにもう限界だ。
私は痺れを切らし、口を開く。
「‥あのさ…言ってたよね?話してくれるって」
「‥!・・あぁ」
何を話してくれる?とは聞かなかった。だってシルディアルも私の知りたいことは分かっていると思ったから。
シルディアルも覚悟が決まったのか何なのか、私の眼を見て話しだす。
「お前の予想通り、俺はモルガ。お前の弟弟子だ」
やっぱり。
あまり驚きはしなかった。あの時なんとなく分かってはいたから。
でもいつ思い出したのだろうか。
「ねぇ。いつ前世のこと思い出したの?私は九歳の時だけど」
「俺も九歳だよ。初めて魔術を使った時、思い出したんだ」
{あー、あの時か)
あの時は確か、シルディアルの魔術量に興奮してしまってシルディアルを放置していた。
あの時に色々整理する時間があったのだ。
そりゃ、私が気づかないわけだ。
シルディアルが私のことを気づいたのも、多分魔力の器からだろう。
魔力の強い者は、魂を見れる。それで私だってシルディアルは分かったはずだ。
ーーーだけどここで疑問が残る。
なぜシルディアルは私に正体を明かさなかったのだろうか。別に隠すことではないだろうに。
そんな私の心情を悟ったのかシルディアルは話し始める。
「あー、黙ってた理由だよな。・・あの時。フローレが死ぬ少し前‥北の討伐の任務があっただろう。本当はあの任務、俺が合流する予定だったんだ。だが、途中で他のパーティーから救援信号があって…フローレ達なら大丈夫だって思ってたんだ。だが駆け付けた時にはもうフローレは血まみれで死んでいた‥だからお前が死んだ理由なのは俺の‥せいなんだ。これが言えなかった理由」
シルディアルは「だっせーよな」と言いながら頭を掻いていた。
「ちゃんと言おうと思ってたんだ。だが、フローレの死の原因が俺だって認めたくなくて。嫌われたくなくて・・黙ってた」
ーーそう言う彼の瞳はとても不安に満ちていたが、もう迷いはない。そんな目をしていた。
「‥そう‥だったんだ。…でもさ。今この体でいられるのは、あんたのおかげなんでしょ?」
「…転生術を施したのは俺だが‥」
「じゃあいいじゃん。シルディアルはずっと私を守ってくれたよ!ずっとずっと一緒にいてくれたよ!」
それでもシルディアルは自分の拳を見て私を見ようとしない。
(さっきまではちゃんと私の眼を見ていたのに‥)
なんだかその行為に少し腹が立ち、私はシルディアルに駆け寄る。
(こんなにも私があんたのこと思ってんのに、あんたは、それを信用しないの?)
そう思って。
「…私が死んだのは私の実力不足。‥だからあんたが気にすることはないの。それに私はあんたのことが大好きなの!ずっとずっと好き‥なの。この気持ちを受け入れてはくれないの?」
「…っ!」
(…あ。こっちを見た)
シルディアルは顔を真っ赤にさせている。りんごよりも赤いのではないだろうか。
(可愛い‥)
「だからシルディアル!これからもよろしくね‥!大好きだよっ!」
私はそう言ってシルディアルに抱きついた。
「あぁ‥これからも‥よろしく‥俺も・・フローラのことがずっと好きだ。前世からずっと好きだったんだ」
そう言ってシルディアルも私を抱き返し、私の唇にキスをした。
そのキスはとても甘く幸せだった。
ーーこの幸せがずっと続くことを願ってーーー。
投稿遅くなりすみません!次回完結です!11月29日18時、投稿予定です。




