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転生魔術師令嬢は転生した未来で魔術の素晴らしさを広めたい!〜悪役令嬢になんで負けてられるか!〜  作者: 雪道 蒼細
六章 さぁ立ち向かうときだ

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【8】 奇跡を起こそう

 「あ‥」


 私がルリアンを抱きしめようとしたとき、ルリアンは消えてしまった。

 また新しいルリアンが姿を現すのかと思ったが、次に現れたのは大きな炎の華だった。


 「…」


 炎はゆらゆらと揺れる。

 そっと手を伸ばし触れるが、温度はとても低く冷たい。

 炎のはずなのにとても冷たかったのだ…。


 「…ルリアン」


 そっと名前を呼ぶ。

 だが反応はない。暗闇に炎の華が揺れるだけ。

 

 「ルリアン‥」


 もう一度名前を呼んでみる。すると、少しだけ声がした。

 気のせいかと思いもう一度声をかけてみると、華の中から小さなすすり声が聞こえた。


 (‥ルリアンが泣いているんだ‥)


 助けなきゃ。


 でもどうやって?


 目の前の華を触っても、先程と同じように泡になってたりしない。

 手を奥にのばせば届くとも思ったが、何か硬い壁のようなものに当たり、その先へ手をのばすことができなかった。


 (…)


 だが、このままルリアンを放っておくことはできない。

 魔力の器は魂と結びついている。故にルリアンの心の傷を癒さない限り魔術を使って魔力の器を修復することができないのだ。

 心の傷が浅ければ全然問題ないのだが、ルリアンの傷は深すぎるためか魂まで傷ついている、

 だからこの炎の華も消さなければいけないのだ。この中にルリアンがいるとするならば…。


 (今‥私ができることは‥)


 私は一歩足を踏み出す。そしてそっと炎の華を包んだ。

 燃え移るかもしれないという危険性もあったがそんなの知ったこっちゃない。今大事なのはルリアンの心の傷を癒すことだ。


 自分の身長の数倍もある大きな炎の華を抱きしめ、「大丈夫 大丈夫」と連呼した。

 私は昔前世で母親にこうやって抱きしめてもらうのが好きだった。

 どんな怖いことがあっても、ぎゅっと優しく抱きしめてもらって「大丈夫」と言ってもらう。これだけで安心する。

 どんな辛いことがあっても頑張れるのだ。

 抱きしめられることはあったけど、誰かを抱きしめることはなかった。

 (私は母さんから優しさと温もりをもらった。だから次はルリアンにあげる‥)


 「…あ」


 そうルリアンが言葉を零す。

 すると炎の華の形が崩れていき、中からルリアンが現れた。

 目の前にいるルリアンはとてもやつれていた。

 顔は髪が邪魔であまり見えないが、目が暗かった。

 あの明るい金色の瞳が暗かったのだ。

 (今まで見てきたルリアンより大きいはずなのに、ずっと小さい。‥これが本当のルリアンだったんだ)

 そう思うと心が痛む。

 そりゃそうだ。

 人間とほぼ構造は変わらないはずなのに、生まれてすぐ魔術の訓練を強いられ、頼れる大人もいない。そんな状況下で心が成長できるはずがない。

 私が見ていたのはずっと大人の皮を被った小さなあんただったんだね。

 

 「ほら。帰ろう?ルリアン」


 私はそう言ってルリアンと目線を合わせ、ルリアンの手を握る。

 だがルリアンは首を横に振ってこう言った。


 「私は帰らない。あんただって見たでしょう?私の記憶。‥やっぱり私は光に当たってはいけないんだよ」


 ルリアンが言葉を発するたびに炎はルリアンを隠していく。私はルリアンを隠すまいと炎をかき分けていく。


 「…そんなことないよ。私があんたの光になる。だから光に当たりに行こうよ!一緒に帰ろうルリアン!」

 「でも‥‥私が光に当たる資格なんてないよ‥」

 

 そう言ってルリアンは下を向いて顔を手で覆った。

 

 「…ルリアン。光はね一種類じゃないの。希望の光は掴みに行くものなんだよ。ルリアンは希望の光も見たくない?当たりたくない?」


 ルリアンが言っている光は表舞台の光だろう。だけど光はそれだけではない。

 人々の希望の光だって光だ。


 「‥希望何て存在しないもん」


 (‥そうだね。私もずっとそう思ってた。けど‥)

 奇跡は起こる。

 人々の心こそが奇跡のようなものなのだから。


 「大丈夫。奇跡は…魔術で起こせる!奇跡は起こるんだよ!ほら一緒に呪文を唱えよう!光の向こうへ行こう!」


 私はルリアンの手を握るが、ルリアンの手は震えている。


 「でも‥やっぱり怖い」

 

 そう言ってルリアンは首を横に振る。


 「大丈夫。一人じゃないよ。ルリアン。私がいるよ。さぁ‥一緒に‥」


 もう独りぼっちにはさせないから。

 

 * * * *


 (あ…)


 フローレが私の両手を握る。

 それは温かく落ち着く‥。

 (昔‥誰かに同じようなことをしてもらった‥)

 あれはフローレの前世のフィステニアだったのかもしれない、けれど思い出せない。

 だけどそれもとれも温かかったような気がする‥。

 とても安心する温かさ‥。



 「分かった‥私も一度だけ奇跡を信じるよ‥」


 私は炎の華の殻を抜け出し、フローレの手を握り返す。

 そして声を揃え光に向かって呪文を唱えた。

 



 『守護を与えし精霊よ 我が声に応え 我らを守り給わん!  サヴマ!』



 ーーと。

後二話で最終話予定です。(この話を入れずに)

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