【2】 あなたのために
「…ん」
私は思い瞼をゆっくりと開ける。
まず視界にとらえたのは薄暗い天井だった。
(確か貴族用の牢屋に連れてこられて、それで‥)
眠くなったから寝た気がする。てっきり普通の罪人のように衛生環境が悪い牢に入れられると思ったがそんなことはなく、連れてこられたのは貴族用の牢屋だった。
華やかではないものの、机や椅子。布団などもあり、どうにかこうにかは生活できるという感じの部屋だ。もちろん食事は運んできてもらわない限り存在しないが。
「ミルどうしてるかな。それに父様、母様、兄さまも‥」
みんな元気にしているだろうぁとぼやきつつ起き上がる。
魔力封じの加瀬がされているため、魔術を使うことはできない。
今の私にできることは皆無だ。唯一できることと言えば願うことだけ。
実はショーをした時洗脳解除の魔術を仕掛けた。仕掛けたタイミングとしては私が水の魔術で動物を作り出し、観客席を走りまわせたときである。
あのタイミングで、動物に仕込んでおいた洗脳解除の魔術を発動させたのだ。
あの魔術は別に洗脳されている人間だけに効くわけではない。
悩み事がある人にも聞くものだ。
確か不安を無くしてくれる要素があってそれによって色々‥うん。
だから今の私にできることは信じたり願うことだけなのだ。
(人々の想いがあなたにも伝わりますように)
* * * *
「ごめんなさい。ルリアン」
そう言って私は自室を出た。
このままルリアンの協力者でいるつもりだったけど、でもそれではダメな気がした。
彼女自身も傷ついているのに、魔術を悪とする行為は意味があるのだろうか。
ずっと私も前世の一部を思い出してから魔術が怖かった。だけどルリアンの使う魔術は怖くなかった。
怪我をしたときは回復魔術で治してくれた。
街中で魔物と遭遇した時も魔術で守ってくれた。
その魔術は私が怖いと思っていた真珠と同じはずなのにルリアンが使う魔術は不思議と怖くなかったのだ。
きっとそれは彼女の魔術は私を害さないと信じているから。
だから不思議と恐怖心が消えていた。
でもそれは魔術令嬢やレピス令息が使う魔術も同じこと。
ーー今まで私は彼女の過去を全て聞いたうえで協力していた。
だからなぜ彼女が魔術をそこまで嫌うのかを知っていた。
だけど私は彼女に苦しんでほしいわけじゃない。
笑って、幸せになってほしいんだ。
始めはただの協力者だった。それ以上でもそれ以下でもない。
だけど彼女と一緒にいる時間が長くなるにつれ、友達のような絆を感じていた。
友達が誰一人としていない私がそう言うのはおかしいかもしれないけれど、だけど相手を心配して今以上の幸せをつかんでほしいと願うこの感情は何なのだろうか。
友情でなかったら何なの‥だろうか。
(その答えはすぐには出せない、友情と言う一言で済ましてはいけないものなのかもしれない)
だけど彼女を苦しませたくない。今ままで意志が弱くて言えなかった。前世と何も変わらない私だけどそれでも、もう過去の私とはお別れをしなくてはいけない。
(私はもう迷わないから)
「私はもう道具じゃない。私はブラン・セルフィア。前世の弱い私じゃない!」
だから、私は今からルリアンを裏切る。
彼女の幸せのために。
許してほしいとは言わないわ。だってこれは私のエゴだもの。
三章の一・二話を加筆しました。
三章は内容がスカスカなので三話以降も加筆すると思います。




