【5】 私の進む道
月日は流れるのは早く(と言ってもまだ一週間しか経っていないが…)もうショーの準備が全て終わってしまった。
三年前の準備していたものが、そのまま保管されていたのは幸いだったと思う。
だがこの一週間良いことだけがあったわけではない。毎日魔術師が捕まったという話を聞いた。
捕まるだけならまだいいかもしれないが、一人捕まっていた魔術師が処刑されたのだ。
これには私も驚いて、読んでいた新聞を地面に落としてしまった。処刑は公開処刑だったらしく、街中には処刑を見たという人もいた。
処刑された魔術師は有名な魔術師で、魔王時代に魔物を大勢倒した人だった。魔術で抵抗することもできたはずなのに、彼は何も抵抗せずに首を落とされたらしい。
(罪もない人を殺すなんて…。だんだんこの世界はおかしくなっている‥)
このままじゃ師匠も処刑されてもおかしくはない。
それかもう処刑された可能性も・・・いや!師匠が死ぬはずない。
私はj首を横に振り、前を向く。
私は国を変えるために動くんだ。だから今日のショーを失敗させるわけにはいかない。
私は学園全員を味方につけなきゃいけないんだから…!
「おーい、フローレ!準備ができた。そろそろ始めるぞ」
一人で意気込んでいたところにシルディアルがやって来た。ノックはしてほしいと思ったがこの男に何回も言ってもそれは直らないのでもう私も何も言わない。
「あ、うん!分かったシルディアル」
部屋に入ってきたシルディアルに返事をし、私は服や髪型に異変は無いかを確かめる。
鏡には銀髪で緑色の瞳をした女が映っている。
つい先日誕生日が来たから私は十六歳となった。十六歳は前世で私が死んだ年。
ちょうど前世で生きた年数と今世で生きた年齢が同じになった。前世の時はこんなことになるなんて夢にも思ってなかった。
良いこともあったし悪いこともあった今世の十六年だったけど…。
(今世じゃ十六歳なんかで死んでやんないから…!)
「じゃあね。行ってきます」
私はそう言って部屋を後にした。
前へ進むために。
* * * *
「…うわぁぁ!こんなに人来てるの!?」
私は魔術でこっそりと観客席を見た。
するとびっくり。千席ある観客席がすべて埋まっているのだ。
やっぱり告知はシルディアルに任せただけあった。
(シルディアルって顔は良いしねぇ)
「おい。中身もいいだろっ!」
「…私なんも言って無くない?」
何故何も言っていないのにシルディアルはツッコんできたのだろうか。‥もしかして私の心を読んで‥!?
「‥‥何を勘違いしてるか知んねぇけど、さすがに何考えてるか分かるっーの」
そう言ってシルディアルは私の額にデコピンをしてきた。
(・・・乙女の額に何をするんだこの男は‥)
少し睨むがシルディアルはよく分からなそうに首を傾げた。顔と中身はそこそこいいのに、デリカシーが少し欠けている気がする。
(デリカシーは結構重要な部分なのに‥。なんというか…うん)
「‥よくわからんが、すごく失礼なことを考えてないか?フローレ…」
「まっさかぁ!シルディアルはいつも通りかっこいいなって‥!いや、いつも以上にかっこいいよ!」
一応本番前なのでべた褒めしておこう。
しょげられて、上手くいかなかったら嫌だし。いや、私の前で失態を起こすとも思えないからその新派はいらないんだけど‥。
そんなことをブツブツと考えていると、唇に何か柔らかいものが触れた。
「え」
驚いて顔を上げれば、ニヤリと悪戯をした少年のような顔をしたシルディアルがそこにはいた。
私は数秒遅れで状況を理解し、顔を赤らめる。
(い、今やる!??)
久しぶりにされたからか、私の心はキャパオーバーである。だが赤らめている私とは違い、シルディアルはとても満遍の笑みで「やる気が出てきた出てきた」などと言っている。
その様子に少し怒りを覚えなくもなかったが今は抑えなければ。そう。今怒りを爆発させたら色々とまずい。私は深呼吸をした後、辺りを見まわす。
あと少しで開演なのにルリアンが来ていないのだ。
「…あと少しで始まるのに、ルリアン遅いね…」
「まーあと少しで来るんじゃ‥あ、ほら噂をすれば‥」
シルディアルはそう言って私の後ろを見る。
つられて私も後方を見ればそこには息を切らしたルリアンがいた。
「す、すみません。道に迷ってしまって…」
「もう!遅いよルリアン…。ほら、いこっ?もうお客さんは集まってるんだ」
私はルリアンの手を取り笑った。
ルリアンもそれにつられてか少し恥ずかしそうにはにかむ。
「はい。では行きましょうか」
「‥‥うん」
本番前なのに緊張の欠片もないルリアンに違和感を覚えつつ私はステージへと向かう。それを嘘だと願って。
「キャーッ!シルディアル様よ!」
「本当だわ!かっこいい!!」
ステージへ上がるなり黄色い歓声がすごかった。主にシルディアルに向けてのものだが。
(‥まぁいい。ここには人がくればいいんだ。誰も魔術のショーをやるだなんて思ってないし)
私は一度目を瞑り息を吸って吐いた後マイクを握る。
そして水の魔術を詠唱して、数十匹の動物たちを出現させた。動物はウサギやタヌキなど様々だ。
会場からは悲鳴やら何やら聞こえるがそんなのどうだっていい。
私はやらなければいけないのだから。
「皆さん!今日は私たち魔術部の・・・・」
その言葉は最後まで言われずにドアの開く音にもみ消された。
「そこまでだ!悪人よ!」
「なっ。衛兵かよ」
ーーー二十人ほどの衛兵が剣を構えて立っていた。
これで確信してしまう。
今まで嘘だと思いたかったことが嘘じゃなかったと。
「…クレーシー嬢。やっぱお前だったんだな」
シルディアルが冷たい声でルリアンにそう言い放つ。
ルリアンはと言うと、いつものおどおどとした雰囲気はなく、そこにいたのは私の知らない冷たいルリアンだった。
「‥やっぱり、あんただったんだね。ルリアン」
「‥‥」
昨日更新できなくてすみませんm(__)m




