【3】 201 中編
私は201からマーガレットと名を改め、魔王軍の討伐に加わった。
私と抹殺対象がいる団は魔術八団の二グループ。メンバーは計五人いたけど、抹消対象以外の名前は覚えなかった。
別に対象が死ぬまでの付き合いだと思っていたから。
だから対象とも距離を置いていたのに…。
「私はフィステニア。あなたの名前は?」
「見て見て…見てよ!マーガレット・・!綺麗でしょう?」
「…こんな戦争下じゃなきゃ、あなたにも面白い魔術をたくさん見せられたのに…」
「ほら!マーガレット!笑って‥!」
「マーガレット・・!」
同じグループになってからというもの彼女はずっと私に話しかけてきた。
最初の頃は無視していたが、それでも抹殺対象は私にめげずに話しかけてきた。鬱陶しかったはずの会話も鬱陶しくなくなっていて、いつからか彼女との会話を楽しみになっていた。
フィステニアは私の知らない魔術を見せてくれた。
水から動物を表現したり、虹を出したり、木の実を蝶に変えたりとフィステニアが使う魔術は正直言って面白かった。
面白かったと思うと同時に危険だとも思ったが…。
フィステニアの使う魔術のことは人伝には聞いていたのだ。だがこうやって直接見るのは初めてだった。
だから直接見た感想としては『魔術が綺麗に見える』これに尽きる。
今まで戦うだけだったはずの魔術が綺麗に見えた。
殺すはずのものが、そうじゃなくなった気がしたのだ。
目の前にあるのは人々を感動させるもの。そこから人を殺せるなんて誰が思うのだろう。
そう思うほどに…。
そんな魔術に対しての感情が芽生え始めてから二週間がたったころ。時が来た。
私たちのパーティーだけの任務が与えられたのだ。
内容は不滅の六魔人(※魔王の直属の部下の名称)の一人を迎え撃つというものだ。どうやら偵察隊が北の国へ向かう魔人を南の国で目撃したらしい。
だから倒せとのこと‥。勇者パーティーを待てばいいのに軍は無理やり私たちを北の地へと送り込んだ。
私たちの代わりなどいくらでもいる。だから私たちが戦闘に敗れ死のうとも彼らにとってはどうでもいいのだ。
私はさほど気にもせず北の地へと行く準備を始めた。
フィステニアから「それしか持ってかないの?」と言われたが、問題は無い。だって私は戦いに行くのではなく、あなたを見捨てに北の地へと行くのだから。
北の地はこの季節、数メートル先が見えなくなるほどの雪が降る。
視界も悪く、戦闘向きではない。
だが逃げるのには丁度いい。この任務が舞い込んできて本当に運があると思った。
私と、フィステニア以外のメンバーは北の地の視界の悪さを利用し、魔物がフィステニアに近づいたころ姿を消した。
そこから何があったかは私も知らない。
だって次にフィステニアを見たのは、彼女がもう動かなくなっていた時だったのだから。
「……」
少し心が変だ。
なんていうか気持ち悪い。こんな感情初めて持った気がする。
(・・・・)
最初は未来で死ぬ少女としか認識していなかった。だけどここで一つ私の中に疑問が生まれた。
何故私は自分の手でさっさと彼女を殺さなかったのだろうか。
魔力は多分世界一ある。魔術の練習だってずっとしてきた。
だから殺す気になれば彼女のことなんてすぐに殺せた。なのに私はわざわざ回りくどいことをしてから彼女が死ぬのを見ていた。
それは何故なのだろうか。
彼女の魔術が気になったから?
それともただ単純に人を殺したくなかったから?
だがそれを考えても答えてくれる人はいない。
(…きっと彼女と少しいたせいで、彼女に対して情が少し移ったんだ。そうだ。きっとそう‥)
私は首を振りこのモヤっとした感情を消そうとした。
少し気持ち悪いこの感情。これがあると私の気持ちが揺らぐ。
私は魔力を伝ってしか感情が分からない。だからずっと私の中の感情と言うのは紛い物だと思っていた。
(今更本物の感情何て…いらないよ)
ずっとここにいては、これからの私の人生に悪影響になる。そう考え私はその場を去った。
「・・やっぱり、魔術は悪だ。そう魔術は‥‥悪…」
そう言葉をこぼし、私はその場を後にした。
* * * *
そこから十年?ちゃんと数えていなかったかったから細かい数字は分からないけど、とりあえず魔王が倒された後に、彼女の魂が数年後の未来に生まれ変わったのは想定外だった。
あいつ、モルガが何かしたと思うんだけど。
私の専門外だったから、詳しくは分からない。
ただ、もう魔術が表舞台に立つことはないと思い込んでいたから、少し私のやることが増えたというだけ。
心なしか嬉しいと思った気がする。
どうしてそのような感情になったのかは分からないけど…。
でも、また生きている彼女と話すことができるというのは、ちょっと‥ほんのちょっとだけ良いと思った。




