【5】 一日経って
「…なんか悪い夢を見た気がする…」
私は目が覚めるなりそう呟いた。
夢で何かを見た気がするけど思い出せない。なんか懐かしいような悲しいようなそんな夢だった気がするのだけれど。
(魔術でなんとかしたら思い出せるかな?)
確か人の記憶を思い出させる魔術はあったはず。これを使えば夢の内容も思い出せるのでは?と思った時だった。
「フローレ!!!緊急事態発生だ!!」
シルディアルはそう言って私の部屋のドアを全開にして入ってきた。
少しホワホワしていた私の脳もシルディアルの大声で覚醒した。
いや、覚醒させられたの方が正しいな。うん。
(ーっていうかここ女子寮だし、というか私さっきまで寝てたんだけど!?)
まだミルも私の部屋に来ていないのになんでシルディアルの方が先に来んのよという怒りは抑えつつ、私は半目でシルディアルを見る。
だがいつものシルディアルと違って余裕がない。前に研究室へ駆け込んできたシルディアルに似ている。
そう思いつつシルディアルが呼吸を整えるのを待っているとシルディアルは口を開きこう言った。
「先生が!!カルヴァス先生が捕まった!」
ーーと。
「え…?」
私は脳の処理が追いつかずにフリーズする。
(師匠が捕まった?)
そんな昨日話していたばかりの師匠が捕まることなんてあるのだろうか。
私は数分間ずっと捕まったと言う言葉を頭の中で繰り返していた。
時間が少し経ち、ようやく状況を飲み込み始めた私にシルディアルはゆっくりとその時の状況について話し始めてくれた。
* * * *
シルディアルは今日の朝、調べ物がしたくて先生の研究室に行ってたらしい。まぁ聞けば徹夜していたみたいだが。
そしたら急に衛兵が先生の研究室に入って来て先生を捕まえた。理由を聞いたが教えてはもらえなかったと言うことらしい。
どうにかして師匠を流そうとしたが師匠に止められ、とりあえず私に状況を話しにきてくれたそうだ。
シルディアルはこの話をしている間とても悔しそうに自分の拳を握っていた。
多分魔術で対抗しようとしたんだろうが先生に止められたのだろう。魔術を使えばお前も捕まってしまうと言われて…。
「…先生は無事?」
私はとりあえずこれだけをききたかった。
捕まったんなら無事とは言えないかもしれなけど、痛い思いなどしていないといいなと思った。
(師匠痛いの嫌いだしね、、、)
「まぁ、無事だよ。抵抗しなかったしな」
「そう。・・・それにしても、誰が先生のこと売ったんだろう。魔術の授業は昨日から禁止されてるし。それに先生魔術を人前じゃ使ってなかったはずなのに」
そう、魔術の授業は昨日から中止になっている。理由は言わずもがな魔術を学ぶものには罰が与えられることになったからだ。
それに師匠とは昨日そのことについて話していただけで魔術は使っていなかったはず。
使ったと言えば、師匠が自分のお茶を入れ直すときに使ったくらい・・。
「あ」
「どうかしたのか?フローレ」
「いや、その。なんで先生捕まったのかって。先生昨日のうちに魔道具も隠してたし、魔術関連のものは研究室に無いはずなんだ。だから冤罪をかけるにしても逮捕までにはいかないんじゃ無いかと思って。なのに逮捕されたってことは先生があのとき魔術を使ったのを見れられたのかなって思ってさ」
でもあの研究室に、師匠と私とシルディアル以外に人はいなかったはず。
それに隠れてみられてたとしても気づくはず。
「・・。あ、フローレ!なんか小さな点が」
「え?点?」
シルディアルが急に考え込んだと思ったら、私を見るなら手を伸ばしてきた。
その他は私の首筋に触る。
(別に恥ずかしがるようなことしてないんだけど、なんだか恥ずかしい!!)
なぞるようにシルディアルが私の首筋を辿るから思わず声が出てしまう。
早く終われ〜!と願った瞬間。
「!フローレ!これ盗撮機だ!」
「えっ!?」
シルディアルが大声でそういうので私は驚いて首元に手を当てる。
だかそこには何もなく、シルディアルの手にあるのが盗撮機らしい。
先程まで点だったはずのものが、鳥の形になっている。
(これいつからついてたんだろう)
これが私の首筋についていたから、師匠は捕まったんだ。
「・・別にフローレのせいじゃねぇからな。学園で魔術の先生やってんだ。今じゃなくてもいずれ捕まってたよ。流石に脱獄とかはさせてあげられないんだ。俺たちで犯人見つけようぜ」
私のせいという前にシルディアルがそう言った。
(そうだ。ここで私が悲観してたって意味がない。それに師匠の頼まれごともあるし、これを解決しないからには私のやりたいことはできないしね!)
私は溢れてきそうだった涙を拭い、シルディアルを見る。
そうだ。私は一人じゃない。立ち向かうのは私だけじゃないんだ。
「シルディアル、絶対に犯人を見つけようね」
「あぁ、見つけて懲らしめてやろうぜ」
そう言って笑うシルディアルの顔は輝いて見えた。まるで荒野に咲く一輪の花のように。
鳥がフローレについたのは4章の2話の最後です。




