【2】 久しぶりの魔術
色々と吹っ切れた次の日の朝。
シルディアルは私の部屋に来ていた。
本当はいけないのだが、朝目覚めるとなぜかそこにはシルディアルガいたのだ。
入室を止めるという話以前にいたのだ。
これは仕方がないと思う。
そう言うわけで、まだ授業まで時間がある私たちはのんびりと雑談をしていた。
「・・そう言えば、シルディアル」
「?なんだ?」
「カルヴァス先生とかさ、元気?ルリアンも」
最近は顔を合わせてすらもいなかった人達の名前をあげると、シルディアルは少し気まずそうな顔をしてこう言った。
「最近、俺も会ってねぇんだよ。その二人に」
「・・ん?」
私は思わず聞き返してしまった。
だってシルディアルは中等部の三年間は魔術の選択授業を選んでいたはずだ。(私は一年の後期から違う選択授業にしていた)
なら魔術部の担当のカルヴァス先生になら会うはずだ。なのに会わないということはシルディアルがサボっていたということだろうか。
イヤイヤ。さずなに優等生のシルディアルがサボる訳ないし。
でも・・?
そんな私の心情を察したのか、シルディアルが「あっ違うからな」と弁解してきた。
「サボってた訳じゃなくて、先生が忙しかったんだ。ほら、フローレ魔術部の特待生だったろ?特待生って半期に最低一つは論文は提出しなくちゃいけないらしくて、それを先生が代わりに書いてたから、授業は自習で先生自体を見かけなかったんだよ」
それはいけないことでは?と思ったが、原因は私にあるのでそこはスルーした。
多分私がまた魔術をやりたくなった時のために、帰る場所を残しておくために師匠頑張ってたんだよね。
魔術部は私が特待生だから存在していたような物だし。
(ちゃんと、今日学校に行ったら師匠に会いに行こう。それとルリアンにも)
「・・みんな私のこと何か言ってなかった?私のせいで文化祭のショーできなくなっちゃったでしょ?」
これについては本当に申し訳ないと思っている。でもあの時は魔術自体が怖かった。
他のことを考える余裕なんてなかったのだ。
(言い訳にしかならないけど)
「・・あ。それは。大丈夫だと思う」
珍しく、シルディアルが曖昧な回答をした。
いつもなら分からないことでも自信満々に言う人なのに。
それとも私に気を遣っているのだろうか。
「・・?」
「ま、そんなことよりさ、学校に行こうぜ。俺新しい魔術も使えるようになったんだ」
「そなの?」
上手く話を逸らされたが、まぁいいだろう。シルディアルの言う新しい魔術とやらの方が気になる。
「あぁ。この魔術は俺なりの超大作なんだ。じゃあ行くぜ?『精霊よ 我を新たな地へと 運びたまえ!』」
「えっ!?今!?」
まさか今やるとは思っていなく、私は慌てて明日の上に置いておいた鞄を手に取る。
(あぁーもう!せめてやるならやるって事前に言っておいてよ!)
これで、今日の授業で忘れ物があったらどうするんだとシルディアルにクレームを入れたかったが、本人は久しぶりに私の前で魔術を披露することができるせいか、妙にご機嫌である。
シルディアルが楽しそうでなにより・・と思った瞬間。目の前の景色が急に変わった。
否。私たちが転移したのである。
目の前には私の教室があった。
「えっ?」
私は目をぱちくりとさせ、そう言葉をこぼす。
でも仕方がないことだと思う。
だってまさかシルディアルがこの三年間で転移魔術を使えるようになってるとは思わなかったから。
(え?だって転移魔術ってかなりの魔力が・・あ)
その疑問はすぐに解消された。
だってシルディアルの魔力はかなりあるのだから。
(そうだよ、初めてシルディアルが魔術を使った時威力が強くなったじゃないの)
すっかりその記憶が抜け落ちていた。
「どうだフローレ。この魔術さえあれば、近くは絶対にしないぞ!」
「遅刻って・・」
そもそもその時間まで寝てたらアウトでは?と思った。
まぁその時はそのとき考えればいいのだろうけど。
「でもよくこの短期間で、この魔術を習得できたね。転移魔術ってかねり高難易度の魔術のはずなのに」
そう。転移魔術は魔力消費量も多い上に、習得がかなり難しい。
魔術陣が古いのしかないせいで。現代人には再現不可能なのよねあれ。
私も師匠のおかげで、転移魔術が少しだけできるが、本の知識だけでは恐らく不可能と言っていいほどに大変だ。
(あ、もしかしてシルディアルは師匠にお願いして、この魔術の完成させたのだろうか?)
それなら納得がいくが、でもシルディアルは師匠と会っていなかったと言っていたような?
「ま、細かいことはいっか」
色々考えるのは苦手な性分なので、考えるのは諦めた。
そとそもシルディアルは天才肌だ。ちょっと難しい魔術を再現することだって可能なはずだ。多分。
* * * *
そんな様子を見ている者が一人いた。
「・・また、魔術をやり始めるのね。ふーん、そう」
女はそう言うと、何かを唱え小さな鳥を出現させた。
「いい?あの女についているのよ?」
女はそう言うと、鳥をフローレの方へ飛ばせ、その場を去った。
ーーー時がまた動き出そうとしていた。




