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カエシテ……

作者: 八巻孝之

夜、スマホに知らない番号から着信があった。

 気味が悪いけど、なんとなく取ってしまう。

『……かえして……』

 しわがれた声。

 イタズラか?と切ろうとした瞬間、耳元でささやかれた。

『そこに、あるでしょ……返して……』

 思わず部屋を見回す。

 部屋にはいつも通り、漫画とゲームと飲みかけのコーヒー缶。

 だが、ふと机の端に目が止まった。

 古びた指輪。

 あれ、これ……いつ拾ったんだ?

 昨日、学校の帰り道で道ばたに落ちてたやつか。

 ただのガラクタだと思って持ち帰ったんだよな。

『返して……今、そこにいる……』

 背筋が凍った。

 視線を感じる。

 振り向きたくない。けど、振り向いてしまった。

 そこに……いた。

 髪が濡れ、目が潰れた女が、俺を見下ろしていた。

 口だけがにやりと笑っている。

「……ごめん……ごめんなさい……!」

 必死で指輪を差し出すと、女の白い指がそれを取った。

 瞬間、女の姿は霧のように消えた。

 心臓がバクバクして、足が震える。

 スマホを見ると、通話は切れていなかった。

『ありがとう……でも……』

 まだ、声が聞こえた。

『あれ……これ、私のじゃない……』

 背筋が凍り、もう一度部屋の中を見回した。

 その時、クローゼットが――ギイ、と音を立てて開いた。

 中には、もっと古い、もっと黒ずんだ指輪が……転がっていた。(553字)

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