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8話

「んあ」


 目が覚めた俺はベッドの上で横になっていた。

 ここはリントの部屋……だよな?

 昨日は酒を少し飲んで、それから――それからどうしたんだっけ。


 リントが目の前で静かに寝息を立てている。

 もしかして、同じベッドで寝てたってこと?


 リントの顔が近い。

 薄い水色の髪が呼吸に合わせて小さく揺れている。

 長いまつ毛、形のいい鼻にぷっくりした唇。


 そうだ、昨日はジェキルに口移しで酒を飲まされたんだった。

 冗談でもやっていいことと悪いことがあるよなぁ。

 でも、ジェキルの唇、やわらかかったな……。


 リントの唇もやわらかそうだ。

 顔を少し近づけてみるが、まったく起きるそぶりがない。

 キスしたって気づかないんじゃないか。

 いやいや、俺は何を考えているんだ。


 その時、ふいにリントが目を開けた。


「あっ」

「おはよ~♪ アオイちゃん。今、何しようとしてたん?」


 ニマニマと笑みを浮かべながら俺を見る。

 な、なんてヤツだ、寝たフリしてたのかよ!


「い、いや別に、よく寝てるな~って思って見てただけだよ」

「ホンマかな~? その割には顔めっちゃ近くなかった?」


 気のせいだよ、とつぶやきながら俺は起き上がった。

 体が少しだるい。二日酔いってこういう感じなんだろうか。


「さっきまで、ジェキルちゃんも一緒に寝てたんやで? ふたりとも酔っ払って大変やったんやから。ディモンちゃんがウチの部屋まで連れてきてくれてん」

「ああ、そうなんだ……」


 そんなに量を飲んだつもりはなかったんだけどな。

 体質的にあまり飲めないタイプみたいだ。気をつけよう。

 ベッドまでディモンが運んでくれたのか。悪いことしちゃったな。


「オークションの場所は貸してくれそう?」

「うん。利益の一割をディモンちゃんに支払うって約束で借りれたわ」


 俺が酔ってふらふらしてる間に、リントが話をつけてくれたのか。

 なんだか申し訳ないな。挽回するためにも、今日はしっかり働こう。


「ジェキルは帰ったのかな?」

「冒険者ギルドに依頼完了の報告をしに行くって。また後でな、って言ってたで」


 冒険者としてギルドに完了報告をして、報酬を受け取るわけか。

 俺たちも報告にいかなきゃいけないよな。


「さ! もう昼前やでアオイちゃん。着替えてご飯食べたら、ウチらも冒険者ギルドに行くで~!」

「そ、そうだよな。ごめん、すぐ準備するよ」


 俺はのろのろとベッドから起き上がると、外出の準備をはじめた。




「ご報告ありがとうございます。フィセルの魔窟探索、無事完了ですね」


 冒険者ギルドの受付で、エルムさんが書類に判を押しながらにっこりと微笑む。

 依頼する側と受けた側が冒険者ギルドに報告することで、依頼は完了する。

 事前に俺たちが支払っていた金額から手数料を差し引かれた分が、ジェキルに手渡されるという流れだ。


「で! オークションを開催する場所が決まってん! だから、明日から告知したいねんけどいい?」

「ええ、承りますよ。では、こちらの用紙に開催日時と場所、募集する参加者の数を書いてください」


 リントがカウンターで軽快に羽ペンを走らせる。

 七日後の昼下がり、紅玉の鹿亭で開催するとして。

 参加者は二十人も集まれば充分に盛り上がるだろう。


「よっし! ほなエルムちゃん、チラシができたらババーンと目立つ所に貼ってや!」

「あら、ごめんなさい。通常の依頼はあちらの掲示板に貼る決まりなんです」


 エルムさんが手のひらを向けて示した先には、冒険者たちが依頼を確認する掲示板、いわゆるクエストボードがあった。

 さまざまな依頼内容が書かれた紙が、三十枚ほど貼られている。


「ええ~!? こんなん、全然目立たへんやん。もっとええ場所ないの?」

「では、入口から入ってすぐの正面にある柱はいかがですか? 一日あたり銀貨五枚で告知できますよ」


「んなっ!? カネ取るん? アコギな商売やなぁ」

「あいにく、依頼内容を目立たせたいのはリントさんたちだけじゃありませんから。明日からオークション開催前日までの六日間なら金貨三枚。先払いになりますよ」


 エルムさんが優しい笑顔を崩さずに言う。

 リントが頬を膨らませて睨みつけるが、全く動じない。


「わかった。でも、六日間も告知するんやから、ちょっとだけまけて!」

「そうですね。では金貨二枚と銀貨七枚にいたします。これ以上は無理ですよ」


 手痛い出費だが仕方ない。

 なにしろ出品者・落札者が集まらないことにはオークションは成り立たない。

 特に魔道具専門、となれば出品者は限られるからな。


「ええ商売やな~。正式に申し込むわ。はい、金貨二枚と銀貨五枚」

「うふふ、銀貨七枚ですよ? リントさんったら面白い方ですね」


 リントの姑息な値下げ作戦もエルムさんには通じなかった。

 今後も集客は冒険者ギルド頼みなのだから、あまり揉めないで欲しいところだ。


「ところで、ジェキルは今日は来てないんですか?」

「午前中にいらっしゃいましたね。お忙しそうで、報告が終わってすぐに帰られましたよ」

「ふーん、なんか用事あるんかな? ま、ええか。ほなアオイちゃん、お買い物して帰るで~」


 リントはエルムさんに向かって手をひらひらと振ると、扉に向かって歩きだしていた。

 商品も集めて、場所も日時も決まった。

 後は参加者を募るだけだが、これはもう冒険者ギルドの集客力を信じるしかない。




 宿に帰る前に、オークションを開催するために必要な小物をこまごまと購入しておいた。

 商品を保護するための白い手袋や、落札時に使う木製のハンマーと台など。

 これでいよいよ準備は万全だな。


 紅玉の鹿亭の横にある階段を上がって二階にあるリントの部屋に向かうと、数人の男たちが書棚を運んでいた。

 ん? 引っ越し業者の人かな。


「あー、それは適当でいいよ。で、こっちの机と椅子は窓際の方に置いてくれ」


 ジェキルが男たちに指示を出していた。

 家具がリントの部屋の隣室にどんどん運び込まれていく。


「あれ? ジェキルちゃん、何してるん?」

「おー、お前ら。今日からはお隣さんだ。よろしくな」


「えっ? ジェキル、もしかしてリントの部屋の隣に引っ越してきたの?」

「ああ、そうだぜ。お前らの仕事――オークションハウスだっけ? あたしも手伝ってやるよ」


 ジェキルがウインクしながら言った。

 荷物を運び終えた男たちが、会釈をしながら階下に去っていく。

 メンバーは俺とリントしかいなかったから人手が増えるのはありがたいけど、ずいぶん決断が速いな。


「手伝ってくれるん? めっちゃ助かるわ、ジェキルちゃ~ん! でも儲かるかどうかわからんし、正直、給料も支払えるか怪しいで?」

「カネは出世払いでいいよ。ただ『人探しに使える魔道具』があったら、あたしに譲ってくれないか」


 そういうことか。ジェキルのお父さんを見つけられる魔道具も、オークションに出品される可能性はある。

 主催者である俺たちが落札してしまえばいい。

 もちろん参加者には俺たちが入札することもある、と事前に告知しておく必要はあるだろうけど。


「ええやんな? アオイちゃん」

「ああ、大歓迎だよ。ジェキル、これからもよろしく」

「よし、決まりだな! 引っ越しの挨拶ってことで、これ持ってきたぞ」


 ジェキルは足元に置いてあった木箱から、液体の入った瓶を取り出した。

 それってもしかして。


「気が利くや~ん♪ よっし、今日はジェキルちゃんの歓迎会やな!」

「いや、俺は酒はちょっと――」

「ほらアオイ、遠慮すんなよ。入れ入れ」


 力づくでジェキルの部屋に押し込まれる俺。

 仲間が増えたのは嬉しいけど、もしかして今日も飲まされるのか!?


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