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7話

 フィセルの魔窟から街に戻った俺たちは、鑑定のために魔道具店に立ち寄った。

 リントがカバンからひとつずつ魔道具を取り出し、カウンターに並べていく。


「ほう、これまたレア物ばかり見つけてきたな」


 ロダンが興奮気味にルーペを握りしめた。

 このリアクションを見るに、結構良い魔道具が揃ったんじゃないだろうか。


「ふふ~ん、そうやろ?  苦労したんやから。さ、おっちゃん、どんな効果があるか、鑑定してな~」

「ああ、わかった。そんなに時間はかからないから、店の中を見て待っていてくれ」


 ロダンがカウンター前に置かれた全身鎧を興味深げに触りだした。

 表面に刻み込まれたルーン文字を、手元のメモを見ながら解読しているようだ。


「なあ、人探しに使える魔道具もあんのか?」

「人探し?  ああ、探したい人を念じながら触れることで、その人の映像を浮かび上がらせる水晶玉があると聞いたことがある。あいにく、ウチでは取り扱ってないがな」


 ジェキルの問いに、ロダンは鑑定しながら答えた。

 そんな便利な魔道具があれば、ジェキルのお父さんもすぐに見つかりそうなものだ。


「魔法の水晶玉か。今まで魔道具を使って探すなんて、考えたことなかったな。なあ、お前らがもし見つけたら、あたしに売ってくれよ」

「ん?  ええで~。出品者の誰かが持ってきてくれるかもしれへんもんな。ジェキルちゃんになら、特別価格で売ってあげるわ♪」


 多くの人から出品を募れば、いろんな魔道具が集まるに違いない。

 ジェキルの役に立つものが見つかったら、出品前に知らせてみよう。

 ダンジョン攻略ではお世話になったもんな。


「よし、大体の鑑定結果が出た。こっちの端から説明していくぞ」


 ◯青いガラス瓶

 中に入れた水を浄化して飲水にしてくれる。

 買取相場は金貨三枚。


 ◯古びた円形の手鏡

 鏡自体が発光するので、暗い場所でも使える。あと、肌がちょっと綺麗に見える。

 買取相場は金貨二枚。


 ◯小さなクリスタル

 十秒間、音声を録音及び再生できる。

 買取相場は金貨五枚。


 ◯フィセルの魔窟で見つけた短剣

 聖なる気を放つ、不死系のモンスターに有効な武器。

 買取相場は金貨十二枚。


 ◯ルーン文字が刻印された全身鎧

 魔法の力で重たさをほとんど感じずに着こめる。

 買取相場は金貨二十枚。


 ◯ミミックが守っていた懐中時計

 事前に念じておくと、任意の時刻にアラームが鳴る。

 買取相場は金貨八枚。


「おお~! この鎧、金貨二十枚になるん? 目玉商品に決定やな」

「やっぱりフィセルの魔窟で見つけた魔道具の方が価値が高いな。あといくつか出品してもらえたら、初回の競売は成り立つんじゃないか」


 初めは三十個もあればいいだろう。

 そもそも魔道具って貴重なものらしいからな。

 良い噂が冒険者たちの間で広まれば、その次の競売ではもっと魔道具がたくさん集まるに違いない。


「じゃ、あたしはギルドに報告して帰るよ」

「はあ~? 何言ってるん、ジェキルちゃん! これから打ち上げやで? ウチええ店知ってるねん。行こ行こ~♪」


「んー、ハラも減ったしな。リントが奢ってくれるならいいぜ」

「もっちろん♪ ジェキルちゃんのおかげで魔道具も手に入ったしな。今日はウチ『ら』のおごりで飲も!」


 ちゃっかり勘定に俺が入っている……!

 ただ、リントの言う通りジェキルのおかげで怪我もなくダンジョン探索ができたもんな。

 これからもお世話になるかもしれないから、ちゃんとねぎらっておこう。





 宿に戻った俺たちはリントの部屋で装備を外すと、大浴場で汗を流した。

 慣れないこと続きで疲れたので、ご飯を食べたら後はもう寝るだけにしておく。


 ジェキルは着替えを持っていなかったので、リントの部屋着を借りたようだ。

 袖のないタンクトップのようなシャツに、短パン。

 ちょっとサイズが小さいらしく、豊満な体が窮屈そうだ。

 風呂上がりだからか、いつにも増して色気がすごい……目のやり場に困るな。


「ってわけで、魔道具の獲得を祝ってかんぱーい♪」


 宿の一階にある酒場『紅玉の鹿亭』の円卓についた俺たちは、木製のマグで乾杯した。

 給仕のお姉さんによって、円卓には次々と料理が運び込まれていく。


 そっとマグに顔を近づけてみると、リンゴとオレンジが混ざったような甘い匂いと、アルコールっぽい香りがした。

 うーん、酒なんて飲んじゃっていいのかな?

 おそるおそる飲んでみると、甘くて飲みやすかった。これは調子に乗って飲むと大変なことになる気がするな。


「アオイ、お前飲めるクチなのか?」

「いや、俺まだ十七歳だから飲んだことないよ」

「ウチと同い年やん。この国では十六歳から飲んでもええねんで~♪」


 あ、そうなんだ。この果実酒らしきものは、そんなにアルコール度数は高くなさそうだけど。


「なんだよ、アオイってあたしと一個しか違わないのか。可愛い顔してるから三個ぐらい下かと思ったよ」

「そやな~♪ でもダンジョンではカッコ良かったで!」

「あはは、ありがと」


 戦闘面ではちょっとしか役に立てなかったけどね。

 俺は今日の戦いを思い返した。この剣さえあれば、もう少し戦えるようになれるかもしれない。


「んで、お前らってどこで競売をするつもりなんだ?」

「場所はまだ決まってないねん。前は広場でやったけど、商品の数が多くなったら管理が大変やしなぁ。アオイちゃん、どうしよか」

「うーん、そうだなぁ」


 魔道具の保管に関しては、リントが持っている魔法のカバンでなんとかなるとして。

 競り落とされた品物を置く場所なんかも必要になるよな。


「この調子で魔道具が集まるのなら、どこかで店舗を借りたほうがいいのかな?」

「いきなり店舗を借りるのかよ。月に金貨五十枚はかかるぜ」

「うーん、初期費用は控えたいねんな~。――せや!」


 リントは勢いよく立ち上がると、店の奥でカウンター越しにおじさんに話しかけ、手招きをした。

 紅玉の鹿亭の店主、ディモンだ。

 角刈りに長めのもみあげ、太い眉にキレイな二重。かなり濃ゆい顔立ちである。

 元冒険者だったそうで、筋骨隆々のゴツい体格をしている。


「おう! どうだウチの料理は!」


 リントに連れられたディモンは、俺の隣の席に座った。

 背中をバァンと力強く叩かれる。


「ど、どれも美味しいです」

「ああ、悪かねーな」


 ジェキルは豪快に肉と野菜の串焼きをほうばっている。

 葉物野菜のスープに肉の煮込み料理、ふわふわのパンたち。

 ディモンが自信満々に問いかけるだけあって、どれもうまい。


「だっはっは! そうだろうそうだろう! なんたってウチはファストの街で一番うまい店って評判だからよ」

「そうそう、そのスッバラシイお店の素敵なオーナー様に、ぴっっったりの儲け話があるねん♪」


 リントが怪しい笑みを浮かべながらもみ手をする。

 目だけは全然笑っていない。


「ほーん、儲け話? 聞かせてもらおうじゃねえか」


 ディモンは白い歯を見せてニカッと笑った。

 こちらも目が笑ってない。


「ちなみにディモンちゃん、このお店ってお昼以降はどうしてるん?」

「ん? ランチの時間が過ぎたら、夜までは閉めてるぜ」


「えええええ~!? そんな、ウソやろ~もったいない!」


 リントがおでこに手を当てながら、大げさに天を仰ぐ。


「こんな好立地かつ評判の良いお店を閉めておくなんて、もったいな過ぎるで? 開けてたらもっと稼げるのに」

「ま、そうかもな。で、核心は?」


「そ・こ・で! お互いが儲かるお話があるねん。ウチらは魔道具を集めてオークションハウスをやるつもりやねんけど、競売をする場所がないねんな。だから、このお店を閉めてる時間だけ、ウチらに貸してくれへん?」


 なるほど、酒場を間借りさせてもらうつもりか。

 確かにここなら椅子もテーブルも用意されているし、広さも充分だ。


「魔道具の競売か。面白そうではあるけどよ、俺の店になんかメリットあんのか?」

「もちろん! 競売に参加するには入場料を貰うねん。で、入場者には酒を一杯だけ無料で振る舞う」


「ほーん、酒を飲みながら競売に参加できるんだな。そんで?」

「一杯飲んでほろ酔いの入場者が、競売が終わった瞬間にサクッと帰ると思う?」


「ま、その場で飲み始めるだろうな」

「せやろ~? ウチらのオークションハウスのお客さんが、そのまま紅玉の鹿亭のお客さんとして残ってくれるってわけ。な? めっちゃ儲かるやろ?」


 提案を聞いたディモンは、太い腕を組んで豪快に笑った。

 リントの案は双方にメリットがある。

 ただ、そんなことしなくても儲かってそうなんだよな、このお店。


「いいぜ。その話、乗ってやる。俺も若者の夢を手伝ってやりてえしな。ただ、無料で店は貸せないぜ?」

「さっすがディモンちゃん、商売人♪ もちろんタダちゃうで? 競売の利益の一割を――」


「おいおいおいおい、慈善事業でやってんじゃねえからな。二割は貰わねえと」

「ディモンちゃ~ん、そんなんウチら干上がってまうわ」


 なんだか熱い交渉が始まってしまった。

 ただ、本当にここを借りられるならすぐ上が宿になるわけで、便利なことこの上ない。

 月額の固定費も安く抑えられるかも。


「おおい、アオイ~! お前呑んでんのかよぉ」


 椅子を近づけてきたジェキルが、俺にしなだれかかってくる。

 ちょっと待った、この人もう酔ってるぞ。しかも絡むタイプだ!


「ひょうがねえなぁ~」


 ジェキルはマグを傾けて、果実酒を口に含む。

 そしておもむろに俺の首を押さえつけると、口移しで酒を飲ませてきた!


「んんんんんんんん!!!」

「あひゃひゃひゃ! 美味いだろ?」


 な、な、なんてことを……!

 ジェキルは円卓を叩いて爆笑している。

 リントもディモンも交渉に白熱しすぎて気づいていないようだ。


 俺はボーッとしながら天井を見上げた。

 酔った勢いで無理やりとはいえ、ジェキルとキスしてしまうなんて――


 それにしても、いい匂いがしたなぁ。

 俺、初めてだったけど、こんなにキレイなお姉さんとなら――違う違う、俺はなにを考えているんだ!?

 だめだ、頭が回らない……!


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