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6話

 重々しい木製の扉がゆっくりと開いていく。

 扉の向こうの薄闇に立っていたのは、全身に鎧を着込んだ男だった。

 洋館に置いてありそうな、金属製の全身鎧だ。

 フルフェイス型の兜で顔は見えないけど、体格からしてきっと男だろう。

 全身から怪しい魔力を発しているように感じられた。


「こんちは~! お兄さんも冒険者なん?」

「待て、リント。そいつに近づくな」


 挨拶をしながら歩き寄ろうとするリントを、ジェキルが制した。

 視線を鎧から外さない。

 鎧はゆっくりと部屋に入ると、腰に差していた剣を引き抜いた。


「やっぱそうか。こいつはリビングアーマー、魔物だ。普段はもう少し下の階層にいるはずなんだけどな」

「ひえ~! 鎧に悪霊が取り憑いた魔物やろ? アオイちゃん、ウチ怖い!」


 リントが俺の腕にしがみつく。

 魔物なのか? たしかに動きに生気が見られない。

 なにかに操られているような歩き方だ。


 リビングアーマーは剣を振り上げると、ジェキルに斬りかかった。

 広間に金属が打ち合う音が鳴り響く。

 ジェキルが大剣で応戦する。


 俺は剣を抜き放つと、激しく打ち合う両者の横側にまわった。

 魔力の流れを読むことに集中する。


「アオイちゃん、危ないってば! ジェキルちゃんも下がってろって言ってたやん」

「ああ、無理はしないよ」


 リビングアーマーの表面には細かいルーン文字のようなものが刻まれている。

 放つ斬撃も重く、鋭い。

 コボルトとは比較にならないほど手強い相手のようだ。

 リビングアーマーが動くたびに、胸のあたりに魔力が集中しているのを感じる。

 動力源があそこにあるのか?


「この!」


 ジェキルが押し出すように蹴ると、リビングアーマーがグラつきながら後退した。

 なるほど、中身は空っぽだから鎧の重さだけなんだな。

 見た目より軽いヤツなのかも。


「ジェキル! そいつの足を払ってくれ」

「ああ? 何をするつもりだよ」


 振り返らずに、ジェキルが大剣でリビングアーマーの足元を払った。

 予想通り、バランスを崩したヤツは尻もちをついた。

 俺は一気に間合いを詰め、胸のあたりを剣で突く。


 切っ先はなんの抵抗もなく、厚い金属板を貫通した。

 広間中に悲鳴のような声が轟く。

 紫色の霧が鎧の隙間から立ち上り、リビングアーマーはまったく動かなくなった。


「すっご~い、アオイちゃん! 弱点が見えてたん?」

「うん、魔力が胸に集まっていたからね。きっと取り憑いていた悪霊がそこにいるんだろうな、って」

「ふう、正直助かったぜ。この鎧、やけに頑丈だったからよ。それにしてもお前の剣、すごい切れ味だな」


 刀身を見てみたが、あれだけ硬いものに突き入れたのに刃こぼれひとつ起こしていない。

 やっぱりとんでもない魔道具だったみたいだ。

 俺はリビングアーマーだった金属鎧を見た。


「もう倒したはずなんだけど、魔力が消えていないな。この鎧自体も魔道具なのかも」

「えっ、そうなん!? 確かに高そうな鎧やもんなぁ。そうと決まれば回収~♪」


 リントは座り込むと、肩にかけていたカバンの口を開けて兜の部分に押し込んだ。


「いやいや、無理だよ。そのカバンじゃ兜も入らないって」

「ふふ~ん♪ まあ見ててな」


 リントはにんまり笑いながら俺にウインクしてみせた。

 次の瞬間、俺の身長よりも大きな全身鎧が吸い込まれるようにカバンの中に消えていった。


「へっ!? なにそれ、どうやったの?」

「そのカバンも収納の魔法がかかった魔道具なんだな。お前、良いモンいっぱい持ってるなぁ」

「へへーん、ええやろ♪ 商人の娘なめたらアカンで~!」


 倉庫一個分ぐらいの収納力を持っていて、何を入れても重さは変わらず、必要な物をすぐに取り出せるらしい。

 旅をしている割には荷物が少ないと思ったら、そんな便利な物を持っていたのか。


「さて、これで魔道具はふたつ目だな。もう少し潜ってみるか?」

「もっちろ~ん! あと一個ぐらいは持って帰りたいなぁ」


 露店で買い集めた魔道具が三つ、このダンジョンで三つ用意できれば、初回のオークションぐらいはなんとかなるかな。

 まだまだ遠くに魔力を感じられる部分はたくさんある。

 俺たちは広間を抜けた先にあった、地下二階への階段を降りていった。


「なあなあ、ジェキルちゃんって何でわざわざ冒険者なんかやってるん? 黙ってたら美人やのに」

「ん? あたしは……パパを探してるんだよ」

「居場所がわからないのか?」


「ああ。パパも冒険者だったんだけどさ。『魔王討伐に行く』って家を出てそれっきり。ママはずっと泣いてるし、あたしも冒険者稼業を続けてればいつか会えるかなって」


 ジェキルは神妙な面持ちで石の階段をゆっくりと降りていく。

 そういえば最初に俺が召喚された時も、魔王がどうのって話をしていたな。


「ふ~ん。パパさん、見つかったらええね。ていうか、ジェキルちゃんって親のことパパ・ママって呼ぶんや。なんか意外~」

「な、なんだ、悪いかよ。茶化すなよ」


 ジェキルが顔を赤らめる。

 確かにいつもの話し方からすると意外だけど、両親のことを大事に想っているのが伝わってくる。

 依頼を受けながら冒険者としていろんな場所に出向く、というのは人探しそするうえでは有益だろうな。




 ダンジョンの地下二階にはコボルトが三体ほど出現しただけで、特に問題なく進んだ。

 相変わらず広々とした空間が広がっている。

 こんなに広大なダンジョンを作るなんて、フィセルって人はとんでもない魔法使いだったんだろうな。


 ぼんやりと光る壁を触りながら進むと、通路の奥は行き止まりになっていた。


「ちっ、こっちの道は行き止まりかよ。引き返すぞ」

「ちょっと待って! なんか宝箱が置いてるで!」


 引き返そうとするジェキルの腕を、リントがぐいぐいと引っ張る。

 振り返ると行き止まりの隅っこに木箱が置いてあった。


「アオイ、どうだ」

「うーん、なんか怪しい魔力を感じるんだけど」


 まだ十メートルほど距離があるにも関わらず、箱から禍々しい気を感じる。

 呪われた魔道具でも入っているのか、それとも――


「うさんくさいな。ミミックじゃねえのか?」

「お宝かもしれへんやん、とりあえず開けてみよ!」


 リントがずんずん突き進んでいく。


「ちょ、ちょっと待ってリント。俺が開けるよ」

「やめとけって。いきなり襲いかかってくるかもしれねーぞ」

「リスクを恐れてたら商人なんてやってられへんで!」


 俺とジェキル、二人がかりでなんとかリントを引き止める。

 楽観的な子だなぁ。いや、無鉄砲というのかもしれない。


「わかった、ほなこうしよ。ウチがこっから魔法で様子を見るわ。それでええやろ?」


 リントが小さな杖を掲げる。

 あ、そうなんだ。魔法とか使えるんだ。

 俺とジェキルは一歩さがって見守った。

 杖の先端に、キレイな緑色の光の粒が集まっていく。


「エアスラッシュ!」


 リントの声とともに、杖の先端から風の刃が放たれた。

 直撃した木箱が裂け、ギュエエッという聞いたことのない絶叫がわいた。

 木箱の開け口に鋭い牙が並んでいるのが見える。

 箱の魔物はびょんびょんと跳ねながら俺たちに向かってくる。


「あっれ~?」

「おい、やっぱりミミックじゃねーか!」


 ジェキルが大剣で斬りつけると、ミミックは壁まで吹っ飛んだ。

 俺が追い打ちで剣を振り下ろす。

 まっぷたつに割れたミミックは二度ほど痙攣してから、静かになった。

 開け口に並んでいる牙が、紫色の霧になって消えていく。


「リント、お前な~!」

「にゃっはっは! まあまあ、誰もケガせんかったからええやん」


 ぺろりと舌を出してごまかすリント。

 結構なトラブルメーカーっぷりだなぁ。

 ただ、リントが使った風魔法でかなりダメージを負っていたみたいだし、まあいいか。


「さて! 中には何が入ってるかな~って、わお♪」


 木箱をのぞき込んだリントは、小さな魔石と懐中時計を拾い上げた。

 懐中時計から強い魔力が放たれているのがわかる。


「これも間違いなく魔道具だね。今日見つけた中では一番強い魔力が出てるよ」

「ぃやったぁー! そうそう、ウチ、この木箱を見つけた時にピンときてん。商人のカンってやつやな」

「まったく、調子のいいヤツだな」


 呆れるジェキルをよそに、リントは腕組みをしながら満足気にうなづいている。

 危ない目にもあったが、目当ての魔道具は三つも見つかった。

 フィセルの魔窟で手に入れた魔道具なんて、出品物として注目を集められそうだ。

 異世界でオークションハウスを成功させるには、リントぐらい積極的じゃないといけないのかも。


 懐中時計をカバンに入れると、俺たちは入口に向かって来た道を戻っていった。


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