3話
「うわっ、すごいなこれ……」
軽い気持ちで振った剣は、なんの抵抗もなく薪をまっぷたつにした。
昨日手に入れた剣がどれほどのものか、宿の裏庭で試していたのだ。
ちなみに学生服は目立つので、近くの道具店で動きやすい服を買い、着替えておいた。
俺は剣なんて触ったのも初めてだが、直径十センチぐらいある薪が見事に両断されている。
刃の表面はところどころ錆びているのに、とんでもない切れ味を秘めた剣だ。
「これだけすごい剣だと手放すのはもったいないな」
「まあ無理に売らんでもええんちゃう? 護身用に持っておくとか」
リントは木製のベンチに腰かけて、袋から朝食を取り出している。
俺も隣に座り、サンドイッチのようなものを受け取った。
葉物野菜と鶏肉らしきものが、薄いパンに挟まれている。
甘酸っぱいソースがかかっていて美味しい。
リントが早起きして作ってくれたのだそうだ。ありがたい。
異世界でも味覚が合うならやっていけそうな気がするな。
「はい、アオイちゃん。あ~ん♪」
「あ、ありがと。大丈夫だよ、自分で食べれるから」
「もう、照れんでもええのに。一夜をともにした仲やんか♪」
俺は吹き出しそうになるのをこらえた。
ウソじゃないけど、誤解のある言い方だな!
「それにしてもアオイちゃん、朝弱いん? なんかぼーっとしてるな」
「え? いやいや、慣れない土地でちょっと疲れただけだよ」
俺は昨日のことを思い返していた。
一階の酒場で食事を済ませた後、宿泊者が利用できる大浴場を使わせてもらった。
手のひらから魔力を通すとお湯が出る、シャワーのような魔道具には驚いたな。
部屋に戻るとリントはベッドで、俺は二人がけのソファで横になった。
リントは『ほな、おやすみ~♪』と言い終わった直後に寝息を立てていたが、俺は緊張して明け方まで眠れなかったのである。
「んで、アオイちゃんはその『慣れない土地』で何するん?」
「何をするって、そうだなぁ……」
正直、元の世界に戻りたいとは思わない。
親も兄弟もいない俺は、帰ったところでバイトと学校に行くだけだし。
俺は膝の上に置いていた剣を見た。
「こっちで魔道具ってやつを集めてみたいかな。この剣以外にも、不思議な力を持ってる道具がいっぱいあるんだろ? そういうのってワクワクする」
「魔道具集め、か。面白そうやな! ウチの目利きの勉強にもなるし♪」
「とりあえず、昨日の広場で探してみようか」
「りょーかい♪ ほないこか~!」
軽快に駆け出すリント。
俺は残りのサンドイッチを口に放り込んで後を追った。
太陽が真上にのぼり、気温も上がってきた。
今日も広場にはたくさんの露店が並んでいる。
俺は片っ端から魔力を感じる道具を探していった。
「あのさ、リント。魔道具って誰が作ってるの?」
「魔法使いが魔力を物の中に封じ込めたものが魔道具やねん。で、持つ人の魔力に応じて不思議な力を発揮するってわけ」
リントは露店に並べられた古い壺の中をのぞき込む。
「なるほど。魔道具の中でも価値がわからないものが、こういった市場に紛れ込んでるってことか」
「そやな。アオイちゃんが持ってる剣みたいに、大昔の魔法使いが作った魔道具もあるからね」
長い年月の中で魔道具であることに気づかれないまま、古物として流通していくんだな。
ただ、露店に並んでいるものの中に魔道具はほとんど見当たらなかった。
大抵は昨日行った魔道具店に集まっているんだろう。
そう簡単には見つからないか。
青いガラスで作られた瓶。銀貨一枚。
古びた円形の手鏡。銀貨ニ枚。
片手に収まるぐらいのクリスタル。銀貨一枚。
ニ時間ほど見て回って、やっと見つけた魔道具がこの三点だった。
俺たちは広場の隅に置かれたベンチで休憩しつつ、作戦を練る。
「んん~ちょっと微妙やなぁ。そうそう掘り出し物ってないんやね」
「そうだな。それぞれ魔力が込められているのは間違いないけど、この剣に比べるとかなり弱いよ」
俺は青いガラス瓶を太陽にかざした。
中には透明な液体が入っているが、開けてみる勇気はない。
「もっと一気に、ぶわ~っと集める方法あらへんかな?」
「他の街の市場で探してみようか。ここより大きい街に行ってみるとか」
「うーん、馬車でも二日ぐらいかかるで? 運賃もひとりにつき金貨三枚はいるし」
「そうか。それじゃあ、費用も時間もかかりすぎるな」
車も電車もない世界だから、移動しながら探すのは大変だ。
ひとつの市場でたくさん魔道具が見つかればいいけど、そうでなければ採算が合わない。
一気に集める方法か……。
昨日、ボールペンを競売にかけた時、人は集まったんだよな。
だったら――
「今思いついたんだけどさ。リントと俺で『オークションハウス』をやらないか?」
「オークションハウス? 何それ」
「商品を売りたい人・買いたい人たちを集めて、競売する組織のことだよ。そうすれば手元にたくさん魔道具が集まるだろ?」
「ええやん、それ! 競売の場を用意して、手数料で儲けるってことやんな」
「そうそう。昨日、リントが俺から手数料をとったみたいにね」
「えへへ」
リントはばつが悪そうに頭をかいた。
出品者・落札者から一割ずつ手数料をもらえたら、こっちでも生活していけそうだ。
「場所はこの広場を借りるとして、後は出品者を集めないとな。競りにかける魔道具がないと始まらないし」
「それやったらうってつけの場所があるで」
「へえ、どこ?」
「冒険者ギルド♪」