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1話

「ええと、イチノセ・アオイ様のスキルは『魔力探知』ですね……」


 目の前にいるローブを着た男は、あきらかにガッカリした様子でそう言った。

 この人たちは、戦闘に役立つスキルを持った異世界人を探しているらしい。

 俺から見れば、この人たちの方が異世界人なんだけどね。


 俺、一ノ瀬 葵はどこにでもいる普通の高校生だった。

 さっきまではそうだったんだ。

 学校に行くために通学路を歩いていただけなんだけど……


 急に光に飲み込まれたかと思ったら、ここにいた。

 鮮やかな赤いカーペットに、キラキラと輝く巨大なシャンデリア。

 お城の広間のような場所だ。


 いわゆる異世界召喚というヤツだな。

 この手の話は大好きでよくマンガや小説を読んでいたから、あまり驚きはなかった。

 俺以外にも召喚されたっぽい人がいっぱいいたし。


 異世界から召喚された人間にはそれぞれスキルと呼ばれる特殊技能があるらしい。

 で、さきほどから召喚された人々がスキルの鑑定を受けているのだ。

 他の人たちは手から炎を出したり、風を起こしたり、となにやら派手なスキルを持っているようだ。


「はいはい、ハズ――非戦闘用スキル持ちの方はこちらへどうぞ」


 使用人らしき男が俺に呼びかけている。

 今ハズレって言おうとしたよね、絶対!

 それにしても非戦闘用スキル、か。

 たしかに魔力を探知するだけじゃ戦えないよな。

 敵を探したりするのには便利そうだけど。


「イチノセ・アオイ様ですね。我が国では魔王と戦うために、戦闘用のスキルを持つ勇者様を探しておりまして」

「はあ」


「まことに申し上げにくいんですが、非戦闘用のスキルを持つ方には用がないんですよ。こちらをお渡しするのでご退場いただけますか」


 そう言って男は俺に布の袋を渡した。

 中には金色のコインが十枚ほど入っている。


「いやいや、勝手に召喚しておいてそれはないですよ。元の世界には戻れないんですか?」

「あいにく我々が使えるのは召喚魔法だけでして」


 そこまで話すと男は俺から目線を外した。

 どうやら本当に用がないらしい。

 勝手だな~!


 しかし、だ。

 戦闘用のスキルを持っていたら、魔王とやらと戦わされるハメになるらしい。

 それはそれで困る。

 敵の探知係として戦場に連れて行かれるのもイヤだし、さっさと退場してしまおう。

 俺は使用人たちに案内されながら、城を後にした。

 城門の向こうにはファストという名前の城下町が広がっているのだとか。



 城の外に出た俺は、しばらく道を歩いている人々を観察していた。

 革鎧に剣をさげた冒険者らしき男。

 尖った耳を持つ色白なお姉さん。

 全身が毛に覆われた狼男っぽいヤツまでいる。

 なるほど、間違いなく異世界だな。


 さて、これからどうしようか。

 袋の中には金貨が十枚入っていた。

 まずは寝泊まりできる場所を確保したいところだが、今の手持ちがどのぐらいの価値があるのかわからない。


 どこかに値札みたいなものはないかな、と街を歩いてみる。

 広場のような場所に、小さな露店が並んでいるのが見えた。

 敷物の上には武器や防具から、食器などの雑貨が置かれている。

 へえ~、こっちの世界にもフリーマーケットみたいなものがあるのか。


 どうも値札を見て回った感じだと、金貨一枚が一万円ぐらいの価値らしい。

 お店の人に聞いてみたところ、金貨一枚と銀貨十枚が等価値なんだとか。


 俺はある露店に置かれた古い剣が妙に気になった。

 固有スキルの魔力探知が働いているんだろう。

 剣から強い力が発せられているのを感じる。

 ちょびヒゲのおじさんはあくびをしながら俺を見た。


「なんだ兄ちゃん、それが気になるのか? 銀貨五枚でいいよ」

「ちょっと見せてもらっていい?」


 手で触れるとさらに強く感じられた。

 これが魔力ってやつか。

 他の露店にも魔力が宿っているらしきモノはあるけど、この古い剣が一番強い魔力を放っている。

 魔法の剣が五千円相当だなんて、相当な掘り出し物じゃないか?

 これって魔力探知を持っている俺だけがわかるのかな。


 なんだかワクワクしてきたぞ。

 俺は靴や本、カードゲームなんかを集めてしまうコレクター気質なのだ。

 せっかく異世界に転移してきたんだから、魔法のアイテムを集めてみようか。

 俺は袋から取り出した金貨を一枚取り出し、お釣りの銀貨五枚を受け取った。


「兄ちゃん、変わった格好してるなぁ。その胸の黒い棒はいったい何に使うんだ?」

「ん? ああ、コレか。ボールペンって言うんだけど。文字を書くのに使うんだよ」


 俺は制服のシャツの胸ポケットに差していたボールペンを渡した。

 おじさんは物珍しそうに触ったり、光にかざしたりしている。


「面白いなぁ、これ。なあ、これ銀貨一枚で譲ってくれんか?」

「うーん、銀貨一枚か」


 手持ちは多いに越したことはないし、売ってしまおうかな。

 どうせ、この世界の文字も書けないし。


「ちょい待った! お兄さん、そんな安値で売ったらあかんで!」


 背後から元気な女の声がする。

 てか、なんで関西弁?


 振り返ると、薄い水色の髪をした美少女が立っていた。

 俺と同い年ぐらいかな?

 キラキラ輝く茶色の瞳に、整った顔立ち。

 髪は肩のあたりで切りそろえられている。

 裾が短い、純白のワンピースを着ていた。


「おいおい、なんだよリント。商売の邪魔すんなよな」

「おっちゃん、えげつないことするなぁ。ウチやったら金貨一枚で買うで」


 リントと呼ばれた少女はおじさんからボールペンをひったくると、まじまじと見つめた。

 手のひらに文字を書いたりしている。


「お兄さん、これすごい魔道具やん。どこで手に入れたん?」

「魔道具? いや、俺の故郷だと普通に売ってるモンなんだけどね」


「故郷? へえ~」


 リントは俺をつま先から頭まで見る。

 こちらには馴染みのない学生服だからか、あたりの人も俺の方を見てひそひそと話しだした。


「お兄さん、ひょっとして異世界人ってやつ?」

「えっ? いや……実はそうなんだよ。何もわからなくて困ってたんだ」


 返答に迷ったが、リントは悪人には見えなかった。

 それに、俺以外の異世界人のことを知っているならぜひ教えて欲しい。


「そっかそっか♪ じゃあこのボールペンってやつ、ウチに預けてくれへん?」

「へっ? まあ、いいけど」


 リントは近くに置いてあった木箱の上に立つと、両手を振って叫びだした。


「さあ、みなさん注目ぅ~! 今日は特別な魔道具を紹介するで~! これ、ただの棒やと思ってたら大間違い。なんと、どこにでも文字がスラスラ書けてしまう魔法の道具なんや! どこでも自慢できるレア物やで! これを手に入れたら、あなたの人生が一変するかも! さあ、スタート価格はたったの金貨一枚から。魔法を手に入れるチャンスやで~!」


 リントの笑顔と元気な声にひかれて、街の人々が集まってくる。

 俺のボールペンを即興の競売で売るってことか。


「面白そうじゃねえか。よし、金貨一枚に銀貨三枚だ」

「わたしは金貨一枚と銀貨五枚」

「金一に銀八だ!」


 次々に値段が競り上がっていく。

 ボールペンの値段は一気に金貨三枚になった。


「はーい、金貨三枚! 他にない? ほな落札~!」


 リントは落札者からボールペンの代金を受け取り、満面の笑顔で戻ってきた。


「はい、お兄さんの取り分♪」

「ありがとう。……ん?」


 渡されたのは金貨二枚だった。

 残りの一枚は手数料ということか。

 ちゃっかりしてるなぁ。


「なあなあ♪ ウチ、お兄さんに興味あるねん。ちょっとそこでお茶でも飲まへん?」


 リントが腕を絡めてきた。

 俺の肘にやわらかいものが当たっている!

 こ、これってもしかして、いや、もしかしなくても。


「ほら、損はさせへんから♪ いいやろ?」


 リントがさらに胸を押し当て、耳元でささやく。

 俺はカチコチに硬直してしまった。

 言われるがままに、近くのカフェらしき場所まで連れて行かれる。


 悪い子じゃなさそうだし、話を聞くだけなら――

 いやいや、大丈夫なのか? 俺!

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