ep.7 ep.6の続き
彼の表情は怪訝ではなく、ただただ僕たちを心配しての一言だったようだ。
「前、先輩から聞いた話だけど。OGが学校に私服で来たときに教員たちに怒られてたっていうのを聞いたことがある」と彼は他聞の話を語った。
僕たちは自分たちを相互に見直した。
「見つかったら怒られるな」と僕は少し狼狽して言葉が漏れ出る。
「要は見つからなければいいだけの話よ」と西原は大変強気でいる。
「お二人がこんなに仲が良かったと思っても見なかった」と彼は声音は驚いていないにしろ、僕たちの共同については誰しも意外と思うのは今までの学校生活上でもしてこなかったから。そうも思わるのは道理である。それよりも僕は一日で仲が良いと客観的に言われると少しこそばゆい気がする。が、彼女はそうは思っていないのか表情を変えないでいる。
「駄弁はいいのよ。早速で悪いのだけれど・・・―――」
「長話になるなら、飯を取りながらでもいい」と彼は聞いてきて、西原はそれに対して僕に同意でも求めているのかこちらに目配りをする。
別に構わないと首肯して見せると顔を向き直して「いいわ」と西原は一言返事をした。
彼は言わずもがな内容は察しているようで、わざわざ他の部員から離れた場所で食事を取り始めた。
「四十川さんのことだろ・・・」と宮島の神妙な顔つきは彼にとっても四十川という存在が、彼にとっても、特にクラスからしてみても重要なパーソンであったことを如実に語るものであった。
さすがに名前も出さずに察した宮島の洞察力に感嘆したのか西原は驚いた表情を見せる。
「君が、知っているかは分からないけど。男子ウケは良かったよ」
「男子ウケは良かった?」
仲間内に誇れる自信がない僕ですら宮島の言っている意味がわかったが、西原は少し言葉の意味を理解しかねたのか、オオム返しに聞き返した。
「まぁ、男子にも優しかったし、目鼻立ちも整ってたほうでしょ」と彼は僕を見て共感してほしいようだったが、僕は四十川をそういった目線で見たことがなかったために反応に困った。
結局、その合図には応えられずに、西原が再度言葉を投げかける。
「じゃあ、男子間では四十川さんのことを悪く言う人間はいなかったってこと?」
たいていはそう考える。男子からしてみれば出来た人間というふうに見られる。
しかし、彼は頭を振った。
「男子の大半はそう思ってたと思うけど、彼女を嫌ってた女子たちとつるんでる男子からしてみれば良くも悪くも八方美人っていったところだったようだけど―――」と宮島はよく多分な情報をもっているなと僕はなぜだか悲しさとともに関心してしまった。
「その・・・」と西原は訊きにくそうにしながらも、「四十川さんを嫌ってたっていう女子っていうのは」と最後まで言い遂げた。
「そこまでは・・・」と彼も申し訳無さそうにして答えるが、僕以上に情報を喋ってくれたのだ。彼の証言が事実ならば大いに貢献してくれたことには間違いはない。
「そう。貴重な時間を費やしさせてしまって申し訳なかったわね」といって彼女は宮島の手許を見た。そして余計なお世話だが、「手許が止まってるわよ」と口を出す。
「あっ」と彼は咄嗟に弁当を流し込むように橋をつける。
彼女はさっそうとその場をあとにした。なんとも薄情なやつだろうかと思いつつ、僕も彼に「助かった」と一言だけ述べて彼女の後を追った。
彼女は歩いている間も思考しているようで何かを思い悩んでいる。
「当面の問題は四十川さんの敵対グループの模索といったところかしら」と僕にもかすかに聞こえるような声で喋った。
「敵対グループって・・・」と僕はもう少し言葉を選別してほしかった。
それが顔に出ていたのか。彼女が僕を横目で見たときに彼女の視線がこっちに固定された。
「一応言っておくけど、女子の関係なんて男子以上に白黒分かれてるんだから」と現実をつけつけられたような言葉に女子の恐ろしさを垣間見た気がした。
「女子のグループに関しては西原のほうが得意だろう」というとやはり彼女は顔をしかめる。
「その得意とかっていうのはやめてほしいところね」と不満をこぼす。
「すまん」と僕は弱気に答える。
「それで他に行く場所はあるの?」
行く場所・・・行く場所・・・。この学校の敷地自体が広いとはいえ、文化活動が活発かと問われれば微妙その言葉に尽きる。
その、青春の場と思われた部活動は実際、愛好家たちが担っているようなものだ。どの部活とっても生半可なものというのが客観的な意見だ。無論、僕は野球部が汗水たらして走ったり、バッティングしたりしているのを見たりしているだけで、完全に蚊帳の外の人物なわけだが。それでも褒められた成績があるわけではない。
―――それは内外問わずだ。
吹奏楽部も初心者歓迎の言葉が目立つように、半ば初心者の集まりなわけで、彼らの演奏を聞いたこともないために言うのは批評しては申し訳ないが、それでも大したことはないのだろうと確信している。それよりかはよっぽど影に潜んでコソコソとやってい漫画同好会やミリタリー研究会なるものの方が、ひっそりとやっているのにかなり滅裂な事を言うようだがそっちのほうが活発な気がする。
「で、次は」と彼女は睨みを利かせて詰問をしてくる。
「そうだな。うちのクラスじゃないけど、一人役に立てそうなやつを知ってる」というと彼女は顔の緊張をほどいて「そう。ならいきましょ」といって僕たちはグラウンドを後にした。
人ばかりに頼るのではなく、自発的に動いてもらいたいものだとため息をこぼしながらも学校内を闊歩する彼女の後を追って歩く。