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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
43/44

ep.43 ep42の続き

 広間に戻ると、そこには彼女が座っているだけで部屋が異様に広く見えた。

 幽霊のように妖麗にお茶を飲みながら座る彼女が私の方に目配せをすると、何かを察したように頷いた。

「ごめんなさい」と初めの言葉に私はもはやいうことはなかった。

 彼女は私達を見て、感慨深くため息をこぼしてから話を進めた。

「彩良の部屋、何もなかったでしょ」とその質問にうなづくだけにした。「お父さんがまとめて捨ててしまったの」

 断捨離というやつだろうか。彼女に未練を残さないためにも、俗世から切り離すという意味においてはある種、現存するものが媒介となって地縛霊として留まることを危惧したのかも知れない。

「せっかちなのよ」と彼女の口許からは薄く笑みが見て取れる。

「せっかち?」と私はオオム返しに聞き返した。

「そう、せっかち。彩良の物品があると彩良も極楽往生できないだろうからって、さっさと捨ててしまったのね」

 普通の両親はそんなことができるのだろうかと私の四十川さんのお父さんの感性を疑った。もう少し未練がましく、物を残しておくものではないのだろうか。それが親子の情に思えるのだ。

 そして、この簡素なリビングが訴えかけてくるのは生活感がないってこともあるが、それ以上に彼女の痕跡がきれいに拭き取るように感じられないためだ。だから、私が想像していたものよりもギャップを感じたのだ。

「けど、お父さんのことを悪く思わないで」と彼女は私達が彼に対しての敵対心を抱いているようにでも思っているのか。そう注釈をつけた。

「私達は家庭のことまで言えた身ではありませんから」

「それも、そうね・・・」と心もとなくそう彼女は話した。

 なぜだろうか、その心もとなさはある種私達を詰ってほしいというように、どこか申し訳無ささを感じられるのはなぜなのだろうか。私達が罵倒したところで四十川さんの両親の気が晴れることはなく、一層暗鬱とするはずなのに、彼女から滲み出る悲壮感は四十川さんを悼むものといよりかは自分たちの惨めさのようでもある。

「結局のところ、私達にとってもつらい過去であることは変わらないわ。

 けど、こうやってあなた達みたいに会いに来てくれる学友さんがいらっしゃると、

 私達の悲しみじゃなくて、みんな抱えてるんだって思えてしまうの」

 まるで、それは自分たちにとっては決まりが悪そうなことのように思っているようだ。

「いくら、彩良の物を捨てたところで彩良自信を消せすことはないのよね―――」

 その言葉を聴いて、私はなにか胸にこみ上げてくる感情が気持ち悪いほどに胸元で停滞しているのを感じた。胸糞にたまる私は家庭に干渉しないと言った矢先であったためにこれは卑劣であるり、堪えていたのだがどうにも我慢にならない。

 この卑屈さが鼻に障る。一人だけ痩せ我慢をしているのに嫌気が差す。別に私だって未練は断ち切れていないし、現実を受け止めきれていないことだってあるのに、彼女はそれから逃げるように自分を守るようにしているのが嫌になってくる。

「バカを言わないでください。彩良が消せない。

 ふざけないでください。あなたが痛い思いで生んだ子供でしょ。

 戯言をほざかないでくさい。熱心に愛を注いだ愛娘ではないのですか。

 ―――あなたたちが一番になって彼女を思わなかったら、本当に彩良が報われません」

 私は言葉余って思いを吐露した。

「強がないでください。泣いてください。

  私も辛いんですから」

 私も必然的に、言霊が胸を打つように涙が頬を伝った。

 少量の涙。出す涙はこれきっりというようにもはや身体の中の水分は涙として気化してしまったように、これ以上の涙はでることがないのか。ただただ目が痛い。

「そうね。そうよね」と彼女もついに虚勢のせき止めていた堤が瓦解したのか。下を向いて肩を揺らした。

 滴り落ちる涙が、私の眼前に映ったことにどこか安堵した。彼女も母としての自覚は持っていたようだ。四十川さんのために泣けたことを確認が取れたことで彼女をようやく一人の母親として認識した。

 

 彼女が泣き終えると顔を上げてティッシュで目元を拭った。赤らみた目はまるで血走ったかのように充血している。

「だめね。人様の前で泣いちゃうなんてきっと彩良に怒られてしまう」

 彼女の顔はまるで子供がべそをかいたようにおちゃらけている。

「飲み物尽かしちゃったわね」と彼女は私達から身を隠すように台所へと足早に姿を消した。

 その後、彼女からの追い次ぎのお茶をもらってから、四十川家を後にした。

 思っていた以上に長く居座ってしまったようで、すでに12時を回っていた。

「目が血走ってやがる」と月見里くんは私を小馬鹿にして話した。

「バカ言わないで」とそっぽを向いた。見られてほしくはないと言えばそうだし、それに加えて彼に何かを言われることには私の望むところではない。

「これで、君の重任ともおさらばだ」

 そうねと肯いた。 

 まだわだかまりは大いにある。真に真相が暴けたわけではない。結局のところ積み上げた意思は目標に達せず壊す他なくなってしまった。

 しかし、やれることはやれたんだと思う。これからは私のこの心残りと対談して気持ちの模索をしないといけないのだろう。さようなら、四十川さん。

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