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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
39/44

ep.39 ep.38の続き

 授業中、時たま暇ができる。ルーティンで回るパーティーで、あまりを与えられると当然することがなくなり会話をするのが常なのだろうけど、特段会話をする友達もおらず私は一人蚊帳の外で他のクラスメイトたちの活躍を眺めるだけだった。

「さっきはどうも」と鞘本さんが私を咎めるために、隣へと寄ってきた。

「三本さんはいいの?」

 いつも行動をともにしている彼女たちが、今日に限ってペアではないことは意外といえば意外であった。

「別に、いつも一緒ってことはないし」と言葉を区切り、ほらと鞘本さんが指差す方向にはコート内で球を打ち合う三本さんの姿があった。

 鞘本さんがいないせいか、心なしか退屈そうにしている。

 私の下までわざわざやってきた理由は当然さっきのことであるこは間違いないだろう。

「悪意があったわけじゃないの」と弁明するが、彼女の機嫌は良くはならない。

「そうね。犯罪者もそうやって犯罪を犯すものよ」と彼女はつよく私を責め立てる。それだけ怒り心頭といったことなのだろう。

 当然、簡単には鞘本さんを丸め込めるとは思ってもいない。

「最悪よ。西原さん、あなた人のこと考えもしない碌でもない人間」

 私達の会話は他の誰かに聴かれるわけでもなく、試合に熱中しているクラスメイトたちによって騒々しく盛り上がっている。

 そのために彼女の放つ言葉は首元に氷を置かれたように肝が冷えるようなひやりと刺す言葉だったが、それを聞いているのは私だけだ。

「四十川さんの事件の真相を追っているだったかどうかは知らないけど、それに彩を巻き込むのはやめて」

「彼女も当事者でしょ」と同じような声音で返した。

 こんな氷点下のような雪合戦のやり取りをやっているから、たぶん岸峰くんは怯えているのだろう。どちらにしろ彼が小心者であることには変わりはないが。

「当事者だからって見境なく巻き込むのは間違ってる。

 それに篠山さんたちも言ってたけど、まだみんな心を痛めてるのにそれを掘り返そうとしているのは、

 まぎれもなく、西原さん。あなたよ」

「何かをなすときに犠牲はつきものでしょ」

 今の彼女に対して合理的ではない回答を言い渡した。

「犠牲をなくすために、犠牲を増やしてどうするのよ」と彼女は表には決して出さない。

 建前の彼女を依然として保ちつつ、感情からこみ上げてきたものによって激昂を示す態度であった。

 これは他の人が内々で抱え込んでいる不安の解消になるかもしれないと大義ぶっているが、実際は他の迷惑を顧みずにやっている横柄でしかない。

「あなたのいいたことは分からるわ」ととりあえず宥める方向に入るが、それが逆に逆鱗に触れてしまったようで、より一層彼女を激情へとかり立てる結果となってしまった。

「横柄なあなたに同情されるのは汚らわしい」と言い捨てた。

 彼女の気持ちは完全に偏向的―――三本さんを擁護するという思考になってしまっている。

 これが友情という美徳なのだろうか。ある種の共依存のようにしか見られなかったが、その渦中にいる彼女たちにとってはそう呼ばれることは真に汚らわしいことなのかもしれない。

「どちらにしても、私は止まることはないわ」

 なんせ、これから相手にしていこうと思っているのは教師陣であるために、こんなところでよちよちと二の足など踏んではいられない。

「別にやるなとは言ってないわよ。ただこれ以上彩を虐めるなやら私、何をするか解らない」

 今の彼女の怒気を持ってしての言葉に私は気圧されるほどに威圧を感じ取った。

 まさに、鞘本さんはオーラをまとうではないが、そんな狂気じみたものが漂う雰囲気を醸し出す。

「じゃあ、せめてもう一度チャンスをくれない。

 私は気がかりなのよ。三本さんがあなたを独占する理由。

 それにあなたも彼女に固執する理由を知りたいの」

「言ったこと分かってるの」と脅すように再度、鞘本さんは私にむかって確認を取るが、私は四の五の言わず首肯した。

「下手なことはしない。それは私のためにも約束する」と口約束程度で彼女が了承するかは不安だったが、彼女は易く肯いた。

「分かった。けど、私もその場に同伴させてもらう。彩一人だけだとあなたに押し殺される」

 やけに大げさなことをいうが、鞘本さんにとっては三本さんがそれだけ豆腐のような存在とでも思っているのだろう。共依存にして過保護な鞘本さんが同伴となれば、私が慎重にならざるおえないことが強いられる。

「なら、こちらももう一人加えていい」と訊くと彼女の顔は歪めるように訝しんだ。

「まぁ、別に一人程度だったら」と鞘本さんは了承した。

 これで岸峰くんにも私が活動しているということをしっかりとアピールしつつも、彼にも協力するように仰げるってものだ。

 ホイッスルが甲高くなると、今やっていた試合が終了した。

「交代〜〜」と女子生徒の声が響き渡り、辺りは入り乱れるようにコートへと入っていく人と、出て休憩するパーティーとで代わる代わるに人が入れ違う。

 他クラスの女子から受け渡された。ゼッケンを羽織ってコート内へと侵入して、目の前をむくと是が非でも視線を合わせてくる鞘本さんと目があってしまった。

 うさぎを狩る狐のように目を細めて、鋭利な目つきで私を睨んでいる。

 言えもしない圧力に屈しそうになりながらも、ホイッスルとともに体は身構えた。

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