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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
33/44

ep.33 ep.32の続き

「西原をここに呼び出したのは単に僕が頭を(じか)に下げるためだ」と彼は神妙な顔で話した。

「あなたには迷惑をかけている身としては頭を下げられるのに、どんな気持ちでいればいいのかはわからないわね」と小言をこぼすと彼も愛想笑いで作った笑顔になる。

「話を戻すけど、男子からの意見は集めきった」

 私は頷くだけにとどまった。

「男子からのいじめがあったとは思えない」

「そんなことをする男子は論外ね」と私はいもしない男を考えて、その言葉でもってその男をバッサリと切り捨ててた。

 彼は関係もないことにハァハァと苦笑いを浮かべる。

「ともかく男子にもう調べる必要はなさそうだ」

 再び頷くだけにとどめた。彼もなぜか私に同調するように頷いた。

「それで、さしあたって西原には女子から情報を聞き出すために手伝ってほしい」

 彼は深々と頭を下げた。その行為が同級生には恭しくも感じる。

「・・・・・・」

 彼は上げた顔から私の顔色を伺っているように見る。

「気分を害したなら、ごめん」 

 私はふぅと息を漏らした。気持ちの整理に方が付いたためである。

「私みたいにクラスの嫌われ者で、よければいいわ」

 彼は短い髪をフワフワと揺らすように首を振った。

「そんなことはないよ。僕一人だけじゃ心許なかったから助かる」

 私はひねくれて、実際は私を体の良いように使おうと内心を思っいる。

「で、最初は誰がターゲットなの」

「特に決まってない」

 何もかも無闇な人間だ。まるで気ままに旅行にでもしているかのような無鉄砲さには私が空回りしたみたくなって憮然とした気分になる。

「女子は男子と違ってアウェイな人には排他的よ」と脅しをかける。

 現にそういったことは表面上に浮き上がっている。

「そ、そうなの―――」 

 彼はなんとも言えない表情に、少し緊張が走ったのか顔が強張っている。

「できるだけのことはしましょう」と私は笑った。

 食卓の上にメロンクリームソーダが載せられる。

 付属のプラスチックストローに口を付けると、口の中には炭酸がシャボン玉のようにして連鎖的に弾けて四散した。グラスの呑み口に多いかさばるような乳白色のような純製なアイスクリームが、緑の中に絆されるように混じり合って、その原型が薄れていく。私はそれに追い打ちをかけるようにストローでかき回す。

 次いで彼の元にスパゲッティが持ち運ばれた。

 彼はフォークを手にとって、いただきますとその言葉とともに赤い麺を啜った。

「ちなみに姑息なことを訊くけど、訊きやすい人っていたりする」と彼は持っていたフォークを置いて話しかけてきた。

 私は彼のその情けなさに飲んでいたソーダの息が止まった。誤飲してしまってか、私はひどくむせてしまった。

「大丈夫」と声をかけるが、いまその言葉を聞くと無性に腹立たたしくなった。

「バカ、言わないでよ」ととっさに出た言葉に彼は鼻白んでしまったようだ。

「ご、ごめん」と面目を潰されてしまって、見るに耐えないほどのみすぼらしい風貌(ふうぼう)である。

「まぁ、全員に当たるなら多少を気にしていたってしょうがないでしょ」と私は諭すが、いまいち反応がよろしくなかった。 

 彼はいやらしく妙に渋るのだ。

「そうだけど、だとしても緊張するっていうか・・・」

 私はわざとらしいため息をついた。

「呆れた」と突き放す言葉に、彼も辛そうな顔を浮かべる。

「僕はそこまで勇気は出せないよ」と彼の小言は矮小に見えて仕方がない。 

 男子には結構積極的と言うかあからさまな行動をとっていたわりにはよく言うよ。男子だったからってのもあるのかもしれないけど、女子って区分してるから彼のように消極的になってしまうのかもしれない。

「できる限りには私が前に立つから―――」

 できることだったら彼が堂々とやってくれることを期待していたのだが、彼のネズミのような心では無理もないだろう。

「よろしくお願いします」と彼は再び深々と頭を下げた。

 少しその光景が滑稽に見えたけど、それを口にしてしまっては彼にこれ以上ないほどに貶してしまうことになって、自尊心を破壊してしまってはもともこもないだろう。

 人を下に見ることに、愉悦(ゆえつ)感を感じるのはもはや私の性のようなものなのだろう。

「はいはい。茶番はおしまい」

 一旦会話の流れを帰るために終止符を打った。

「ナポリタンさっさと食べないと冷めるよ」

 そんなことを話している間に私のメロンクリームソーダのクリームの部分もほぼほぼ溶け切ってしまって緑が薄まってしまったが、飲んでみてもメロンソーダの味はしっかりと残りつつもアイスのシャーベットの小粒の氷が舌を冷した。

 彼を見ると口周りについた淡色のオレンジが際立って目立っている。

 啜るから口周りが汚れると想いながらも、彼の食事の流儀に難癖をつけることはせずに私は口元を囲むオレンジ色に執着したように視線を置く。

 彼は私の視線に気づいたのか目の行方がしどろもどろしている。

「な、なにかついてる」と訊いてくるので、私は自分の口元に人差し指を当てた。

 彼の手の甲で拭って、ようやく自分の口周りの状態を理解したのか。テーブル備え付けの白い紙布巾で口もを拭った。

「これはわざとじゃないよ」と余計な一言に私は小さく頷いた。

 そうだね。故意でやってら、それは食事の作法として終わってると一人ツッコミをしている。

 私は案の定先に飲み終わってしまった。彼もグラスの氷が溶け切る前に完食してしまい、少し腹を空かせるために時間を置いた。

 カウンター側から、私達よりも後に入ってきた年寄りの話が聞こえてくる。

「それで教師陣はどうするつもりなの」と話を広げた。

「どうしたものか」と彼はやはり無計画に他人事のように話した。

「直近の課題を進めた後ってことなの」とこれくらいのことなら答えられるだろうと踏んで訊ねると、

「そうだね」と空を切ったかのような曖昧に答えられた。

 本当にこのさきが思いやられる。むしろ、今まで彼の無計画にやってきたよくここまで頑張ったものだと称賛してもやりたい。いっそう褒めてやって彼に自信をつけさせるべきなのかも知れない。

「けど、今までありがとう。半ば投げやり状態だったから本当に助かったよ」

 彼は手を胸の前に振って謙遜(けんそん)した。

「そんなことはないよ。僕はやるだけのことをやっただけだし、現にこうやって君に頼み込まなければならないわけだし・・・」

「そう」

 彼のネガティブな発言から私の褒めて伸ばす考えは断念することにした。

「そういえば、岸峰くん成績順位表に載ってなかったわね」

 えっと、彼は豆鉄砲でも食らったかのような驚愕ぶりである。

「あぁ、そうだね。今回は惜しかったよ」と答えた。

 しかし、その言葉に違和感があった。悔しそうにするにもどこか後悔にしたって弱く感じる。

「それにしてもまた、なんで僕の名前なんか・・・」と話題に俎上したことを不思議がっているようである。

「まぁ、ライバル視的なやつ」とははぐらかした。それに彼が成績順位の張り紙に掲載されていることは一年の頃から知っていることだったし、順位表に載っている人はそう多くはないために覚えようと奮起すれば載っている人だけ覚えるのは難しいことでもない。

「そうだったか。ライバル視してくれてなら悪かったな」

「別にあなたがあの順位にいたからと言ってライバルが変わっただけで大きく変わったことなんてないわよ」

「そう、そう」

 彼は不満をおくびにだすことなく歪みきった顔で応えた。彼にしてみれば辛辣な言葉過ぎたようだった。

「この一件が終わったら、また勉強に本腰を入れ直すよ」と呑気にこと構えているが、彼のことだろう自分の人生計画も無計画に進めているのかも知れない。

 そぅっ、と私はこの話題を流した。

 喋っている合間に動くには腹の調子が戻ってきたところだろう。

「話の区切りも良さそうだし、そろそろいきましょうか」などといって私は離席した。

 お金が落ちたような音とともに会計を済ませた。なぜか彼は強情に奢りだと言って聴かせてきたが、私は金の切れ目は縁の切れ目というし、さっそくお金で面倒事を起こしたくもなかったために断固として譲らず自分たちの食べた分だけを払い終えた。

 駅で別れを告げて、彼とは違う方向に歩みを進めた。

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