ep.31 *
結果的男子からはあまり、不評と呼べるような言葉は聴かなかった。
藤沢は恐いと言っていたが、これは不評と呼ぶよりも超越した存在を敬遠していたといったところで、不評とはまた別の判断基準になりそうだ。
そうなると後はクラスの女子だけになってきたのだが、どうも女子から僕の評判が悪く。依然として、あまり仲良くは馴れそうにない。
この渋っているのを契機に僕は彼女へとメールを送った。僕のメール拒否を行なっていた場合は面と向かって内容を話さないとならないが、実際はそれすらも少し億劫であるために、できるならばことをメールだけで片付けてしまいたいと思っている節はある。
しかし、いい加減彼女にも僕だけに立ち回りをさせた灸をすえてやらなければ、僕が気が済まないというものだ。
〈男子は四十川をさほど嫌われていたわけじゃなかったぞ〉と送った。
さすがにすぐには既読が着くわけでもなく、しかしそれと同時にもしかしたらと思うと携帯に文字を入力する手がやけに重く感じる。
〈全体的に見て好印象と取ってもいいかもしれないほど〉
改行
〈男子から評判の善良だけを聞かされた印象だ〉
さすがに三回もメールを飛ばしたことによって、最後の3つ目のときにはまとめて既読が付いた。
〈そう〉と僕と比べて、短い文が返ってきた。
さすがに、そうって感想文以下だろと思いながらもしやまだ伝えたいことがあるのではないかと思って、待ってみるがやはり彼女からの返信はこの〈そう〉だけであとは全く持って新しいやり取りがなされない。
ぞんざいな返し方だったが、それでも僕の心配が杞憂で終わったとこに少しホッとした。
〈次は女子に焦点を合わせたいと思ってるんだ〉
こちらは早く既読が付いた。
〈僕が男子一人女子のコミニュティーに混ざるのも変だろう〉
改行
〈だからぜひ西原にも協力してほしい〉
体のいい盾にはなってしまうが、それでも男子一人で突っ込むよりかは女子も気が楽だろう。
まとめて既読が付く。なんだかんだといって気にしてくれているのだろうかなど早足に考えていると思わぬ、返答が返ってくる。
〈メールの着信で携帯がうるさい〉
彼女の身も蓋もない言葉に僕は一人部屋で気圧されてしまった。
「じゃ、着信音を消せばいいだろう」と画面に向かってひとりごちる。
憤然とした気持ちを抑えつつ、僕は反省の色をつけたメールを送る。
〈すまなかった〉
改行
〈そっちのことを考えていなかった〉
改行
〈僕は西原に協力してほしいのは事実だから〉
息をひめるように固唾をのむ。返答が辛辣であることはもはや瑣末だ。彼女が受諾するまで粘り強くメッセージを送るだけだ。
〈無理よ〉
なんでだと打とうと思ったところで素早く返信が返ってきた。僕よりも打つのが早かったようだ。
〈教員たちは動こうとはしないわ〉
改行
〈それに私達が何かをしたところで蔑ろにされるだけ〉
僕は彼女から送られてくる文を読んでいる間に次の文が入ってくる。
〈結局教師たちは対岸の火事として扱いたいってわけよ〉
〈それは教師だけの独我論だろう〉
改行
〈僕たちみたいな生徒は違う〉と反論する。
彼らは僕たちの意思を蔑ろにしている。これは大人だけで解決すべきではないことだ。裁判員制度のように第三者を交えてこそやっと意義のある結果になるんではないのだろうか。
〈けど教師は私達を邪魔してくるじゃない〉
確かに今までも教師は事あるごとに他の生徒のためという面目で持って僕たちのことに関して介入してきた。それは間違いなく、足手まといであり僕たちを邪魔者扱いしていることは明白に示している。
〈けど、いい加減教師たちも納得させないと次の段階に進めない〉
〈仮に教師たちが納得しても
岸峰くんが何をしたいの〉
僕が何をしたいか。事件は学校の外で起きた。僕がやっていることは四十川の周りの人間関係を訊ねているだけ。
これが四十川の事件と直接的な接点があるわけではないことは、やはり事実として認識せざる終えない。それに教師たちの説得で何ができるのかと問われれば、僕はまだ思考途上だろう。
〈わからない〉
既読だけが僕のその言葉に寄り添ったようで、彼女の返信はなし。
〈わからないけど、教師たちに一任するのは間違っている〉
〈今問題解決を行なっているのは教師じゃなく教育委員会よ〉
彼女の返信は僕が打った後つかさず送られてきた。
そうなると教師はもはや埒外ということなのだろうか。それならいくら彼らに取り合ってもそれこそ埒が明かない。
〈教育委員会に委任状を出してもらう〉と強気で僕はそう返事をした。
〈言葉の綾よ〉
改行
その言葉に首を傾げる。
〈問題はすでに取り立たされていないはず〉
改行
〈たぶん事後処理で教育委員会が
問題を未然に防ぐために外向きに動いているんだと思う〉
すなわち僕たちがこうやって騒いでいるのは後の祭りに過ぎないということなのだろうか。
それなら、なおさら教師たちは面倒事を掘り返す僕たちが憎々しいのも納得がいく。
〈大人は僕たちの気持ちを置き去りにしている〉
改行
〈勝手に決めつけて処理したように見せる〉
それはまさに四十川の死に対しての憂慮が足りていない。
―――いつぞやに、彼女が担任にむかって憂慮がないと言っていたが、あのときにすでに彼女の意思はここまでに達していたのだろうか。彼女はそこまで先見の明があったということなのだろうか。
そんな彼女が挫折してのを考えると未来の自分に少しの憂いを感じる。
それに〈間違いを正すだけが正義じゃない〉と気障なことを語ってしまった。
彼女の真相は未だ不解明だ。自殺の起因がなんだったのか。いじめなのか、教師によるハラスメントだったのか、DVなのか。それら外部的に起こされたものではなく、もっと内省的な問題にあったのか。
そればっかしは本人に訊けたら一番良いのだが、なんせ死人にくちなしとはよく言ったものだ。個人の問題を彼女は胸裡にとどめて、そのまま棺の中に入ってしまったのだ。
たぶん、僕はその彼女の個人の問題の一篇をクラスメイトや教師から汲み取ろうとしているのだと思う。そこから彼女の意図を見出そうとしているのだろう。
〈岸峰くんの正義って〉
〈今僕が持つ正義は四十川の死の真相を解くそれだけ〉
熱を帯びていたように思う言葉の数々が、冷めたようにして画面に映る。
〈正義ではことを構えるのは無謀〉と辛辣の言葉が寄せられる。
〈無謀でもそこに意義を見出すのが僕のやり方だ〉と提唱を押し付けるが、彼女は既読をつけて返事をよこさない。
〈無論僕も無鉄砲に突っ込むとは考えていない〉
〈計画があるの〉
まるで僕が向こう見ずな人間とでも思われているようで納得がいかないが、この画面に映る字面だけではそう読み取る他ないだろう。
〈ない〉
改行
〈けど、僕はやって見せる〉
僕のためにも彼女のためにも。
〈あなたの正義に同乗するのは釈然としないけど
私もこの真相は知りたい〉
なら言うまでもなく再び共闘路線ということでいいのだろう。
〈なら明日会おう〉と勢い余って僕は唐突な誘いをしてしまった。少し冷静を戻すと照れてしまいそうになるが、これはそういったことではないと自分に言い聞かせる。
OKの猫の可愛らしいスタンプとともに意思表示が送られてくる。
既読〈日時と場所は前と同じで〉
僕は少し前戻ってこの会話の履歴をみて少し、壮観さと自分の成長を感じる。
今までここまでのディスカッションを行なったことがない。そのために妙に自分が誇らしく思えてしまう。




