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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
29/44

ep.29 *

 昨日、月見里と話したがために早々に結果を出さなければならないとどこか自分を急がせている。それに物理的な猶予もそれほど残されていない。さすがに、夏休みを超えてこの件を持て余しているのは僕の精神的負担でしかない。

 それゆえに、早く結果と呼べるような総括をまとめ上げなければならない。

 クラス全体へと視線を配るとクラスメイトの大半は集団で行動している。

 小規模の団体行動をとる彼らはまるで大魚に化けた雑魚でしかない。まずもって雑魚は僕みたいに小川で大魚と呼べるような魚もいない場所で生きている魚を言うのかもしれない。

 とにかく、僕はあの雑種の大魚のなかを突っ込まなければならない。そうするにはやはり僕自身が彼らを捕食するために大きい存在にならなければ食えない。このクラスにおけるヒエラルキーは固定概念的なものに昇華しきっているために、今更立場が覆ることはないのだろう。

 だからといって、尊大に見せたところでそれはあくまで虚勢でしかなく、それを彼らは人数によって威圧して制することを可能としてしまう。

 しかし、そんな大きい存在でも抜け道がないわけではない。それは

 ―――足を屈して、頭を下げること。

 体裁もプライドもすてて、面汚し。そんな言葉に痛痒は感じないほどに僕は自分自身をあざむくように鈍らせる。

 そして、他者に対して自分を下の存在へと錯覚させる。

 現にここのヒエラルキーで既に底の地位に位置づいている僕にしてみれば差異はなく、彼らもより実感することだろう。―――僕が弱者であることに。

 高飛車な気分は自分の足元が見えずに疎かにする。同列な存在になろうとするのがいけないのだ。

 そうすれば意気揚々とあられもなく喋りだしてくれるだろうという魂胆である。

 一人の男子が何してるんだよと蔑むような見下したところから僕を見ている。

 僕は少し頭をもたげて上のを見上げる。

 周りのすべてが自分の頭よりも高い場所にあるように感じる。その威圧感からか、この暑さからは分からないけど、下肢から多量に発汗して蒸れているように感じる。

 彼らの顔はまさに困り果ててしまったように顔をしかめている。

「集団だと訊けないことは分かった。だからこうやって個々(の集団)で訊いている」と真っ当に答えたがどうやら、質問の意図と反していたようでより彼は眉間に皺をよせた。

「そうだとしてもこんな大衆の面前でやることはないだろう」と彼は僕が捨て去った羞恥心を汲み取ってばつが悪そうにいる。

 確かに公にやる必要性はなかったかもしれないが、それでも彼は僕の思惑通り逃げ道を塞がれているように困惑の色が拭えないままでいる。

「何としてでも関係が深い君たちみたいな人から情報を訊きたいんだ」

「そういったことなら、篠山(しのやま)たちに訊いた方が確実だろう」

 それはごもっともである。かといって僕がこうやって、包み隠さずに醜態を見せているのも同性ということもある。しかし、女子の前でこれをやるというのは少し条件が違ってくる。

 (公衆の面前でやってるから変わらな。馬鹿をいえ、十二分に違ってくるだろう。力説しておくと、)

 これは僕のプライドというか、あってないような体裁を守るためにもできかねることだ。

 誰だって、年頃いわば思春期の男子なんて女子の意見がめっぽうに効く。批判的なことを言われれば、それが戯言であったとしても真摯に向き合ってしまうし、逆に評価が高いことを聴けば有頂天になるのも同志ならば理解できることではないのか。

 少なくとも、僕はそんな女子の言動に細心を配るような貧弱な人間であるのは間違いない。

 ゆえに、無理だと即答する。

 彼らの顔にはいかにもめんどくさがる表情が浮かび上がる。どうやら彼らもそこまで四十川を知っているわけでないようだ。そのために自分たちに効かれと厭悪(えんお)な表情をするのだろう。

 関係上の付き合い。建前の関係。社交辞令と似たそれ。

 かくして男女という格差は潜在的あるようで、彼らも不可侵的な女子のテリトリーを把握している。もっと述べるならば、男子からの声をかけるというのはそれ相応の間柄でなければかなりきつい。

 それは彼らにも言えたことで、女子が寛容であろうとも思春期の男子というのは常に身構えた状態である。故に受け身体制が思考になじんで、攻撃の一手が億劫になってしまう。

 結果、彼らのように女子との過分な接触がなくなってしまって、傍から見ればかなり緊密ぽっく見えても内実のところは他と比べて接点があるだけで、これといった強い関係ではなかったりもするようだ。

 渋りながらも、ここまで僕が見せた態度によって彼らも等価交換で何らの情報をくれてやらねば、かわいそうとでも思ったのか少しばかり四十川(かのじょ)について口にした。

「ねぇ、何してんのあんた」と声がかかった。甘すぎる声、耳から入って胃もたれが起きそうなほどに体に悪い角砂糖のような声をしている。

 僕は振り返って、彼女と全面的に対峙した。―――篠山である。 

 話をすればなんとやら、見事に言霊によって召喚されたようだ。

「別に、他愛のない会話だよ」と注目をそらすようなことを言ってみるが彼女の怪しむ顔つきがよりいっそう強くなる。女の感というやつだろうか。鋭い視線は聡く僕の内心を穿つようである。

 彼女の視線に退くというよりも、なんとかしてこの好機で彼らからもう少しだけでも訊いてみたいものだという僕の強欲が上回った。

「そうだろ」と僕は彼らからの確証を得るために訊いてみるが、どうも歯切りのわるい頷きであった。

 彼らにとって半ば篠山に嘘を付くことが良心の呵責によって阻まれるようであった。これはまさに彼らの関係が中途半端であったがゆえの揺らぎなのだろう。

 篠山はその素振りになんとも言えない頼りなさを感じつつも、

「まぁ、いいわ」といって一旦はその場を退いた。どうやら僕の証言に対しての肯定的に捉えたらしい。

 しかし、彼女は普段の友達といっしょに教室内で駄弁り始めた。

 これで僕の立ちまわりが制限してしまう。言葉にせずとも完璧な抑制でしかないのだろう。

 やはり、篠山―――あの時、初めて西原に反攻しただけの度量はあるだけあって、この件一番彼女が関わり合いがありそうだ。

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