ep.28 *
いつも通りのごとく経過報告―――。
「一部男子たちから見れば、総評として悪くはなさそうだった」
その言葉がまるで女子にたいするランク付けをしているようで、いささかいたたまれなかったが吐いてしまった以上その言葉を収集させることはできない。
「じゃ、その一部の男子からは陰湿ないじめはなかったのか」
「まぁ、そうだな」と僕ははぐらかす。
なんとも決まりがわるい。その一部の男子たちといってもようはクラスから相手にもされないような人間だ。そんな人間が一人の女子をよってたかって虐めるような性根があるようには思えない。
それに僕もその一部の男子の枠組みに入っている以上、悪くはいないというのが僕の自尊心に反するためである。
「年相応の男が女子を虐めるのはもはやリンチの類ではなく、レイプ同然だろう」
「それもそうだな」と僕は首肯した。
しかし、彼らにそんなだいそれたことさえもできるかは怪しい。僕だって集団で強姦は考えるだけでも身震いがする。
「それで他の情報はなかったのか」
「ほか?」と訊き返す。
「無論、検べるからには男子一辺では偏差が大きすぎる」
僕はその話題を振ってほしくなかったと彼を僻みたくもなる。
「まだ・・・だ」
「えっ?」と彼は訊き返した。なぜか分からないがこのやり取りをする際、僕はあまり教室へと侵入しない。そして、それがいつのまに慣例となってしまった現状においては、その慣例が妙に一歩進むための足を引っ張る
「まだだ」と声を上げて喋った。さすがにこの距離であたりに響き渡るほどの声だ。聞こえないとは言わせない。そして、恥を偲んだこっちの気持ちを汲むならこれ以上言わせてくれるな。
「そうか。まだか、あと少しで夏休みだ早いところ情報を訊き出せる人には訊いておいたほうがいいぞ」
そんなこと言われなくても分かっていることだし、夏休みといっても数週間前に中間が終わったというのに、いささか夏休みと浮足立つのは焦燥ではないだろうか。
「そうだ。テストの結果どうだった」と僕は彼に訊いた。
彼は答える必要もないと言わんばかりにドヤ顔になる。どうやら待ってましたと待ち構えていた地雷を踏んでしまったようだ。
「大したことはないけれどね。90点代だよ」
その言葉に僕は苦虫を噛み潰すような顔になる。こういった話というのは相互的に情報が公開されなければ不平等である。しかし、言い逃れるということができないわけではない。
ここからとんずらこいてダッシュで帰宅。
そんなことはお見通しというように月見里が注意する。
「もし、君が白状をしないというならば僕はこれ以上君に力は貸さないし、一切助力はないと思ってくれ」
まるで破局したカップルの如く、覆水はどう頑張っても元の器に回帰しないということらしい。
「わかった。それを盾にされたら僕は言わざる終えないな」と決心して自分の点数を覚えている限り吐露した。
英語60点、国語72点、世界史84点、数学53点といった工合だ。ちなみに、僕は文系の世界史選択を選んだ。グローバルな視点を養うためという名目を取っているが、どうやら僕は漢字の羅列よりも横文字のほうが頭に入りやすいのか世界史の方が点数が良い。
彼はそれを聴いて僕を笑った。
「いやはや、君が口にした数字がまるで凡人を現しているかのようで最高だ」と褒貶が重なり合っているよにも思えるが、彼のこの屈託なくの満遍なくの笑み、これは間違いなく愉悦の笑みだ。
頭のいいヤツっているのは決まって自分を賛美するようなことはしない。むしろ、バカである奴らこそそういった低俗な戯れをするのだと思っていたが、月見里を見るにどうやらそうではないらしい。
「本当にお前はゲスなやつだな」
「僕はゲスじゃなく、単に優劣を決したときに自分の下がいることに安堵しているだけだよ」
そういうのをゲスって称するじゃないのか。自分よりも下を見下すような真似は不断な努力を続けている人間からしてみれば、些末なことに過ぎないのではないかと反論を僕のなかで渦を巻く。
「それで科学系統はどうしたんだい」とより粘着質のように聴いてくる。
ここで嘘でも高得点だったと欺いてやろうかと一矢を報いることは考えたが、一旦立ち止まって自分の点数がいくつだったかは覚えていない。
自分に落胆するほどであったから相当悪い点数を叩き出した気がするが、それでも人文科学は当時問いていた時には難しかったというような所感はなかったとおぼえている。
「わからん。これは覚えていな」
「そうか」と彼は少し残念そうに話す。僕も下手に自分の点数を公開せずにすんで安堵した。
少しの間静寂が訪れた。話す話題がなくなってしまって互いにどこか気まずい状態になる。これを加味すれば痛み分け・・・。圧倒的に僕の負傷率が大きい。
「ともかく、次の段階に入らないといけない。いい加減、彼女とも仲良くするんだな」
彼女というのはやはり、西原のことだろうか。月見里がなぜ僕と彼女がただいま相容れない関係であることを知っているのかは分からないが、もう少し進展が見られたら一度彼女の闘志に再び訴えかけるようなことはしてみよう。
それでも駄目だったら、また次の手立てを考えたい。
まだ、彼女に闘争心が失せているとは考え難い。彼女にとって支え出会ったはずの四十川、その死を容易に受け入れるほど彼女は簡単な女ではないと祈るばかりだ。
「分かった。できる限りのことはやってみるよ」と半ば弱音を吐くと月見里は活を入れるように、
「できる限りじゃなく、やることはすべて全うしろ。そこに悔いの一篇でも残してみろ過去の自分を自分で恨むことになるぞ」と彼は不敵に笑った。
そうだな・・・。悔いはこれ以上残したくはない。
―――僕の決意は堅固になった。




