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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
26/44

ep.26 *

 旧校舎に向かうと、カップルが階段で屯していたところを直撃するように鉢合わせてしまった。その前から話し声が聞こえたから、誰かがいることは分かっていたことだったがまさかカップルだったとは思わなかった。

 こんあ人混みがない場所は逢引にピッタリだとは思うが、変な欲情でやらかしてくれるなよとは思った。

 二人は僕たちを見て少し恥ずかしそうに居住まいを正した。さすがに人気があればやることはしないだろうと少し安堵してが、そんな破廉恥なことを考えていると僕は二人の感情に共感してか。無性に羞恥心を覚えるように視線を誤魔化し反らした。

 旧校舎は基本的に永続的に使用する目処がなかったためか、動線があまりよろしくない。というのも階段が一箇所だけですべての階層につながっている。

 すなわち、僕は月見里のところまで出向くには彼らの横を通り過ぎなければならない。

 極めて一人という理不尽さを感じながらも、僕はそれを余儀なくされて渋々ながらも通ることになった。

 無言で、厳粛に彼らの横を通る。月見里はここをどんな気分で通ったのだろうか。僕と同じようなことを思ったのだろうか。しかし、彼はあんがい図太そうだからそんなことも思わず、闊歩して彼らの横を通りそうなものだ。

 教室に出向くと、今日はカーテンが閉ざされていない。

 窓から教室を覗くと主がないためか存在意義が欠落しているような、一枚の白を塗りたくったようなキャンバスと椅子が寂しく置いてあった。

 今日はいないのかと断念をしたものの、またあの横を通ると考えるとやはり足が重くなる。

 さっきの女生徒の声だろうか上階の廊下にも高い声が響き渡る。歓談を遮るほど僕は嫌なやつだとは思われたくないというのと、さっさと帰りたいという板挟み状態で悶々としながら暇を持て余すのもあれだしと思い、月見里がいつもどんな風景を見ているのだろうかと僕も美術室や理科室においてあるような、ザ・DIYの背もたれもない木椅子に腰掛けた。

 白いレースのようなカーテンが開かれた扉によってたなびいている。

 親指と人差し指で長方形のフレームを作り出して、その連続的な風景を捉えた。

「こんなんで何が描けるのだろうかと思いながら」

 見える景色は定期的で、どこか白波のようにも感じるがだとしても迫力に欠ける。

 教室全体を取ったにしてたって、哀愁感だけで絵に描いたところでどこか凡庸のように思える。

 芸術面に強くない僕からしてみれば豪語できる身ではないが、だとしてバケツはないし筆は乾いている。

絵の具もなく、描いた筆跡は当然ない。

 こんなところでキャンパス構えて何をしているのやらと思い。僕は退屈な時間にさよならを告げて教室を後にした。幸いカップリは校舎から離れてくれたようで、そのまま下って帰路に着いた。

 橫日が僕の影を肥大化させて、まるで長身かのような僕が地面に映る。この時期になってくると、梅雨を思わせるほどの湿気があって帰りの空調が効いた電車はまさに幽霊電車のような肌を冷やす風が巡回している。

 座りながら僕は欠伸をかいて再び眠気が僕を襲う。 不意の内に気を失ったかのように眠ってしまった。電車の揺れがいつ頃かの幼少期を思い出すような心地の良い振動だった。記憶に残らない蜃気楼のような夢を見ていた。

 ハッと目を覚ますと、目の前には帰宅ラッシュで攻め寄せた人盛りで動こうにも動けるほどの余地すらも残さない人で充満して光景であった。

 車内の電気のほうが明るくなって、夜の景色が暗んでしまう。

 途中の複数の線がのっている駅で乗客者の過半数が降りていき、あたりはさっきよりも広く思えがそれでも立っている人がいると伽藍堂とは言えるほどではないが、後は終点で降りる人ばかりだろう。

 僕はその間の駅で降りる。数人の人間が駅を同時に降りて階段を登っていく。

 改札を通って、あたりは夜街一色で賑わっている。酒場からの歓声。闇の中を照らす煌々としたコンビニ。同じ方向を目指す雑踏の中を歩いていくが、駐輪場へと向かう道は街灯で照らされているだけで、どこか足元が心もとない猜疑心を煽り立てる。

 自転車のライトを照らして、駐輪場を後にする。


 道中、店や家屋を隔てた道を通るが暗いために気持ちスピードが上がる。後方からライトを照らした車が僕を追い越していって、再びスピードを加速させて僕を置き去りにする。

 夜中の風は日がないおかげに冷たい風だけが僕に当たる。熱は後ろに置き去りにしてスピードを増す。

 坂道はスーと風の流れを割って入るように下ってゆき、流れるように平らな道へと進む。

 帰宅した家は暗く。人影もない。

 扉を開くとひんやりとした風が肌をなで、闇が堆積しているように電気をつけないと目の前に何があるのかさえわからなくなる。リビングの電気を付けると目が眩惑して瞳を瞑った。 

「うっ」と情けない声を出してまう。

 リビングにカバンを置いて、キッチンの流し場で手を洗う。僕は流れるように冷蔵庫の中身を確認するが、まともなものが残っちゃいない。

 できる料理など簡素なばかり、野菜も肉も魚もまともったものがない。冷凍を探ってレトルトで済ませようかとも思ったがこちらもない。ここまでの不足の状態じゃ飢えたこの腹は救えそうにない。

 インスタントのカレーやら、カップ系の麺類やらも在庫を切らしている。

 近場のコンビニで、買ってくるかと財布をもって外に出かけることにした。夜風は日中と比べても薄ら寒くもあり、僕は少し肌を擦りながらコンビニへと向かい。

 適当にものを取って会計を済ませる。

 いいとしてコンビニ飯とか笑えるなと、自分に憐憫な心持ちを感じながら寒い道を歩いた。

 消し忘れていた電気に少しの期待を抱いてしまった自分が惨めで仕方がない。リビングに入っても人はおらず、虚しく手を洗う。

 独り身の生活というものとはこんな寂しいものなのかと想像しながらも、黙々と器に入った飯を食べ続けて、ガスが通って温かいシャワーで浴びて汗を流す。それがどうしても気持ち悪くて、どうも心が落ち着かない。

 早々に風呂場から上がると、再び冷たい空気が暖かい体を冷やしにくる。

 どこかその冷たさが酷さに感じるながらも、僕はやる用事だけやって寝床に就いた。

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