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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
24/44

ep.24 ep.23の続き

 連続授業のために休み時間を費やして試合は続行した。

 辺りは試合の熱気で十二分に暑いというのに僕を熱射病にするかの勢いをもった光は相変わらず降り注いでいた。

 手にはめているグローブが厚皮であるために熱気が容易にこもる。手汗で皮の素地がむだに水っぽくなっている。

 嗅ごうとは思わないが、たぶん相当臭いんだろうなと想像しながら遠くで盛らがっているホームを眺めている。多分、素人の集まりでこっちには高々と飛んでくるわけはないと思い。後ろを希望した僕は高を括って体を弛緩させている。

 少し朦朧とした中でホーム側が騒がしくなる。一瞬我を失っていたことに気づき、意識を再起させると状況の把握が困難になるほどに色々と言葉が飛び交っている。

 後部に一斉に男子たちが向かってくる。僕に合図を出しているのか。見ろと指図をしているのかは分からないが、とにかく何かを伝えたいのは分かったが、その合図とやらをうまく汲み取れずに彼らの行動がとても遅鈍に見えた。

 とりあえず、見ろとい方向に視線を向けると太陽がギラギラと照らすように照っていて、視界がホワイトアウトするように一瞬目から情報が断切されてしまった。

 細めにしてようやく、眼前にとらえた黄色い球体がくるくると空を転がってらぁと思いながら、僕はそのボールの軌道を追った。

 そうして、ようやく理解した。愚鈍であるのはどっちか、それは後にして僕はそのボールを追うようにして走り出した。

 体が重い。まるで多分に水分を取りすぎたように体が気だるい。

 足元はまるででくのぼうにでもなってしまったのか、スムーズな足運びとはいえない。体調がもう少し良然だったらもう少し早く走れただろうにと、そんな自己分析をしている合間にボールの高度は着実に僕の目と鼻の先にあるはずなのに届きはしない。

 着地をするとバウンドして奥へ奥へと転がっていゆく。

 僕は疲れて足をつきたくなるが、たぶん彼らが赦してはくれないだろう。

 トボトボと進んでいく球を追いかけていく。歩調はこちらのほうが早いはずなのに、一定距離を保ったようにしてボールは先を進んでいく。

 ようやくたどり着いたボールを取ると、こんなものに走らされていたなんてと思うと自分がバカバカしく思えてきてやるせなかった。

 ボールを片手に持って後ろを振り返ると遠目で見ると手を交差して振っている生徒が見える。僕は馴れた腕でボールを飛ばすが思った以上の飛距離はなかったが、二、三回のバウンドを伴ってその生徒の下へと飛んでいった。

 彼はにべもなく踵を返してホームへと向かっていった。

 外野に残されたような気分は僕をゲーム上へと戻すように少しの焦りを生み出した。僕はそれに駆られたように足取りをテンポよく動かしてグランドへと戻っていた。

 走者はホームランということで一点が追加さていた。

 彼らは僕に端から期待などしていないかのように侮蔑するわけでもないが、かなり扱いが粗悪に感じられる。

 

 他の生徒がホームに立っている時、暇で他の生徒はたむろするように一部で集まっている。僕もある人物に近づくように、その生徒に歩み寄る。

「よ!境井」と手を少し上げると、彼は怪訝な顔つきになって僕にむかっていがんでいる。

 僕たちはホームベースから離れて、たむろしている生徒たちからも距離を置いている。まさにはぐれ生徒である。

「さっきはやってくれたな」とあのミスについて悪態をついてくると、いうか開口一番にそんな言葉が出てくるとは相当な嫌われようである。

「別に、僕は君の恋慕とは気にしてないよ。あの顔だ、いくらでも落とした男は数しれずだろう」などとバカにしてくれた仕返しに、僕は彼の傷口に塩をかけるようなセリフを吐く。

「他の奴らと同じにするなよ」

「否定はしないんだな」と揚げ足を取るように、いうとやはり逆上して怒るにも公共の場であるために怒れないという複雑な思いを顔に浮かべている。

「お前みたいなやつは、僕は嫌いだ」

「別に君に好かれたいから近づいているわけじゃない。事件の真相を追っている。それだけだよ」

「・・・・・・」

 僕は話している間に高くボールが打ち上がった。飛んでる飛んでるとボールの飛距離を目に留める。

「僕はお前が思っているような重要な情報は持ってないよ」

 それはこれ以上近づくなということなのだろうか。それはそれでいいが、だからといって彼の孤立には半ば見過ごすことができないために、おせっかいにまだ会話を続ける。

「そんなことじゃなくてもいいんだよ。君が思っているクラスのことで・・・」

 彼は溜め息をついた。僕の引き際の悪さに屈したのだろうか。

「そうだな。まぁ、俺達みたいな陰キャには生きづらいよな」

「そうか?」と僕が投げかけると彼は僕に見限られたように侮蔑的な視線を向けるが、冗談とでも言うように普通の目元に戻る。

「俺は少なくともそう思ってる」

 彼だけは一人闘争していたかのように強い意志を感じた。ある種の共感というやつだったのかも知れない。

「けど、四十川さんは俺にしてもクラス全体にしても救いだったんじゃないか。彼女一人いるだけで、クラスが整理されていた気がする。人のテリトリーを変に犯してくるやつがいないのは彼女が宥めていたからじゃないかな」

「と、いうと」

 僕は聞き返した。テリトリーを侵してくるという独特な言い回しは僕は少し理解しがたかった。

「彼女が死んで西原とかお前みたいなやつらが、出しゃばるようになったんじゃないのか」

 彼は違うのかと首をかしげた。

 そうなのかも知れないし、そうじゃないのかも知れない。西原に関しては接点があったからその説はなりたつが、僕は半ば彼女に動かされているために違うと言えば、違うような気がする。

 僕がホームに立ったのはあれから程なくしてだ。前のやつが三振でワンアウト、選手交代で僕がホームに出る。

 現状を整理すると二塁ワンアウトというかなり余裕がある状態だろう。しかし、僕からしてみれば順々に回ってくるバッタースペースは否応なく立たされるいわば、余裕といっても十分に重責ということだ。僕に今課せられているのはその場でアウトなり、ヒットなりを出さなければならない。さもないと進めないのだから面倒なもので僕は拙いスイングで三回ストライクを言い渡されて、選手交代。

 あそこでホームランでも出していれば、一躍ヒーローで格好が決まるというものだった。

 次のバッターで攻守が交代した。僕にヘイトが向くことはなく、弄りのような言葉が彼にかけられているが、彼はびくともせずにむしろヘラヘラとしているところ。しょうもなく痴話喧嘩以下だ。

 ゲームセット。結局、どこで勝敗を分けたは解からないが、僕たちのチームの負けだった。

 最初から負けていたからそのせいかも知れないし、点数が取れるという兆しがなかったためにチーム全体が敗走という失墜していために負けたのかも知れない。

 どちらであれ、結果は結果として点数に如実に反映されているのだ。もはや、語るは負けたこと以外はない。しかし、誰一人としてその話題を口にすることはない。それは勝者も同じで、素人の草野球以下のゲームはゲームとして成り立っていないのだろう。

 昼休みを迎えるとどっと疲れが押し寄せて、立ち上がる気力さえも薄れる。

 軽い熱中症かななどと思い、持参している水筒を飲み干す勢いで喉元へと流し込んだ。体が内から冷えていくのがわかるが依然として気だるさが拭えない。

 頭をうなだれてそのまま突っ伏してしまう。頭が耗弱して意識が明滅しているようである。

 五限目が起きていられるか不安だ。

 意識が薄弱としたまま昼休みをムダに使い切ってしまった。やることがあったのにと自分が情けなくなる。一方、このくたびれた体に鞭打つのもこれまた自分には厳しいことであったことは言うまでもない。

 五限目。現代文ということもあって、うたた寝に耽ってしまった。

 内容は覚えていない。名も知らない人物が聞こえたのが皮切りに、それ以降の意識がなく。僕は机に顔を埋めるようにして寝てしまっていた。

 声が聞こえてくるのは内省的に分かっていても、それが自分の声なのか。はたまた対外からの声なのかは分からず泰然として眠り続けてしまった。

 肩を触れられてようやく意識が覚醒し直した。

「眠いのは分かるけど、頑張って」と若い国語教師がそんな声を掛けた。女教師が背を向いて登壇するまでを見送った。

 僕は手で顔を拭って起きた。その後は一回集中的に眠っていたおかげで授業は寝ずにそのまま終わりを迎えた。

 黒板には前に起きていた黒板の文字が残りを書き残してあるだけで、最初の方は折り返しによって消されていた。僕は残った分だけをノートに筆記した。

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