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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
18/44

ep.18 *

 もっぱら私は四十川さんの事件について調べるようなことはしなくなった。

 自信の弱さに打ちひしがれながらも、日常と呼ばれる生活を営んでいる。

 別に、面白味もないが苦楽もないという平素なものだった。家に帰れば中間考査のための勉強をするというだけで、あまり活力と呼べるものもなく、家でも学校でも常に深海の底から淡く光っている水面を眺めているようだった。

 四十川さんがいれば・・・、なんて変なことを考えて馬鹿馬鹿しいと自分をなじる。

 最近、小耳に挟む女子たちの噂で岸峰くんから変な視線を向けられるという話が浮上している。

 彼は着々と変人度を増して、クラスから一人だけ気球にでも乗っているかのように浮かび始めている。

 そんな彼におせっかいながらもテストの準備は順調なのかと訊きたくもなるが、そんなことは今の私と彼との間では変に思われる。

 授業中、彼に横目を向けると普通にしているのだが、女子たちのいう視られているというのは自信過剰なのではないかと思いつつも、どこか霧が晴れない感じがある。

 モヤが私の胸に居続けるのはすごく鬱陶しく中間考査に支障をきたすと思い、彼を見るのは止すことにした。

 今日は彼はそそくさと放課後に教室を後にして、どこか行くようであった。図書室でも勉強するのか昇降口ではなく、違う棟に移動するようだった。

 私は彼の後を追うようなことはせずに、私の足は常に帰路に向かっている。

 最寄り駅まで、一人で歩いているとどことなく淋しくもあるが、前の生活と変わっていない。少しの間にノイズのような異変があっただけだと私は過去を顧みるようなことはしようともせずに私は電車へと乗り込んだ。

 女子学生の蛇行しながらも滔々と続く会話が、男子学生の他愛のない笑い声が、騒がさがあった。

 私もあの輪に入りたいとでも思っているのだろうか。嫉妬の表れなのか学生たちの声に嫌気が差して耳を塞いだ。

 呑気な生活に憧憬するような質ではなかったはずだ。


 最近の観察の結果、僕は大方の関係の枠組みを認識し始めてきた。

 時たま、目が合う女子が僕に唾でも吐くように訝しんだ視線を向けるのだが気が休まったものでもなく、だからといって止めることはできない。

 少しの辛抱だと自分に言い聞かせてどうにかこうにか平常を保ちながらも、月見里と意見交換をして全体を把握していく。

「それじゃ、再確認しようか」と彼は僕に持っているノートを読み上げるように促す。

 僕は書記のように彼との談議の始終をまとめ上げて、描いておいたノートがあるのだ。

「中心人物、とりわけうちのクラスじゃ羽振りがあるのは、篠山(しのやま)水瀬(みなせ)吉倉(よしくら)桑原(くわばら)の女子一軍ともでも呼称しておく」

「それで、彼女たちが四十川さんたちの尾羽を追っていた小鳥ということか」

 僕は頷いた。四十川が死ぬ前の仲間の内訳はさほど以前とも変わらず、五月ともなると孤立するやつは孤立するし、数人で動くやつは断固としてその縄を断ち切るようなことはしない。むしろ、外環境が屈強なつながりであるからこそ、抜け出してしまってはどこも入れなくなるという強い軋轢によって、相互的にそのしめ縄を強めているのだろう。

 かくいう俎上した彼女たちも同じ穴の狢であり、抜けた穴があれどすぐさま改善いや、それはむしろ空気が抜ける風船のように、関係は縮小すれど入れる風はないというところだろう。 

「で、男にもそれと交わる」と彼は少し間を用して「いや」とさっきの言葉をなかったかのようにして自分の言葉を打ち消すと、「同等な存在があるのだろう」と言い直した。

 たぶん、交わるという言葉に彼なりの語弊を生むとでも思ったのだろうか。

 僕は変な指向で取るような野蛮な輩ではないのだが、別にそれを目くじらを立て講義するわけもなく、彼の質問に対応する。

「そうだね。うちのサッカー部の連中は男子の中でも顔がある意味顔が広い人物だよ」

「そうか・・・」

 彼は僕の声音から汲み取ったのか後述する。

「どうやら、評判は良くないようだ」

 むろん、彼らは関わりさえ持たなければ、外で眺めている分にはいたって普通の高校生、脚色するならば青春を体現したかのようなという形容文句が付きそうな奴らだ。

「自己主張が強いというか。なんでもかんでも自分たちの思いどおりみたいなところがある奴らなんだよ」

 その分、ガツガツという積極的な面もあるために折衷所を見つけられている人間からしてみれば仲が良く、その行動力でクラスの全体の士気を上げる存在である。

「主導者気取りか・・・」

 月見里は少し冷笑したかのような笑みを見せる。どこか、僕も笑われているようで内心落ち着かなかったが、彼はあえてかは分からないが、何に笑っているのかは明言を避けた。

「では、君のクラスはサッカー部の男子と一部の女子が勢力的にはトップというところか」

 僕はうんうんと横に首を振った。

「目立って、どことどこが派閥争いってみたいのはなかった。いたって平和というかグールプ同士も接触がない分、共存ができているって感じだよ」

 彼の口角が不敵な感情を催させるように釣り上がる。

「そう考えると、やはり四十川(かのじょ)の死が依然として不可解に見えるな」

 確かに、明確になったことはうちのクラスで富はなかったにしろ。名誉や地位は確かなものにしていた。

 そんな中での彼女の自殺というは再考する今に至ってもなお謎が謎を呼ぶというわけではないが、真相の深淵が澱が見えない。

「人間関係は上辺だけじゃ理解しているとはいえない」

 気疲れて首を垂れたくもなるが、そこはなんとか持ち上げた状態で気丈の振りをする。

「フフ、疲れているようだな」

 僕は分かっていながらも、再び試練を突きつけるようなのだから、彼の性格はひん曲がっているといいたくもなるが、彼に働けと言っても規約違反だとか、やならないと一蹴されて終わりだ。

「僕をからかうのはいいから、さっさと次のお題をくれ」

 彼は疲れたさまを見せるよにあからさまにため息を付いた。―――それをしたのは僕の方だ。

「他のクラスメイトも把握はしてるんだろう」

「ああ、クラス全体の相関は把握できていると信じたいところだ」

「そうだな。まぁ、自分を信じろとしか僕は指図はできないからな。話は変わるがそうなら、話は次の段階だ」

「次の段階」と僕は首をかしげた。彼の思惑は僕には分からない。彼の考えていることは僕以上に鳥瞰的に考えているために広大なのである。

「何人かに実際に聴き込め。クラスの些細な変動が集積すれば大いな要因につながっている可能性だってありうる」

「わ、わかったよ」

 彼のその言葉の凄み気圧されながらも、彼の指示に従うように僕は明日から動かないと行けないと考えると少し憂鬱だ。

 一人で行動するのが少しやる気を削ぎ落とす。

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