ep.17 16の続き
「まぁ、そんな工合で僕という知の利を得たのだけれど、どうやら君は見捨てられてしまったようだね」
彼のその言いぶりでは彼女が故意として僕を切り捨てたようで気に食わなかった。
「仮に、そうだとしても僕は僕だけでも動くよ。西原の補填ができるだけのことはする」
「補填ね・・・」と彼は僕の考えを訝しんでいるのか。どこか野良猫から感じ取れる浮草のようなフワフワとしたものを覚える。
「僕は知を売った。君は僕に体を売れというのか」
そういうとまるで男娼のようにも聞こえて、少し語弊があるが一人で聴き込める情報には限度がある。それなら動ける人数が多いことに越したことはないのだから、言い直せば体力を売れと言ったところだろう。
「知力も体力も取るなんて、本当に見返りがないのは嫌だね」とまるで僕の心を透かしたかのようにして彼はそうごちる。
「見返りでどうこうは成功報酬で考えるから、どうか力を貸してほしい」
成功報酬なんて潰しの効くようなことを言ってしまったが、しかし、確かに無理に何かを頼みいれるというのは浅はかであった。せめての見返りは用意しておく必要がありそうだ。
「成功報酬なんぞ、どんな基準で決定するかは知らんが、お前の踏み倒しが効くからな僕は賛同できないな」
やはり、簡単に交渉の席にはついてはくれない。
「なら、西原の同様に知恵を貸してほしい」
「知恵? 彼女にはそうしたから君にもそうしろと」
それはいけなかったことだろうか。現に彼は西原との取り決めがあるし、体を使うようなことはしていないはずだ。
「それなら君はまだ足りない。私が納得できるまで君は自分をさらけ出していなからね」と本当につくづく忌々しいやつだと思いながらも、僕がさらけ出さなければ行けない部分を考えた。
これといって、僕は隠し事をしていない。さしあたっては西原との今回の件に対する熱意の差異はやはり、動機であろうか。
彼の言うのは僕が述べていない動機でも語れというのだろうか。
しかし、それを知ってどうなる。彼にそれを言って、僕の動機は浅慮だと侮蔑されるのもいただけないし、かといって言わないとそれはそれで彼に当たられそうだ。
「ただ、クラスメイトを救うためだけだ」
「クラスメイトを救う?君はそんな質の人間には見えないな」
彼は僕を見透かすように言っているが、これはカマをかけているだけに過ぎないのだろう。彼の洞察力がいくらいいとはいえど、彼にそこまでできるようなそれこそ神の眼でもあるまいし不可能だ。
「純粋にだ。君は疑っているようだが、僕は彼女の真相を知りたい。それだけに過ぎない」
「君も彼女の死を知的ゲームかなにかと思っているのかい」
僕は頭を振った。そこまで彼女の死を低俗に扱う気は毛頭ない。真摯に彼女の死を受け止めているし、彼女の希死念慮がなぜ引き起きたのか純粋に知りたいだけなのだ。
「僕は君とは違うよ」
彼は僕を鼻で笑うように強く息をした。彼はどこまでも僕を疑って仕方がないようだ。
「協力しよう」と彼はようやくその気になってくれたようで、僕は安堵した。「しかしだ」と彼は僕に何を条件を突きつけるように、いや彼は僕を疑ってそれを探るようにしてこちらを視てくる。
僕はつかの間、息を呑んだ。
「君が実際どう思っているか。これが成功報酬に僕だけでいい。教えてくれよ」
僕は僕だけという言葉にひっかかりを覚えながらも、その約束を締結させた。
「これから、君と僕は共闘関係だ」
「違うよ。僕は闘わない、力を貸すだけだ。君は騎士であって、僕が魔術師だ」
あくまで彼は後ろで策を弄するだけの存在と強調したようだ。
「そうだな。戦うのは僕だけだ」
僕も了解したように返事をした。
「早速で申し訳ないのだが、僕に知恵を貸してくれないか。賢者殿」
彼は不敵な笑みを浮かべると同時に、どこかご満悦の顔つきである。
「いいだろう。賢者の名策を受け取るといい」と言って、彼は神のご信託のようにして前からでも考え込んでいた策略を話の中に展開させた。
彼の話によれば、僕たちの行動はムラが有りすぎると断言した。
自分たちのやることに大義名分を生み出そうとするからこそ、反発勢力が生まれるのだという。
「ならば」と僕は聞き返した。
「ならば、名分など捨てて着実に攻めていけばいい」と彼は話した。
確かに、僕たちに大義名分などといっただいそれたものは端からなかった。突き詰めれば、身勝手であり、それが傍から見れば独善で、偽善的に見えたのだろう。からこそ、反発する輩が出てくるということだったのだ。
「水面下で、動けば最低限の圧力しか生まれなくなる」
大衆であったからこそ、多数派の同調圧力に飲まれて流されてしまう。ならば、俯瞰してみれば荒波であろうとも、水面下で行えば同調圧力はなく、凪いでいるのと同様で個々の圧力しか生まれない。そうなれば崩せるところは崩せるそういった理論だろう。
だからこそ、宮島のようなやつができてきてもおかしくはなかったということだろう。
「ならば、片っ端から個人で当たっていけばいいんだな」と僕は頭ごなしにいうと彼は舌を鳴らしながら指を振った。
「そんなやたらめったじゃだめだ。俯瞰して観てみろ。個々のつながりを探れ」
「それがどうなるっていうんだよ」
「そうすれば、波の向きがわかる。人の行動なんてあからさまだ。よく観察すればいとも容易く彼らは本性を見せているはずだからな」
彼の言う通り、僕はそれを日常の中で実践し、クラスの全体の動きを観察し始めた。