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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
14/44

ep.14 *

 あの時の彼女の形相はまさに雪女の如く冷徹無比という言葉が似合うというのと同時に、どこか雪のように儚かった。


 ああ、僕はバカだ。

 今から西原がやったことをもう一度やろうって言うのだから。バカとしか言いようがない。

 幼児退行と卑下したって構わないほどに、バカをやるんだ。教師に怒られようが、彼女に(そし)られようがもはや気にはしない。

 今までは僕が、彼女についてきたが。今からはそうではない。彼女が僕についてくるのだ。

 それきっと、何よりも彼女を再考につながると考えているから―――。

 チャイムが鳴った。廊下は静まり返っている。授業の準備は万全か教師諸君。僕は叛旗の旗を掲げて廊下を走り回りたいが、そこまでやったら本当に頭のおかしいやつだ。

 笑われる分には構わない。そんなやつはほっとけばいい。

 西島が協力的であったように、うちのクラスメイトもやはり彼女たちの同調圧力で言い出せないやつも炒るだろう。

 僕はそんな彼を感化させたい。僕が彼女に誘発されたように、まだ誘発できる人間がいるはずなのだ。

―――四十川と一介の女子学生は一介の学生にあらず、彼女はモデルそのものだ―――

 そして、彼女を再奮起させる。エンジンがかからないなら、ガソリンを入れてやる。それでも駄目なら僕がそのつまみを回してやる。

 

 静寂とした学びの空間を蹴破るように、僕は教室に入った。

 ああ、退学処分をもらったどう親に報告しようか。そんな考えも取り留めなく僕は言動が先に動いていた。

「僕は反抗する」と声を猛々しく放った。

 羞恥心が自分の身体を赤くやつすほどに自分に恥じらいを感じた。

 彼女はきっと、何も見えなくなってしまっている。まず、彼女を救う方法は新しい手立て、吉兆の予感を感じさせるアクシデントさえあればいいのだ。

 僕のこれは直接それに関わるわけではないと分かっている。けれど、間接的にアクシデントへのコネクトできれば、それはこの羞恥心含めて儲けたというものだ。

 だから、「僕は真剣に四十川彩良の事件の真相を調べたい」

 僕は最初に教師の機嫌を見るために、クラスメイトの誰よりも教師に視線を移した。

 分かっていたことだが、目に見えて不機嫌さが伝わってくる。当然だ。授業の出だしで僕がこんなことをするとは計画にも入れていなかっただろうし、それに教師にもコンディションがあっただろうに、その出鼻をくじくような行為は目の上たんこぶのように煩わしいったらありはしないだろう。

 教師は教科書を教卓の上に倒して、溜め息をついてから僕の方へと見た。

「そんなところに立ってないで、座りなさい」と叱ってから、調子をいつも通りもどして授業を再開し始めた。

「僕は、これじゃだめなんだ」

 その声は教室に響くようなものでもなく、誰かの耳に届いているとは思えないほど小さく、独り言のようにして呟いた。

 これでは西原の二の舞いになってしまう。おかしなやつ。バカなやつのレッテル貼りで終わってしまう。

 彼に気づかせてやらなければならない。四十川の死の異変さに。モデルのような彼女が死んでしまった結末を生者の僕たちが考える必要がある。

 人の亡き跡ばかり、悲しきはなし。だからといって、僕たちは偲んでいるだけじゃ、本当に追悼をできているとは言えない。やはり、彼女の真相は解くべきだ。

「僕は四十川さんの死の原因がクラスにあったのかも知れないと思うし、教員側にあったのかも知れし、家族関係、僕たちの知らない四十川さんの関係がそうなのかもれない。

 どれをとっても可能性がある。けれど、彼女を死なせてしまったのは、ひとえに他人行儀なことではないように思う。

 きっと彼女を救いを求めて、手を差し出していたのを僕たちが気付けなかったんじゃないのかって、僕はどうしても思うんだ。僕は彼女が()()()()()()()()()()だからじゃない。一クラスメイトがやむを得ない手立てをとった。そこがどうしても拭いきれない」

 これは僕の身勝手にやはりなってしまう。それを他所に頼るのは間違いなのかも知れないけれど、僕一人ではできない。西原一人でもできない。かといって二人でも駄目だったんだ。

 もはや、クラス全体でやってしまったほうが早いじゃないか。

 三人だったら文殊。ならこのクラス全体なら如来のように事件を悟れるのではないかと思うのはいたって変なことじゃないだろう。

 だから、声を大にして言うよ。

「僕に力を貸してはくれないか」

 教師は盛大に溜め息をついた。

「さっさと座れ、今は授業中だ」といって、僕は教師と見つめ合って何も言わずに席に座り直した。

 きっと、これは間違った選択肢にはなっていないはずだ。

 もう少ししたら、テストだ。さすがにテスト間近ではないにしろ、少しばかり教師側はピリついている。それを汲み取るように生徒側も焦りはじめる頃だろう。

 革新を狙う僕は、授業風景に溶け込むようにしてノートを開いた。

 きっと、あの言葉に感化された生徒がいると願望を抱きながらも、僕は一介の学生にもどったのだ。

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