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彼女がいなくなる頃に  作者: 春と芒
11/44

ep.11 *

 再び連れてこられた職員室の前を素通りして別室へと通された。

 あの部屋と違って区切られた狭い空間は一対一の場であった。たぶん、本来なら学生が先生に勉強の解き方などを訪ねに来たときに使われるものの類なのだろうけど、今日は違う。

「あんなに大声を出して周りに迷惑がかかっているとは思わないのか」

「別に・・・」と不貞腐れた態度を取ると、男の教師は顔をしかめた。いや、私の態度に呆れたのだろう。

「来週からテスト一週間前だっていうのに、やる気が感じられないよ」と一泊置いてから「ほんとに」とため息をこぼした。

 そういえば、再来週にはテストを迎えるということを忘れていた。勉強があまりにと言っていいほどに疎かになっているのは、自分でもすでに自覚済みだった。

「ここは学校だ。勉強をしたい生徒もいるっていうこともわかってほしんだ」

 頭ごなしに怒ることへの意味がないことを知っているのか。その教師は諭すように話を淡々と進めていく。

「お前が四十川の死について重く受けて止めていることは重々承知だ」とそう言うわりにはかなりカジュアルに喋る。所詮は学生と侮っているのだろうか。人間においてこの時期が一番破天荒になりやすいというのにそこまでぞんざいに扱われると、むしろこういった待遇がちゃんちゃらおかしいというものだ。

「私は端から大人を頼るつもりはありません。学生だけで行うからこそが意味があって、教師が野次を飛ばしてくるのは不適切だと思います」

 教師は再び大きく深い溜め息をついた。

「その口は相変わらず減らないな」と教師は小言のようには吐き捨てる。

「私は意見を述べているだけです。それを抑圧するのは大人の対応としてどうなんですか」と私は問いただすと彼は答えるようなこともせずに、顔の前で手を組んで私の顔を凝視した。

「お前は教師の介入が生政治のように思っているようだがな。こっちとしても社会から健全な学生の育成が求められているんだ。お前のような半端者じゃだめなんだよ」

 私が半端者・・・。彼の言っている意味が分からなかった。

 私の行為がまるで愚策だとか愚行だとかと貶されているようで許せなかった。

「その理念から俺達はお前らを更正の道へとしか手を貸せない」

「だから、止めろっていうんですか」

 彼は首肯した。それが彼のできるだけの範囲だと私は納得したし、やはり大人じゃだめだとわかった。

「わかりました。学校が私を矯正しようと言うなら、それに従います。けれど、私はその範疇で暴れることにします」

 また、失敗したと教師は組んでいた手を崩して手のひらを顔に当てた。

「分かってないな」と彼は言葉をこぼした。

 そういうことじゃないのだろうか。規則を守るからこそ、そこに自由が発生するのではないのか。

 私はすでに自由など与えられていなかったということなのだろうか。

「社会が求めているのは端から逆らわないやつだ。それが俺等がいう健全な育成という話なわけだがな」と彼はそう話すと自嘲するかのように、鼻で笑った。

「じゃ、起業家さんたちは健全な人間ではないんですか」

「ある種、そうとも言えるな」となんとも捉えにくい言葉が返ってきた。

「先生は私を叩くんですね」と訊くと彼は顔を引きずらせて苦笑した。

「あまり変なことを言わないでほしいが、お前のような出た釘を打つのも俺等の役割と言ってしまえばそうだな」と彼は屈託なく、そう赤裸々に語った。

「あんまりですよ。こんな一方的なやり方って」と私は思ったやるせなさを口にするしかもはや、手段がなかったのだ。

「やるんだったら、大学とか、もう少し自主性のあるようなところでだな」

 それではまるで大学以下の教育機関が自主性がないと逆説的証明しているようなものではないか。

「だったら、私は何ができるんでしょうか」 

 私は完全に弱り果ててしまった。これからやることすべてに大人という大きな難問が降り掛かってくるって考えるとすべての策が失策に終わる未来しか見えないからだ。

「四十川のことは俺達に任せて、勉強なり、青春なりに大いに謳歌することだな」

「謳歌・・・」

 四十川さんの死の真相を突き止めることが、大学のために勉強するだとか、宮島くんのように野球にのめり込むとか、恋人を作って生活に充実性をもたせるとかにつながったりするとは到底思えなかった。

 けれど、それらを代償に何かを得られると自分の中で錯覚していた。

 四十川さん(かのじょ)は死んだ。あの生意気な女子たちが言っていたように、私の行動や決心は意味がなかったのかもしれない・・・。

「少し四十川さんのことについて聞いてもいいですか」と訊ねると少し困り果てた顔をした頭を捻る。

 あまり公言したくないことだったのだろうか。そうならそうと断ってくれたほうが晴れ晴れするというものだが、こうとも渋られると自分のがめつさが表に出てきて、さっさと教えてくれとせがんでくるのだ。

「内容によってだがな」と渋った尽きに一部限定公開というやつだろう。

「彼女の事件に対してどこまで進んでいるんですか」と訊くと、「進んでいる」と聞き返されてしまった。

 質問が悪かったのかと思ったが、さすが教師というところだろうか。すぐさまさっした様子だった。

「抽象的な質問だが、答えられる範囲で答えるよ」と前置きしてから彼は喋りは始めた。

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