第98話_サプライズ
「あたしがピンチにじゃなくても、馬鹿力を発揮できるようにならないと」
葵に手首を掴まれ、バランスを崩されると同時に、中段にパンチを入れられる。
「うっ」
みぞおちにクリーンヒットして思わずうめいた。
「馬鹿力は、自由自在に発揮できないんだよ。
発揮したあと、すごく疲れるし」
「たしかにな。馬鹿力をつかったあと、光一はいつも数日間寝込む」
「そうなんだよ......あっ」
葵は今度は、俺の襟首をつかむと、足を払った。
仰向けに倒れる。
「ぅう」
情けない声が出る。
葵は俺に馬乗りになると、肘で俺の喉を潰す。
ゴホッ!
思わず、咳がでた。
「このままだとお前は死ぬぞ。ホラ、馬鹿力を発揮するんだ」
「......できないよ」
葵が俺の上に......馬乗りになっている......。
喉をグリグリと潰されて苦しいのに、ニヤケてしまう。
「なぜ嬉しそうにするんだ」
葵が俺の顔をじっと見る。
「んっ......だって......葵に痛めつけられるの好きなんだ」
葵は目を丸くして俺の顔を見る。
「バカ言うな」
というと、後ろにグルンと受け身を取って俺から離れる。
「え~っ!!もう終わり?」
と叫ぶと、
「これじゃ、訓練にならない」
と言って、ため息をついている。
畳に仰向けに寝転がっている俺に、葵が手を差し伸べた。
葵の手を握って立ち上がる。
「そろそろ大丈夫かな......」
葵は腕時計をちらっと見ると
「こっちに来て」
と言った。
「えっ」
長い廊下を歩く。
木製の廊下で歩くとミシミシと音がした。
ガラス戸から外が見えた。
きれいに剪定された樹木や、大きな岩、それに池が見える。
葵は無言で俺の手を引っ張たまま、歩き続けている。
角をいくつか曲がったり、短い階段を登ってるうちに、
ここがどこだかわからなくなってきた。
(とうとう、葵の部屋に行くのかな?うわ~~、緊張する)
胸の高鳴りが抑えられない。
「この部屋だ」
葵は急に立ち止まると、大きなふすまを勢いよく開けた。
「ハッピーバースデー!!光一!!」
中から明るい音楽が聞こえてきた。
8畳くらいの和室に、風船がたくさん飾られ、キラキラした紙吹雪が舞っている。
豆治郎と優香がいて、二人はクラッカーを鳴らしていた。
「えっ......なに!?えっ、俺の誕生日!?」
「そうだよ。サプライズだよ!
光一は、10日前に19歳になった」
「そうだったっけ!?忘れてた」
そうだった。
いろいろあって、自分の誕生日どころじゃなかったんだ。
和室の広いお膳の上には寿司が並んでいた。
「松井に用意させた」
松井さんが部屋の隅で正座している。
「お嬢さま、やはり肉のほうが良かったのでは」
「光一?......どうした」
俺はうれしすぎて言葉も出なかった。
こんなふうに誕生日を祝ってもらったこと、無かった。
親父はいつも祝ってくれたけど、父親の連れ子だった俺は、母親に嫌われていた。
だから親父は、母親に見つからないように、こっそりと俺にプレゼントをくれた。
俺に関するお祝いごとは、いつも「こっそり」行われた。
「光一、嬉しいんだね?」
葵が俺のそばに駆け寄る。
「うん。スゲーうれしい」
恥ずかしくて涙ぐんだ目をあわててこすった。
「寿司たべようぜ!」
豆治郎がまたクラッカーを鳴らした。




