第96話_マンダラ
葵が戻ってきたことで、優香は興奮状態だった。
四六時中、葵にべったりくっついていて俺の入るスキがないほどだった。
葵と優香、それに豆治郎と俺は、大学の帰りにカフェに寄った。
「スイカバナナフラペチーノ!?どんな味だよ。
しかも600円か!!たっかいな......。
俺は白湯で良いんだけどなぁ」
「俺がおごってやるよ。」
豆治郎が財布を出しておごってくれた。
4人でふかふかのソファ席に陣取った。
大きな窓からは駅に向かう人たちの姿が見える。
「葵がいなくなってほんとに寂しかったんだから!」
優香はそう言うと、隣に座る葵によりかかった。
「前にいた......葵の後任の鍵の守り手は?」
「あぁ、あの子なら2日前くらいにいなくなった。
葵が戻ったことで解任されたんだと思う」
「へぇ~。じゃあ、また葵が鍵の守り手になったのか。
危険なことが起きないと良いんだけど!」
葵に寄りかかっていた優香は、今度は向かい側に座っている豆治郎の腕にベタベタと触っている。
どうやら豆治郎と優香はまだ付き合ってるようだな。
静かなBGMが流れる。
ノートPCを広げてなにかに没頭してる人。
スマホをながめている人。
おしゃべりに夢中になってる人。
店内にはいろんな人間がいる。
この人たちと同じ人間が、般若の世界や氷河期の世界にも存在するんだろうか。
俺は、ポータルやトラベラーなんかとは縁を切りたかった。
ポータルをくぐった別世界は、ワクワクするような魔法の世界でもなんでもない。
危険と隣り合わせだし、不気味で不安な気持ちになるような世界だった。
氷河期の世界もそうだけど、般若の世界だってそうだ。
あいつの世界は、外の様子が全く見えなかった......。
きれいな画像はたくさんみせられたけど。
外は一体どうなっているのかと考えると、なぜか不安な気持ちになる。
俺はこの世界で葵と生きられればそれでいい。
ほかはどうでもいい。
警察につかまるのも、もううんざりだし......。
「そうだ!葵と優香に相談したいことがあったんだよ。
軍服ヤロウのせいで俺は警察に捕まった。
その警察署でのことなんだけど......」
「そうだった!光一、どうやって警察から釈放されたの?」
葵がストローをチューチュー吸いながら俺のほうを見る。
「葵......。かわいいな」
「ばか!早くつづきを話せ」
葵が俺をにらみつける。
「女刑事におどされたんだよ」
「えぇ!?」
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俺は檜山礼子とのことをみんなに話した。
「回転寿司の無銭飲食。それにナイフを奪って逃げた動画か」
優香が考え込む。
「たしかに、前科はつくだろうけど。
刑務所に何年もブチ込まれるような罪に思えないけど」
「檜山礼子って、マンダラの人間なのかな」
葵が優香の顔を見る。
「マ、マンダラ?」
また新しい言葉が出てきて、俺は拒否反応をおぼえる。
葵が言うには、政府の中枢や警察の上層部には「ポータル」の存在を知るものがいるらしい。
そいつらは「マンダラ」と呼ばれ代々、古くから世界線の動向を見守ってきた。
「般若の世界のように、テクノロジーをつかったパラレルワールドの監視じゃないんだよ」
葵が言う。
「もっと、原始的な......いわゆる占いみたいなもんなんだ」
「占いねえ」
俺も豆治郎も眉をよせる。
「なんだか、ますます怪しいよな。関わりたくないんだけど」
「光一、その檜山礼子からコンタクトがあったら、必ずあたしに報告するんだよ。
勝手に動いたらダメだ」
葵は真剣な顔で俺に言った。




