第95話_連れ帰った
とうとう、葵を元の世界に連れ戻した。
葵が俺の目の前から消えて.......数ヶ月もの間、絶望を味わった。
何をしててもやる気が出なかったし、食べ物も美味しくない。
生きる屍のような毎日が続いた。
だけど、いま、俺の隣には葵がいる。
別の世界線に飛ばされた葵を連れて帰ってこれたんだ!
葵がいるってだけで、こんなに世界が輝いて見えるなんて。
軍服ヤロウは自分の世界線で葵に出会えなかった。
灰色の日々を過ごしていたんだろうな。
あいつに同情する気持ちが急にわいてきた。
「葵。もう二度と、離さない」
彼女の手をギュッと握る。
「俺はもう、不要だな?」
般若がそう言いながら立ち上がる。
「般若。マジでいろいろありがとな」
「お前のためっていうか、葵のためにやったんだよ」
「やっぱそうか!お前にはお前の世界の葵がいるだろ。
俺の葵にまでちょっかい出すなよな」
俺は般若にむかってシッシと手を振って、追い払う仕草をした。
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葵を自宅まで送った。
自宅の前では、なんと、松井さんが葵のことを待ち構えていた。
「松井さん!どうして俺たちが帰ってくるって分かったんですか」
松井さんは黙っていた。
(羅針盤に聞いたとか?そんなとこか?
......羅針盤がなんなのか、よく分かんねーけど)
松井さんは黙ったまま、葵に向かって頭を下げた。
「お嬢さま、おかえりなさい。
ご不在中の諸々についてご報告があります」
「葵は疲れてんだ。休ませてあげてほしいんだけど」
「分かっております。樫谷さん」
松井さんは俺のほうを見てうなずく。
「葵!明日また大学で」
俺は、桜沢家の門をくぐる葵にぶんぶんと手を振った。
葵は俺のほうを振り向いた。
そのとき、びっくりすることが起きた。
いったんは俺から離れて、屋敷に向かって歩き出した葵が、また俺のほうに駆け寄ってきたのだ。
葵はダッシュで俺の方に駆け寄ると、いきおいよく俺に抱きついた。
「光一......!」
「葵......!?どうした......」
びっくりして葵の顔を見る。
「......っ!ご、ごめん」
葵は、我に返ったような顔をして慌てて俺から離れた。
「ありがとうって。お礼が言いたかったんだ。
あたしを連れ帰ってくれて、ありがとう」
「当たり前だ!
葵がどこに飛ばされたって、俺はなんとかして見つけ出す」
「うん」
葵は、頬を赤くして俺のことを見上げた。
めちゃくちゃ可愛かった。
「今日はゆっくり休んだほうが良い。栄養のあるもの食べて」
葵のあたまをなでた。




