第94話_自分の分身たちにヤキモチ
「葵!よかった。無事で」
俺は葵に駆け寄るとギュッと抱きしめた。
葵は手足を縛られて、可哀想に涙ぐんでいた。
葵の涙を拭いてやりながら
「軍服ヤロウになにかされた?」
と聞く。
葵はブンブンと首を横に振った。
「あいつは、消えた。抹消のトリガーのせいで」
「そうか。俺じゃなくてあいつが消えたかぁ」
葵の手足の拘束を解いてやった。
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「とにかく無事で良かった」
般若が、秘密基地の休憩コーナーにある珈琲メーカーで珈琲をつくって葵に手渡した。
般若と俺は白湯を飲む。
「般若。軍服ヤロウはどこへ飛ばされたか分かる?
あたしをみつけてくれたときみたいに、どの世界線へ行ったのか分かる?」
般若はコクリとうなずいた。
「葵のときと同じ法則だとしたら、軍服は1145H-Bに飛ばされた可能性が高い。
なぜなら、俺の知る範囲のワールドで、光一が存在しない世界はあそこだけだからな」
俺は般若のチョコレートを使った説明を思い出していた。
同じ世界に、同じチョコレートは存在できない。
「1145H-B!?それってどこだよ」
俺は般若に聞いた。
「ニセ葵のいる世界。欲求不満の女の世界だ」
「うわ!マジかよ。それちょっとヤベーな」
あんな世界に放り込まれたら、女どもに何をされるか分からない。
「軍服ヤロウは無事かな」
葵が心配そうに言う。
「どうだろう。でもたぶん、ニセ葵が軍服を助けるんじゃないかな」
「ニセ葵が!?」
葵がびっくりして顔を上げる。
「俺は前にあの世界を調査するとき、羅針盤を動かしたんだ。
1145H-Bの世界線でも、葵と光一の運命が重なるように調整した」
「だけど結局、1145H-Bには俺はいない。死んでしまったかなにかで。
それでニセ葵は俺と出会えなかった」
俺が般若の説明を補足した。
「そうだ。そのときの操作がまだ生きているはず。
だから、ニセ葵と軍服ヤロウはきっと羅針盤の導きで引き寄せられ、出会うはずだ」
「なんで俺ら、軍服ヤロウの心配なんかしてんだよ。
俺は、葵さえ無事なら良いんだ!」
「軍服ヤロウは強引で嫌なやつだったけど。
だけど、根は良いやつなんだと思う。
あたしはアイツが心配だ」
葵がポツリと言った。
「なに!?」
俺は葵の方に向き直った。
「まさか、葵!軍服ヤロウに惚れた?
くそっ、そんなことないよな?」
俺は慌てて、葵の両肩を掴んでしっかりその目を覗き込んだ。
「ほ、惚れてなんか無いよ。心配なだけ!」
葵は慌てて俺から目をそらした。
怪しい。
軍服ヤロウめ。俺の葵を口説いたな。
ここにいる般若も、葵を狙ってそうだしな。
全く、俺の分身たちは油断も隙もない。




