第93話_警察署からの解放
俺は、警察署から解放された。
檜山礼子は俺に言った。
「そのうち、連絡する」と。
あの女に弱みを握られた。
弱みってのは、俺にそっくりな男が寿司屋で無銭飲食をし、ナイフを奪って逃げる動画のことだ。
俺があの女の言うことを聞かなければ、すぐにあの動画を証拠品として提出するって言ってた。
そうなれば、俺はしばらく刑務所から出てこれなくなるって。
檜山はあの動画をタテに、俺になにを頼んでくるんだろうか。
野蛮な女たちを、もっとたくさん通過させろとか?
あの檜山礼子も野蛮な女の世界の出身なのかも。
どうでもいいけど、めんどくせーな。
そんなことより!
とにかく!葵......葵を探さないと!
でも、どこを探せばいいんだ?
「おい!光一!」
後ろから俺を呼ぶ声がする。
般若だった。
般若が警察署のそばで、俺を待ち伏せしていたようだ。
お面を被って怪しげな雰囲気なのに、般若はよく警察に捕まらないよな。
「般若!」
俺は般若に駆け寄った。
「葵は?葵はどこだ」
ガシッとやつの両肩を掴む。
「葵なら、1223H-Aの光一と一緒に、秘密基地にいる。
早く助けに行こう!」
「般若。なんでお前が助けてやらないんだよ?」
「俺は光一のように馬鹿力を発揮できない体質なんだ。
それに、1223H-Aの光一と戦った末にお面を取られたらヤバいだろ。
目があって、抹消のトリガーを発動させたくない」
「抹消のトリガー!そういや、俺は24時間以内に消えるかもしれないんだよな?
あと何時間あるんだ」
「あと3時間しか無い」
般若は腕時計を見るとそう言った。
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【葵】_軍服ヤロウのことが可哀想になる
「あたしに手を出さないって言ってなかったか」
軍服ヤロウは、じりじりとあたしのほうに近づいてきていた。
あたしのほうは、手足をひもで縛られた状態で、イモムシみたいにジリジリと軍服ヤロウから距離を取ろうと必死にもがいていた。
「葵があんまり可愛いから我慢できそうにない」
背中に壁が当たる感触がある。
壁際まで追い詰められたのだ。
「やめろ。あたしに触ればお前のこと、本格的に嫌いになるぞ」
「わ、わかったよ。もうしない」
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「壁の穴開かないなぁ」
軍服ヤロウは、壁をじっと見つめていた。
「故郷に帰りたいのか?」
あたしはヤツに聞いてみた。
「葵と一緒にいられるならどこだっていい」
ヤツはそう言いながらあたしに笑いかけた。
その笑顔は、当たり前なんだけど光一にそっくりで。
胸がギュッと苦しくなった。
「俺は孤独だったんだ。故郷に戻っても孤独だ。
みんな、樫谷大尉!樫谷大尉!と言ってチヤホヤしてくれるけど。
心から俺のこと大切に思ってくれるヤツなんか誰もいないし。
......とにかく寂しいんだ」
「光一......」
あたしは思わず、やつの名を呼んでしまった。
「葵。俺の名前、もっと呼んで欲しい」
軍服ヤロウはあたしのほうに手を伸ばした。
あたしも、無意識にあいつのほうに手を伸ばしてしまう。
軍服ヤロウの手とあたしの手が重なり合った。
「......っ。
葵の手に触れただけなのに、すごくドキドキする」
軍服ヤロウはギュッとあたしの手を握った。
電気のようなものが走り、胸の奥が苦しくなる。
「俺は葵のこと、自分の命より大切だって思える。
何を言っても信じてもらえないだろうけど」
「あっ!こ、光一!お前の身体が!」
軍服ヤロウの身体が薄くなった。
「どうして?葵?俺の身体が!?
どうなってんだ?」
ヤツは自分の手足を見てうろたえている。
「葵。助けてくれ」
「お前は別の世界に飛ばされる。
抹消のトリガーのせいだ」
「葵!好きだ。愛してる」
軍服ヤロウは目に涙をためながら、消えようとしていた。
「光一。大丈夫だよ。死にはしない!別の世界へ飛ばされるだけだから」
「あおい......」
軍服ヤロウはあたしのほうに懸命に手を伸ばしながら......姿を消した。
背後に足音がした。
「葵!!大丈夫か!?」
あたしは目に涙をためて振り返った。
後ろに光一と般若が立っていた。




