第91話_【軍服ヤロウ】_これ以上嫌われたくない
桜沢葵を後ろから羽交い締めにする。
最初、彼女は暴れていたけど、疲れたのか大人しくなった。
どうしてだか分からないけど、この女が好きでたまらない。
いままでだって、いろんな女と遊んできたのに。
この女に対する気持ちは特別だ。
俺はこの桜沢葵をひと目見た瞬間、心を撃ち抜かれてしまったんだ。
葵がこの腕の中にいる。
そう思うだけで、不思議と安心するし、心が休まった。
「この世界はなんなんだ?」
地下へ降りる箱の中で、俺は彼女に話しかけた。
「お前の世界とは別の世界だ」
葵は俺の腕の中でじっとしていた。
小動物みたいでかわいい。
桜沢葵の血の跡を辿って、おかしな暗闇のトンネルを抜けた。
するとこの不思議な世界に出た。
さっき入った場所では食べ物がベルトの上に乗って運ばれていた。
俺はそれをひとつ食ってみた。
うまかった。
今まで食べたことのない味に胃が驚いて、その場で吐きそうになったくらいだ。
俺は、ベルトの上の食べ物をどんどん食べた。
そのあと、武器を奪って、ベルトの部屋から逃げ出した。
その後。
俺は桜沢葵を本屋の建物の影で待ち伏せした。
きっと彼女は、ここにまた現れる。
ワケが分からない場所をウロウロするのは得策じゃない。
ウロウロ歩き回ることは、カロリー消費につながる。
カロリー消費の行き着く先は「死」だ。
とにかくここで待ち伏せをしよう。
さいわい、ベルトの部屋で腹いっぱい食べたお陰で、カロリーは持ちそうだった。
あと1日......まっても来なかったら、元の世界に帰ろう。
あの本屋の地下に、自分の故郷にもどる「穴」が開いているはずだ。
そう思ったとき、桜沢葵が現れた。
俺にそっくりな男と一緒に。
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地下に降りる箱の扉が開いた。
だだっ広い空間に出る。
部屋はガランとしていた。
「俺が倒した奴らは?」
「みんな病院に運んだんだ。誰もいないよ」
葵が言う。
「なぁ。あの男。俺にそっくりな男。あいつはお前の男なのか」
葵は急に俺の腕の中で暴れだした。
「離せ!そうだ!アイツはいまごろ、警察に捕まって困ってる!
なんとかしなくちゃ」
俺は葵の両手首をつかんだ。
「前みたいに、無理やりおまえに手を出したりしない。
これ以上、俺は葵に嫌われたくない」
「嫌われたくないなら、あたしを自由にしろ!」
葵は俺をにらんでいた。
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【光一】_謎の女との会話
俺は病院から警察署へと連行された。
留置場に閉じ込められる。
(葵。無事かなぁ。般若がどうにかしてくれてるかな?)
俺はそればかり考えていた。
「樫谷光一。取り調べだ」
警官に呼ばれて俺は立ち上がる。
ようやく、出してもらえるのか?
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取調室のドアを開くと、小さなテーブルの向こうに女が座っていた。
俺を連れてきた警官が、部屋の隅の机に腰を掛けようとすると、女が
「二人きりにして」
と言う。
「しかし......決まりですから」
「あたしの言うことが聞けないの?」
女が冷たい声でいうと、警官は黙って部屋を出ていった。
「あたしは警視庁の特殊課所属の檜山礼子」
俺の目の前に真っ白なスーツをビシッと着た眼鏡の女が立っている。
「あなたの罪状は無銭飲食。業務妨害、公務執行妨害」
女は冷酷そうな笑いを見せた。
「あなたはじきに拘置所に送られる。
大学は退学処分でしょうね
拘置所では丸裸にされて尻の穴まで調べられるわよ」
「......っ!なんだよそれ」
「当然よ、あなたは犯罪者の仲間入り。
将来の就職も厳しくなるでしょうね」
「俺は何も悪いことしてない!
無銭飲食ってのは、俺のドッペルゲンガーがしたんだ。
警官に暴力を振るったのは、さすがに反省してる......」
「ドッペルゲンガー......ねぇ」
ふふふと白いスーツの女は笑った。
「頼む。ここから出して欲しい」
「出してあげられるわよ?」
女が笑う。
「まずこれをみて」
女がスマホを俺に見せる。
スマホでは動画が流れていた。
回転寿司で、俺のドッペルゲンガー「軍服ヤロウ」が、寿司をたらふく食べている動画だった。
軍服ヤロウは恐ろしいスピードで寿司を食べ終わると、厨房に走りナイフを奪う。
そして、カネを払わずに店から飛び出した。
「一連の犯罪の証拠。店の防犯カメラよ」
「だから、それは俺じゃないんだって」
「別の世界線から来たあなたなのよね?
ワールドナンバーはわからないけど、ポータルを通ってきた」
「......えっ!」
俺は女の顔をまじまじと見た。
「俺の話を信じてくれるのか!?」
女にすがりつく。
「ポータルは政府でも一部の人間しか知らない。
山口優香が暗黒の分岐への鍵。桜沢葵は、その鍵を守っていた」
「何だよ!全部知ってんじゃねえか!」
俺は立ち上がった。
「シッ」
女はあわてて、俺の口に手を当てた。
「大声出さないで。ここのバカなヤツらが飛んでくる」
「あなたに提案があるの。この動画を世間に流されたくなかったら、
我々の命令を聞いて欲しい」
「......なに?」




