第9話_行動力
「エィッ」
「オッ」
みんな口々に何かを叫びながら、突きや蹴りを繰り出している。
俺もわけが分からなかったが、みんなのマネをしてみた。
俺の隣では、豆治郎がゼイゼイ言いながら、ゆっくりとした突きを繰り出している。
豆治郎は体力が無いようだ。
葵ちゃんの入っている部活は体育会系の少林寺拳法部という部活動だった。
どうやら、空気を殴ったり蹴ったりする部活のようだ。
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数時間前。
「俺はとにかく葵ちゃんと同じ部活に入る。
いま、入部届も出してきたところ」
豆治郎にそう宣言した。
「いや行動力」
豆治郎は驚いていた。
「豆治郎ももちろん入るよね?」
「えっ......俺......?俺、運動は超、苦手なんだけど。
ましてや武道なんて、無理、無理」
「だけど、豆治郎は俺のサポートをするように、雇われているんだよね?
俺一人だと、葵ちゃんにフラれる可能性が高い。助けてほしい」
豆治郎はしばらく黙り込んで、俺を睨んでいた。
「くそっ。お前らが付き合ったら、俺はすぐに部活なんてやめるからな」
「よかった。豆治郎がいると安心だな」
そんなやりとりのあと、俺と豆治郎は少林寺拳法部の門を叩いた。
道着を持っていない俺たちは、体操着で武術をはじめた。
俺は、練習をしながら、葵ちゃんの姿を目で探した。
彼女は小さいから見つかりにくい。
しかもみんな同じ、白い道着を着ているから、見つけにくかった。
キョロキョロとしていると、日本人形と目があった。
日本人形は、顔を赤くすると、すぐに俺から目をそらした。
練習が終わると、女子部員が俺と豆治郎の周囲に集まってきた。
「樫谷くん、カッシーって呼ぶ?」
「えっ。カッシーなんて、呼ばれたこと無い。
光一でいいよ。豆治郎のことも、豆治郎って呼べばいい」
「ほんとにウチの部活に入ってくれるの?男子部員少なくて困ってたんだ」
たしかに、部員の8割が女だった。
「少林拳?って、男が好きそうなスポーツだけど?どうして女の子が多いの?」
女の一人が答える。
「少林拳じゃないよ!少林寺拳法だよ。
わりとうちは、女子が多いの。主将にあこがれて入ってくる子も多いのかな~」
「主将?」
「樫谷くんと石井くん!」
日本人形がやってきた。
「あっ!彼女がうちの主将だよ。主将の山口優香」
日本人形は山口優香と言う名前で、しかもこの部活動のトップらしい。
主将がやってくると、他の部員たちは、散り散りに解散していった。
「部活に必要なものは、このサイトで買えるから。
とりあえず、道着があればいいだけ。防具は保有してるし」
山口優香は、俺とは目を合わさずに豆治郎ばかり見ている。
「山口さん。昨日のことなんだけど......」
俺は告白は間違いだったことを言おうと口を開いた。
「入部までしてくるなんてびっくりした。
一回くらいなら、デートしてもいいけど」
山口さんは小声で俺にそう言った。
「デート......?」
首をかしげる。
山口さんとデートしても、俺は楽しくない。
そのとき俺の頭にものすごいアイデアが浮かんだ。
葵ちゃんもデートに誘えば良いんだ!
「桜沢さんと4人で遊ばない。
桜沢さんと山口さんと俺と豆治郎。
4人でどっか行こうよ!」
今日の俺は頭の回転が良い。
豆治郎のサポートなんかいらないじゃないか。
「葵も......?うん。いきなり2人きりになるよりも安心だわ」
山口さんはそう言うとうなずいた。
「やった!めちゃくちゃうれしい」
俺はガッツポーズをつくった。
どうだ?豆治郎!
俺、すごいだろう?
そう思って豆治郎の方を見ると、やつは、死んだ魚のような目をしていた。