第86話_もとの世界へ
もとの世界へ戻るためのポータル。
それは般若の研究室にあるということだった。
俺たちは狭いカヌーのような乗り物に乗せられた。
小さなカヌーはチューブの中をものすごいスピードで走った。
「外の風景が、一切みれないんだな。
チューブのそとは暗闇。病室も壁はコンクリで窓がなかった」
「外は見ないほうが良い。がっかりするぞ。
この世界にもこの世界なりの問題点があるんだ。
お前たちの世界は本当に恵まれてる。
そのことを肝に銘じてだな」
「それよりポータルはまだかよ」
俺は般若の説教がうざくて、ヤツの言葉をさえぎった。
般若は、俺の葵の前で、良いカッコをしようとしてるのが見え見えだ。
「あと少しで着く。次はこっちだ」
カヌーが停止すると、チューブがパカッと開いた。
俺たちは開いたチューブから出て、今度は真っ白なベルトの上に乗る。
ベルト自体も透明なチューブで覆われている。
斜め上に向かうベルト、斜め下に向かうベルト、右方向へ行くベルトなど
さまざまな方角へ向かうベルトが交差していた。
それぞれ、人が乗っている。
「この世界の人間たちだな」
俺はキョロキョロとあたりをみまわした。
「このまま、しばらくかかる」
般若が言った。
「ベルトコンベアに乗せられた回転寿司の寿司になった気分だな」
葵のほうを見ていった。
葵はだまっている。
元気がない。
般若に聞こえないように小声で話す。
「葵。達治のこと......心配なんだな」
「だって。達治はあたしの弟みたいなもんだ」
葵は実の姉や兄に可愛がられなかったって言ってた。
だから自分を慕ってくれる達治のことが余計に可愛いんだろうな。
「達治がうらやましいなぁ!」
思わずそんなことを言ってしまった。
「なんでだよ」
葵が俺を見上げる。
「だって、葵にそんなに大事に思ってもらってさ」
しばらく黙り込んだあと、葵が思い切ったように言った。
「光一はあたしの気持ちがわかってない。
あたしは、光一がいなければ、氷河期の世界に今すぐにでも戻る」
「......えっ?」
「光一はあたしが氷河期の世界に行ったらどうする?」
「俺も行く」
即座に答えた。
「それがダメなんだ。あの世界ではきっと人間は長生きできない。
食べ物もないし、光が弱い」
「うーん。どういうこと?俺がついてくるから、ダメってこと?」
葵の言ってる意味が分からなくて首をかしげた。
「そうだよ。光一。あたしは達治より光一を選んだ。
光一を早死させる訳にはいかない......」
葵が小さい声で言った。
俺は黙って葵の手をぎゅっとにぎった。
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「葵。やっと元の世界に戻れるな。
般若。このポータルは、元の世界の古本屋の地下に繋がってんだよな?」
般若の研究室。
研究室というのだから、実験道具とかパソコンとか、変な薬品がたくさんあるのかと思った。
だがあるのは、ロボットが何体かと、広いつくえだけだった。
壁にポータルの口が開いている。
「そうだよ。このポータルは常時開いてる。
俺に会いたくなったら、古本屋の地下に降りてポータルを通れば良い。
ただし、顔は隠してくれよ。俺は抹消のトリガーにかかるのはゴメンだ」
「そうだな。俺も困る」
葵が俺を見上げてニコッと笑った。
「いこう。もとの世界へ」
「うん」
「俺もあとから行く。お前らの5分後くらいに着くようにする。
お前らが無事、自分の世界にたどり着いたのをこの目で確認しておきたいんだ」
般若が言った。




