第84話_自分の居場所
俺の病室で、葵といろいろなことを話した。
葵が消えてしまったあと、優香を守る新しい「鍵の守り手」が現れたこと。
豆治郎と優香が付き合ってるらしいこと。
俺は部活を休み続けていること。
そういえば、こんなに大学を休んでしまって、単位が取れるのかどうか危うい。
「そっかぁ。新しい鍵の守り手が......。元の世界にあたしの居場所はあるかな」
葵が寂しそうに言った。
「あるに決まってる。俺の隣だ」
葵の頭をなでた。
「でもよかった。山口先輩を守ってくれる人間がいるなら安心だ。
しかも山口先輩は恋愛してるんだね」
「豆治郎は案外、面白いやつだから。
......とか言って、元の世界に戻ったら、すでに別れてたりしてな」
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「般若......今日はもう現れないみたいだね」
「そうだなぁ。俺たちの退院は明日なのかなぁ」
般若はいっこうに現れないし、医療用ボットは「カプセルにもどれ」とうるさい。
葵はぜんぜん、イチャイチャしてくれなかった。
だけど葵の顔を見て、会話してるだけで、俺は幸せだった。
ずっと見ていて飽きないし、葵は何をしていても可愛い。
葵はやがて「自分の部屋で寝る」と言って出て言ってしまった。
「ロボット!部屋の風景を変えて!ジャングルが良いな」
「あっ!つぎは、超高級なホテルにして」
俺は、ロボットに次々に命令して遊んで......やがて疲れてきて眠った。
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翌朝、葵と一緒にカフェテリアで朝食を食べた。
食べ物はすべてボタン一つで出てくる。
「葵。この豆のスープうまいよ」
「へえ。後で飲んでみようかな」
そんなことを話していると、
「おはよう」
般若が現れた。
やつは、顔そのものを、般若の画像にすり替えていた。
「般若のお面じゃない!リアルだな」
「お面より安全だよな。脱げる心配がない」
「さて。お前たちを元の世界に戻すよ。
俺の研究室に1142H-Aへのポータル座標が準備できてる」
葵は急に立ち上がった。
「待って。般若。あたしは、氷河期の世界......あの世界に戻りたいんだ」
「えっ」
般若がびっくりして葵の顔をみあげる。
「どうして?怖い目にあったんだろ」
「あたしは、あの世界においてきた達治って子に、もう一度会いたいんだ」
葵は、俺と般若に達治との思い出を話してくれた。
老婆の家で世話になり、老婆の孫の達治と一緒に過ごしたこと。
葵にとって大事な弟のような存在であること。
「たしかにあの子は、葵を守ろうと必死だったな。
兵士が後ろから葵を斬り捨てようとしたとき、
あの子は兵士の足にタックルしたんだ。
俺より動きが素早かった」
「般若......あたしの無事な姿をあの子に見せてあげたい。
今すぐじゃなくてもいい。いったん自分の世界に戻って......。
そうだ通過袋!あれを取り戻せば、あの子に食べ物を持って行ってあげられる」
「......葵......残念だけど、願いは叶えてあげられないよ」
般若が静かに言った。
「えっ?ど、どうして!?」
葵が般若に詰め寄った。




