第83話_抱きしめる
「あなたの傷はまだ完全に治ってない。
カプセルに戻るべき」
ロボットがうるさく俺に話しかける。
「カプセルに戻る気は無いよ」
ロボットが持ってきた衣類に袖を通しながら答える。
葵は俺が着替えているあいだ、そっぽをむいていた。
「そのロボット、医療用ボットなんだって。
この世界では、ロボットが医者らしいよ」
葵が言う。
「ふぅ~ん。仕事がロボットに奪われるってやつだな?
それにしても殺風景な部屋だなぁ。
灰色の壁に床。監獄みたいだ」
「部屋のスクリーンを起動します」
ロボットがそう言うと、それまで灰色だった壁がとつぜん、森林の画像に置き換わった。
鳥の鳴き声が聞こえてくるし、遠くには湖が見える。
森林の香りまでしてくるようなリアルな画像だった。
「スゲーな。もっと違う画像もあるの?」
ロボットに聞いてみた。
「あります」
ロボットはそう言うと、空中に浮かぶパネルを操作して別の画像を見せた。
巨大なビルがいくつもそびえ立つ都会の画像だった。
「うーん。そうだな。もっとロマンチックなのがいいな」
俺がそう言うと、ロボットは
「こんなのはいかがでしょう」
と言い、また画像を変えた。
でてきたのは、夕暮れどきの草原。
巨大な木の根元に、きれいな花がさき、芝生が風に揺れている。
「うん。これがいい」
葵に視線をおくる。
「葵......。俺は葵が消えてほんとにツラかった」
「うん......見つけてくれてありがとう」
葵は小さくうなずく。
「消える直前に、俺に言ってくれたこと、覚えてる?」
葵は、あわてて俺から視線をそらした。
「大好きだ......って言ってくれたよね?結構前から好きだったって」
「そんなこと、言ったかなぁ」
「言ったって。覚えてるくせに」
「あのときは......こ、混乱してたから」
俺は葵のそばに近づいた。
彼女の両手をにぎる。
「もう離れたくない」
そう言うと、彼女を抱き寄せた。
柔らかくて温かい、彼女の体温が体に伝わってくる。
キスしたいな......と思って彼女の顔を見ると、
「やめろ。なんだか恥ずかしい」
と言われ、両手で押し返されてしまった。
「大好きだって言ってくれたこと、ぜったい忘れないから」
「聞き間違えだと思うぞ。あたしは、そんなこと言ったかどうか分からない」
そんな言い合いをした。
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「そういえばさ、般若はいないの?」
「般若は自分の研究室だかなんだかに戻った。
あたしたちが元の世界に戻るとき、またポータルを開きに来るって言ってたけど」
「そっか。はやく元の世界に戻りたいよな。
もうポータルだとか、別の世界線だとかは縁を切りたい。
俺は葵がいればそれで満足だし、ほかのことはどうでもいいんだ」
葵は首を静かにふった。
「あたしは、達治に会いたいんだ」
「えっ......あの、子ども?」
葵はコクンとうなずいた。
「あの子はあたしの弟みたいなもんだ。
無事でいるかどうか......すごく心配なんだ。
それにあたしのこともきっと、心配してると思う。
だからまた、あの世界に戻りたい」
俺は葵の言葉を聞いてだまりこんだ。
あの世界は危険な世界だ。
葵にはもう二度と危険な目にあってほしくない。
「葵が行くなら、俺も行く。
ポータルを開くのは、般若に頼むしか無いけど......」




