第82話_悪夢
俺はもう一人の俺と戦っていた。
そいつは、すばしっこくて力も強かった。
俺はそいつに、思い切り殴られる。
それから指をつかまれて捻り上げられた。
指に鋭い痛みがはしる。
あちこち殴られて体中が悲鳴を上げる。
だが俺も負けてない。
俺も、そいつの顔面に思い切りパンチを入れた。
クリーンヒットだ。
そいつは血を吐きながら吹き飛び地面に崩れ落ちた。
そのとき、葵がどこからか急に現れた。
「光一!光一!」
そう叫ぶと、地面に倒れているもう一人の俺に駆け寄る。
「葵......ちがうよ!俺がホンモノの光一だ」
葵にむかって叫ぶ。
だが葵は
「こっちに来るな!下級生物のウジ虫め」
と言って俺をにらみつけた。
「光一、大好きだよ」
葵はそう言うと、倒れているニセモノの俺を優しく抱き寄せた。
ニセモノの俺は、葵の頬に手をあてて、葵にキスをしようとする。
「葵!そいつはニセモノだって!俺がホンモノの光一だってば」
二人は俺のことは無視し続ける。
二人のくちびるが触れあう。
俺の目の前で、ニセモノの俺と葵は激しくキスをしはじめた。
ニセモノは、俺の方に視線をよこすと、ニヤリと笑った。
「くそ!やめろ......。葵は俺のものなのに......」
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「......ハッ」
俺は目を覚ました。
(夢だったのか。嫌な夢だった)
(ここは......どこだ)
身体を動かそうとしたけど、何かで固定されていて、動けない。
(たしか......般若に連れてこられて......葵!?葵は無事なのか!?)
ぼんやりとしていた視界がクリアになってくる。
視界に飛び込んできたものに、俺は息を呑んだ。
「なんだっ!?変なものが張り付いてる!」
俺の周囲を覆う透明のプラスチックの上に、女の顔が張り付いていた。
ほっぺたが、ビヨーンと伸びていて、変な顔になってる。
よく見ると......
「えっ!?葵!?」
プラスチックに張り付いているのは、葵の顔だったのだ。
俺は透明のプラスチックをコンコンとそっと叩いた。
体は動かないけど、手だけは自由に動かせるのだ。
「あっ!?指が治ってる」
失ったはずの指が元通りになっていた。
曲げ伸ばししてみても普通に動いた。
(スゲーな。般若の世界の技術は)
コンコンとまたプラスチックを叩くと、葵の目が開いた。
あわてて、顔をあげると、口についたよだれを拭いている。
「アハハ。葵。かわいいな」
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やがて真っ白なロボットがやってきて、俺を覆っているプラスチックを開けてくれた。
ロボットは、
「驚くべき回復力です」
とかなんとか言っている。
「光一のこと見てたら、いつの間に眠ってた」
葵は恥ずかしそうに笑った。
「葵」
俺は自分が素っ裸なのに気づいたけど、そんなこと気にしてはいられなかった。
「葵!!良かった。背中の傷は?剣で切られた......」
「あたしの傷は、かすり傷だったよ!
光一はバカだよ。あたしのことなんか放って逃げればよかったんだ」
葵は俺をにらんだ。
「かすり傷?だって血が出てたよ!?葵は顔が真っ白だったし」
「栄養不足だったから、顔色は元々悪かったんだ。
それに貧血気味だったみたい」
「とにかくよかった。葵!!抱きしめさせて」
俺は立ち上がると葵に向かって両手を広げた。
俺の腹の上に乗っていた薄い布がハラリと床に落ちる。
「光一!そのまえに服を着て欲しい......」
葵が顔を赤くして目をそらした。




